第13話 ”ナノコリ”の正体

 翌日、神崎たち3人は、昨日割り出した名残の元嫁の実家の住所に来ていた。

昨日のアパートからだいぶ離れた、京都の山の麓にその家はあった。

「よし、じゃあ名残についての聞き込みを再開しましょう。上手くいけば、今日中に居場所が分かるかもしれないわね。」

そう言ってインターホンを押そうとする神崎だったが、突然、ある男に呼び止められた。

「神崎さん。立花さん。そして犀川さん。そのインターホンを押す必要はありませんよ。」

振り向くと、見た感じ30代後半くらいの汚いつなぎの作業着を着た男が立っていた。3人の知らない顔だった。しかし、彼はこちらの名前を知っていた。

「待ってましたよ。初めまして。名残と申します。」

見た目に似合わず上品な京都弁だった。

「な、名残?なんで・・」

訳が分からず、犀川は聞いた。

「名残怜宗ね。その言動からすると、やはりあなたは未来を見通す力をもっているようね。」

神崎は強気に聞いた。

「ええ、そうです。ま、ここじゃあなんですから。あんたらがこれから手配する僕の隠れ家に行きましょか。」

名残は優しい目をして、しかし真顔でそういうと、ついてこいと言わんばかりに歩き始めた。

「ちょ、ちょっと。あなたはこれから本部で厳重に管理されるのよ!人権でも使おうってのならこっちはあなたが過去に犯した犯罪を使うわよ!」

神崎は勝手に歩き出す名残に向かって言った。名残は立ち止まり。振り向いて表情一つ崩さず言う。

「いやいや、人権なんて使いませんよ。あんたらが僕を連れていくんです。理由は、これから分かりますわ。」

名残がそう言い終わった瞬間に、神崎の携帯が鳴った。

「はい第十班神崎。はい、今名残を保護しました。え、どういうことですか!!??・・そんな・・・・はい・・わかりました。」

神崎は怖い顔をして電話を切った。

「どうした?」

立花が訪ねると、重苦しい口調で神崎が答えた。

「填島さんが、失踪したわ。」

「「!!??」」

犀川と立花が驚く。

「なんで!?逃げたのか?」

立花が聞く。

「分からない。でも填島さんの部屋には争った跡があった。填島さんの血痕も残ってたそうだわ。不思議なのは、侵入者はどこにも確認されなかったこと。私たちの中に裏切り者がいるかもしれない。だから、とりあえず名残は別のところで監視しておくように。と。」

神崎は、頭の中を整理しながら言った。

「さあ、行きましょか。」

名残は言う。



結局、名残に言われるがままにアパートの一室を借り、とりあえずはそこで話を聞くことにした。名残いわく、初めからここになるのは決まっていた。らしい。

「で、名残怜宗。あんたの能力はとりあえずは信じるわ。あんたなら、填島さんがどこにいるか分かるんじゃないの?」

神崎は少し強めに問い詰めた。しかし、名残は臆することなく返す。

「ええ、わかりますよ。でも、あんたらの為にもそれは言わんほうが良い。」

「ふざけないで!言いなさい!填島さんは生きてるの?」

「まるで僕がさらったみたいな言い方やね。まだ生きてますよ。でも、どこにいるかは言いません。あんたら、全滅しますよ?」

名残は無表情で神崎を見つめる。神崎は少しぞっとした。おそらく、名残が嘘をついていないと直感したのだろう。

「あ、あの。俺も聞いていいか?名残、なんでお前は今日になってわざわざお前から会いに来たんだ?それなら最初からお前から来ればよかったんじゃないのか。何か意味はあるのか?」

犀川が聞く。神崎と立花もそういえばそうだ、という顔をした。

「僕はね、未来が見えるようになってから、決めたことがあるんです。それは、何よりもまず自分を優先すること。未来っちゅうのは一つに決まってるもんやない。自分の行動一つで世界が滅ぶ未来もある。自分だけが助かって他の人類が全員死ぬ未来と、自分だけが死んで他の人類が全員助かる未来やったら、前者を取ろうと決めました。それ以来、僕は自分が思う最善のタイミングで自分の行動を決めてるんです。」

名残は淡々と答える。出会った時から一貫して無表情だ。

ここで、神崎がしびれを切らしたように立ち上がった。

「ああもう!まわりくどいわね!立花と犀川は名残の護衛を続けて頂戴、私は一旦本部に戻って填島さんの方の状況を聞いてくるわ。」

「お、おお。気をつけてな。」

犀川がそういうと、神崎が振り向いて言う。

「あんたらも、気をつけなさいよ。名残がここにいることはPsychicsのメンバーにも言っちゃだめよ。もう、誰が敵なのか今は分からないんだから。」

そういうと、神崎は消えていった。

「犀川、名残の話はお前が聞いてくれ。正直、バカな俺は話に全くついていけん。こいつが何を言っているのかわからん。」

立花が言った。犀川は少し面倒だったが、了承した。名残に興味があったのだ。

「じゃあ、名残。お前はどういう経緯でその能力を手に入れたんだ?」

「忘れました。未来のことが見えすぎてしまうと、過去のことは忘れやすくなるみたいですね。まあ、先に起きることが分かってしまうことほどつまらんことはないですよ。僕がこうして怪しいスーツのお兄さんに素直について来たんも、あんたらが僕を殺すことがないとわかっとるからや。まあでも、僕は殺されるんならPsychicsの組織の人が良かったかな。」

「一聞くと十話すなお前。疲れるよ。あと、殺されるとか物騒なこと言うな。一応俺たちは護衛だぞ。」

犀川が頭を抱える。

「分かってますよ。ただね、こうも長いこと未来を見続けると、もう自分が死んだ後の世界とかどうでもよくなりましたわ。そんで途中からは自分がどう死ぬかしか見てへんのです。あるいは30年後か、あるいは50年後か。自分という人間がどういう風に死んでいくのか。そればっかり見てました。まあ、今はもう自分の目先の事しか見いひんようにしてますけどね。」

相変わらずの無表情で、今度は犀川をじっと見つめて、名残は言うのだった。

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