第12話 能力のないPsychics

 大家の家を後にした第十班の三人はその後すぐにアパートへと向かった。

若者はアパートの前で名残に会ったと言っていた。しかし、やはりそこにはもう名残と思わしき人物の姿は無かった。

「まだこの近くにいるはずなんだけど、ここは奥さんの住所を割り出すしかなさそうね。」

神崎は焦って言う。

「でも、実家の住所って調べて出てくるもんなのか?今は名残って苗字じゃないんだろ?」

犀川は聞いた。

「ええ、今は、ね。名残が30歳の時に離婚した。つまり、今から5年前のその記録を調べれば、今の奥さんの苗字も実家の住所も割り出せるわ。」

「国家権力って怖え。」

犀川はぼそっと呟いた。

「ともかく、一旦本部に戻りましょう。」

そうして一同は、一度本部に戻ることになったのである。



本部の廊下にいきなり戻った犀川たち、その瞬間、犀川は誰かとぶつかった。

柔らかい感触と甘い匂いがした。

「あ、すみません突然!」

犀川が反射的に謝罪し、相手を見るとそこには長いロングの髪に少しパーマのかかった、癒されるような雰囲気で眼鏡をかけた可愛らしい女性がいた。

「いえ、大丈夫です。私も注意していなくて。」

少しずれた眼鏡を直しながら、しかしかわいらしい笑顔でその女性は言った。

「良子ちゃん、大丈夫?ごめんねこいつドジで冴えない顔で。」

「神崎さん!なんだかお久しぶりですね。全然大丈夫ですよ!」

どうやら神崎と仲がいいらしい。なるほど、確かに神崎と歳が近そうだ。

「おい、顔は関係ないだろ。それにここに飛ぶように指示したのはお前だ。」

犀川は神崎に反抗した。

「あはは、面白い方ですね。犀川さんは。」

と、その女性はさらに笑う。

「え、俺の名前。」

犀川は自分の知らないはずの女性に名前を呼ばれ、思わず聞いてしまった。

「ああ、犀川さんは有名人ですから。入隊試験の筆記で過去最高点だったって。」

その女性は言った。

(うおおお、勉強だけの人生が、今花開いたあああ!!!)

「え?そそっそうですか?いいやあぜぜ全然でしたお」

犀川は舞い上がる。あからさまに鼻の下を伸ばしていた犀川を見て、神崎が不機嫌そうにひじ打ちを食らわせる。

「ぐおお、なんで!?」

「鼻の下伸びてんのよ、変態。」

「・・ほう。」

今まで見ていた立花が突然神崎をニヤニヤと見つめだした。

「な、なによ?」

「いやあ、別にい。」

立花がニヤニヤしたまま答える。次の瞬間。立花が吹っ飛び、壁にめり込んだ。

「立花ー!!!お前、なにすんだよ!」

犀川は唖然とした。

「ふふふ、やっぱり楽しそうで良い班ですね。」

女性が笑う。

「楽しそうに見えますか?」犀川はまじめに聞いた。

そして、思い出したようにその女性が自己紹介をした。

「あ、申し遅れました。私、河志木良子と申します。よろしくお願いします。」

「河志木さんかー。いい名前ですね。・・・ん?河志木って・・・」

犀川はその名前に聞き覚えがあった。

「前に言ったでしょう?Psychicsの中でも最多の20人以上で編成された第六班。良子ちゃんはその第六班の班長よ。実戦での頭の回転の速さはあんた以上かもね。」

神崎は言った。

「えええ!なんか・・っうぇ・・えええ!?」

犀川は驚きすぎて言葉にできなかった。

(全然イメージと違う!もっと女王様みたいなの想像してた!!)

犀川は想像と現実のギャップに驚きを隠せなかった。

「そんな、私なんてなんの能力もないですし、みんなに助けてもらっているだけで。」

河志木は照れながらもそう返した。犀川は河志木の言った”なんの能力もない”という言葉に違和感を感じた。それを見て神崎は、

「ああ、彼女はPsychicsの中でも珍しく能力を持ってないのよ。その指揮能力を買われて、警察から引き抜いて来たの。」と説明した。

「ああ、こんなところにいたのか。河志木さん、何してる。あなたが来ないと会議が始まらない。」

突然現れた身体のがっちりした、怖い目の男が河志木に向かっていった。

「あら、そうでした!呉海さん、すみません。すぐ行きますね。」

河志木は焦りだした。そして第十班の3人(立花は壁に埋まったまま)に向かって「では、失礼します。」と一言言って、走って行ってしまった。

そして、呉海と呼ばれた男は鋭い目つきでこちらをにらみ、消えてしまった。

「なんだあの男。」

「あいつは呉海敬(くれうみ けい)。第六班で最も実力のある男よ。元自衛隊員で、正義感も強いんだけど。なーんか裏があるって噂が絶えないわね。能力のない良子ちゃんに班長の座を取られて、恨んでる。とか、やばい組織と繋がってPsychicsに復讐をたくらんでるとか。ね。」

神崎は説明する。

「長話しちゃったわね。今日は名残の元嫁の住所割り出したら終わりにしましょう。」

「あ、ああ。もうこんな時間か。そうだな。」

そういって神崎と犀川は廊下を歩いて行った。


壁に埋まった立花を残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る