第11話 ナノコリ
一連のテロ事件を終えた第十班は、その翌日から”ナノコリ”と呼ばれる男の都市伝説を調べることにした。
「よくこんな都市伝説なんかに捜査許可が下りたな。」
犀川は言った。
「超能力なんてどれも都市伝説みたいなもんよ。まあ、本当に未来を見通す力を持った能力者がいるのなら、一刻も早く保護しないとどんな組織に狙われるか分かったもんじゃないからね。」
神崎は少しめんどくさそうに言った。
”ナノコリ”についての情報は、インターネット掲示板にわずかだがあった。しかし、すでに話に尾ひれがついている状態で身長2メートルを超える大男だとか実は若い女だとか、様々な情報が飛び交っていた。
「これじゃあ探しようが無くないか?」
犀川があきれる。
「簡単よ、そのナノコリって男は宝くじや競馬で成り上がったのよね?だったら、ここ何年かの宝くじ当選者でナノコリって名前の男性のデータを調べたらすぐよ。」
「え、そんなことできるのか?」
犀川は驚いた。
「当然でしょ?ここは政府機関よ。」
神崎は当たり前のように言った。
調べると、ナノコリと思われる名前はすぐに出て来た。本名は名残怜宗(なごり れいしゅう)当時32歳。三年前の宝くじで1億円の当選者だった。
「見つけたわ!どうやら京都に住んでいたようね。今は引っ越してるんでしょうけど、この住所周辺で聞き込みをしてみましょう」
神崎は言った。
「填島さんなら、居場所が分かるんじゃないのか?」
犀川は聞く。
「填島さんは、個人を捜索するときは半年以内に取られた顔写真がないと居場所が突き止められないのよ。」
神崎は言った。
「なんだその履歴書みたいな能力。」
犀川は言った。
「今の、多分聞かれてるわよ。」
神崎が犀川に注意すると、犀川はやってしまったという顔をした。
その後、3人は京都まで飛んだ。
とりあえずはデータにあった名残の住所へ向かうことにした。
閑静な住宅街の中に、その家はあった。古いアパートの一室、そこが名残の家だった。しかし、そこにはもう人が住んでいる形跡はない。やはり引越し済みだったようだ。
「とりあえず、このアパートの大家さんにでも話を聞きますか。」
立花はそういうと、不動産会社に連絡を入れた。
大家は近くの一軒家で暮らしていた。どこにでもいるような老夫婦だった。警察だと聞くと、最初は驚いたようだったがとりあえずお茶でもと、応接間に通してくれた。
「3年前、あのアパートに住んでいた名残という男性のお話をお伺いしたいのですが。」
神崎はめずらしく優しい口調で聞いた。
「へえ、名残さん?覚えてますよ。まだ若い人やったけど、うちんとこに住んでからしばらくは全然家にも戻らんと仕事ばっかりしたはったねえ。まさか、なんかしはったんですか?」
大家のおばあさんは柔らかい関西弁で言う。おそらく京都弁だろうか。
「その名残さんは事件に巻き込まれている可能性があります。詳しいことはお話できませんが、なにか変わったことはなかったですか?」
立花が出まかせを言う。
「うーん、そういえばある日を境に仕事もやめてよくうちにきはるようになったなあ。なんか雰囲気変わらはって、最初は自殺でもするんちゃうか思て心配やったけど、その後すぐ引越ししていかはりましたわ。」
「雰囲気がかわったとは?」
今度は犀川が聞いた。
「それまでは仕事仕事で、だいぶ疲れた顔してはったけど、なんてゆうんやろなあ、、悟ったみたいな、そんな感じやったわあ。うちに来てよおお話してたんよ。急に昔の事とかも話してくれるようにならはって。結婚したけど仕事ばっかりで30歳の時に離婚、奥さんは子供つれて実家に帰らはったんやって。まだ若い人やのに苦労したはったわ。」
大家は言った。その時、玄関の引き戸がガラガラと開いた。
「おばーちゃーん。今月の家賃持ってきたでー。」と言いながら家に上がり込んできたのは、一見ちゃらちゃらした若者だった。大学生くらいだろう。その男は神崎たちに気づくと、少し疑った目をした。老夫婦の家に上がり込むスーツ姿の怪しい3人。疑われて当然だ。
「誰や。」
男は聞いた。
「警察の者です。」
立花は手帳を見せながら言った。
「警察が何の用や。」
男はこちらをにらみつけながら言う。
「3年前、あちらのアパートに住んでいた名残という男について、おうかがいしてました。」
立花は堂々と言った。少し警戒を解いたのか、男は名残という名前を聞いたとたん、思い出したように言った。
「え、名残のおっさんならさっきそこで会ったで。」
「「「!!!??」」」
3人は驚く
「どこで!?」
神崎は聞く。
「いや、バイトからアパートに帰ったら、アパートの前におったんや。大学一回生の時以来やったから、そんな面識なかったけど向こうから声かけてきてくれたんや。なんやあの人なんかやらかしたんか?」
「いえ、その名残さんが何かしらの事件に関与している疑いが・・・」
立花が動揺しながら言う。
(さっきと言ってることが違うぞ!何かしらの事件ってなんだよ!)
犀川は心の中で叫んだ。
「名残はどこに行くって行ってましたか?」
犀川はその若者に聞いた。
「いや、そこまでは聞いてないけど、なんや子供っぽい包装のプレゼント持ってたから子供さんの誕生日かなんかやと思うで。」
「そうですか、ありがとうございます。」
犀川は短く礼を言って立ち上がる。神崎と立花も同時に立ち上がった。そして、失礼しますと言って外へ出た。
残された若者と大家はぽかんとしていたが、やがて男が大家に言った。
「おばあちゃん、いくら刑事さんやからってあんな怪しい人ら簡単に家あげたらあかんよ。」
「ええ、でも優しそうな人らやったよ。」
「それでもや。最近は物騒な世の中やねんから。」
「はいはい。」
大家はにこにことかえした。その時、インターホンがなる。
「今日はお客さんがたくさん来るねえ。」
「だから、もう少し疑うんやって。俺が出るわ。」
男はそういって、玄関へ行った。
引き戸を開けると、見知らぬ黒服を着た男が数人立っていた。
「だれや?」
若者は見るからに怪しい男に対し、そう聞いた。すると、その中の1人、黒縁の眼鏡をかけた男が口を開いた。
「こいつだ。奪え。」
すると、その隣にいたサングラスかけた大きな男が若者に手を伸ばした。
「な、なにを!?」
男の手は勢いよく若者の頭に入り込んだ。しかし、血は出ておらず、手を抜かれても傷一つなかった。次の瞬間には男たちは姿を消していた。
「誰やったんー?お友達?」
そういって玄関の方の様子を見に来た大家。
「いや、誰もおらんわ。近所の子供がいたずらしていったんやろ。」
若者は戸を閉めながら言う。
「そうかいな。ああそや、あんたさっき名残さんに会ったんやろ?元気やった?」
大家は聞いた。すると若者は丸い目をして、
「へ?名残って誰や?」と聞いた。
「何言うてんの。さっき刑事さんに言うてたやん。」
大家はおかしな顔をする。
「あれ?そういえばさっきの胡散臭い刑事になんか言ってたような・・・。あかん、思い出せへん。」
若者は不思議な感覚に襲われる。しかし、「まあ、ええわ。じゃあ家賃払ったし俺は帰るで。」と言って大家の家を後にしたのだった。
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