第10話 精鋭
一連のテロ事件の犯人のうち、逃げたもう一つのグループは第六班が殲滅したとの情報が入った。
「第六班だけ?二班合同じゃなくて?」
だいぶ落ち着いた犀川が聞いた。
「一班から六班までは、基本的に合同になることはないわ。それに、第六班は合計20人以上いるグループなの。それを一人で束ねるのが、班長の河志木良子(かわしき りょうこ)よ。」
神崎が説明する。すると、また無線から連絡が入った。
『主犯格のパイロキネシスの能力者は、車を奪い逃走中、現在第四班が追っている。その先、D地区に入るまでの幹線道路に、第一班が待ち構えている模様。』
「あーあ、犯人もついてないわね。」
神崎が言った。
「第四班って、加賀さんの班じゃ?」
犀川は尋ねる。
「そう。せっかくだから見に行きましょうか。邪魔しちゃ悪いから、遠くからだけど。あの人たちの戦いは参考にはならないけど、見ておいて損はないわ。」
神崎はそういうと、犀川の腕を握った。そして、犯人が向かう場所から少し離れたところまで飛んだ。後から立花も続いた。
連絡があった幹線道路を見ると、道路の真ん中に一人の男が立っていた。
「あれ、一人だけ?」
犀川が言う。その言葉に、神崎が説明した。
「第一班は、私たちの中で唯一の班長1人で構成されている班よ。あの人は第一班班長、庄堂光一(しょうどう こういち)、Psychicsの中で最強の男と呼ばれているわ。」
そう言って、じっと庄堂を見る神崎。
犀川も目を向けた。20代後半から30代前半くらいのその男は、鋭い眼光で先を見つめていた。
その先から、猛スピードで車が走ってきた。おそらくは犯人のグループだろう。後ろからは、第四班のものと思われる車が向かっていた。
犯人の乗った車は、スピードを緩めることなく庄堂に突進していく。
「危ない!」
犀川は思わず叫んだ。しかし、庄堂が手を車に向けて伸ばすと、その数十メートル手前で、車は止まった。犀川には何が起こっているか、わからなかった。
犯人たちは車から降りると、庄堂に向けて発砲した。
しかし、銃弾は庄堂の手前でピタッと止まる。そして庄堂はその銃弾を逆方向に向けると、手でピストルの形を作り、ばん。とつぶやく。
その瞬間、銃弾は犯人たちの方向に飛び、犯人が次々に倒れていった。
「あれは・・・」
犀川には何が起きたかわからなかった。
「念動力だ。」
今度は立花が説明した。
「庄堂さんは、念動力の能力を持っている。その力は、5分で街を壊せる程だと聞いたことがある。」
「念動力・・・」
犀川は目の前で起こった出来事を、ようやく理解した。
犯人はおそらくはリーダーであろうパイロキネシス能力を持った一人だけが残った。
その男は、自らと庄堂の間に炎の壁を作ると、逆方向に向かって走り出した。
しかし、そこには加賀が待ち構えていた。
「吉田、行け」
加賀は後ろにいた班員の1人に行った。
その吉田という男は、スタンバトンを構えると瞬時に犯人の背後に飛んだ。
しかし、それを見ていた犯人は後ろに向かって炎を放射した。炎に包まれたかと思った吉田だったが、いつの間にか犯人の進行方向に移動し、足を引っかけた。
倒れた犯人にスタンバトンを当てる。無駄のない、素早い動きだった。
犀川が歓心してみていると、
「あれは第四班の班員、吉田ケンイチ。俺の同期だが、あいつほど瞬間移動能力を使いこなしている人間を俺は見たことがないな。」
立花が言った。
加賀が犯人に近づく、いつの間にか庄堂もそばにいた。
「おい、お前らのメンバーはこれで全員か?誰に雇われた?」
加賀が訪ねる。しかし、犯人はへらへらと笑うばかりだった。
「もういい加賀。どうせどこかの外資系企業に金を積まれたんだろう。聞くまでもない。」
庄堂が言った。その言葉に加賀も納得したようだった。
その時、いきなり犯人が暴れだした。まだ電気で体が麻痺しているのか、片足を引きずりながらよろよろと逃げだした。
吉田が素早く反応するが、加賀が止める。
「おお、離れたところで期待のルーキーが見てら。俺がやるよ。」
犀川たちに気づいた加賀は、その瞬間バチッという音と共に一瞬で犯人の後ろまで追いつき、首元をつかんだ。
「あれ、加賀さんは瞬間移動能力じゃないんじゃ・・」
犀川が聞くと、
「あれは瞬間移動ではないわ。ただの加速よ。」
と神崎が言う。
「加賀さんは、身体から電気を発生させることができるの。その電気を自在に操り、加速装置に変えたのよ。」
神崎が言い終わる前には、すでに犯人は黒こげになっていた。
「うえ、やっぱくせえなこれ」
加賀は嫌な顔をした。
「お前は加減を知らないからな。ミディアムとかにできないのか。」
庄堂が真顔で言う。
「いや、焼き方の問題じゃねーだろ。」
加賀が返す。
「かかさん、ぽくはでんでんへーきれすよ」
吉田が言う。
「いや、鼻で息しろよ。お前最近生意気だぞ吉田。っていうかお前の一言目はそれでいいのか吉田。」
加賀は突っ込んだ。
「どう?全く参考にはならないでしょ?」
神崎は少し笑って犀川を見る。
「どうして・・」
犀川は重い口を開いた。
「どうしてあんなに平然と人が殺せるんですか。」
神崎は、その言葉に少し黙った。そして言った。
「ああなれとは言わないわ、だけどね、彼らが私たちの命を救ってくれることも多いの。彼らは敵じゃない。仲間よ。」
「その覚悟はしてきたんだろ。」
立花も続けた。そして、犀川は少し黙ってから言った。
「・・・うん。」
うつむいたままだったが、力強い目だった。
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