第9話 道理から外れた者

 その後、第九班と合流した犀川たちは、九班十班合同で逃走中の3つのグループのうちの一つを追いかけた。初めて実戦で手にした実弾銃に、緊張を隠せない犀川。

『神崎、森崎。敵は4人、うち1人は瞬間移動能力者だ。運よく路地裏に逃げ込んでる。周りの目を気にせず暴れろ。』

填島の声が無線から流れた。

犀川たち十班は犯人が逃げる先に回り込んだ。いきなり現れた犀川たちに驚く犯人たち。

「く、公安か!!」

そしてすぐに銃を向けてきた。

「動くな!!!」

そう叫んだのは、森崎だ。その隣には霧島もいる。すでに犯人の背後に周り、銃を構えていた。路地裏に面したビルの窓からは、竜田が電機銃を構えている。

(どいつが能力者だ?)

竜田は犯人をにらんでいた。

しばらくの沈黙の後、犯人の1人が叫ぶ。

「構うな!撃て!!」

同時に犯人たちの持っていた機関銃が火を噴いた。一同はギリギリのところでビルの屋上、犯人たちの真上に飛ぶ。そして、瞬時に銃弾の雨を降らせた。竜田も窓から犯人の1人に対し、電機銃を放った。しかし、電機銃が当たった者とは別の人間が瞬時に飛んだ。

「ちっ!はずれか!!」竜田はもう一発その男が飛んだ空間にめがけて電機銃を撃ったが、すでにその空間には何もなかった。

竜田は背後を確認する。どうやらここには飛んでこず、逃げたらしい。

森崎と霧島以外は倒れた犯人たちのところへ戻った。

結局、瞬間移動した1人以外の犯人は、全員その場で死んでいた。

犀川は初めて人を殺した。必死に心を落ち着かせようとしていた。

「填島さん!」神崎が無線機に叫ぶ。

『ふたつ先の角を曲がったところで座り込んでる。足に銃弾を受けているようだ。』

犀川の異変に気づいた神崎は、指示を出す。

「犀川と竜田はここに待機。後は犯人を仕留めるわよ。」

竜田くん、よろしくね。と言って神崎たちは犯人の元へ飛んで行った。

「・・・人を殺したよ。」

犀川は竜田に言った。

「殺さなきゃ、殺されてるぞ。気をしっかりも・・・!!!」

そう言っていた竜田がいきなり血を流して倒れた。後ろから銃声が聞こえたのだ。振り向くと、何もない空間から煙だけが流れていた。

(能力者!!!)犀川はとっさに倒れる竜田の腕をつかみ、屋上に飛んだ。

下をのぞくと、誰もいなかった空間から男の体が浮かび上がってくる。こちらに気づいた男は再び消えてしまった。

(透明人間か!!)

犀川は竜田を残して下に戻った。そして銃を構え耳を澄ませる。かすかに前方から音が聞こえる。おそらくは銃をリロードする音だろう。犀川は一か八か、電機銃に持ち替え前方に放つ。電機銃はどこにも当たらず遥か遠くまで飛んでいく。その時、ザザッっと右前方向に音が移動した。

(そこか!!)

相手はおそらく銃を構えていた、電機銃を当てても引き金を引く可能性があった。犀川は一瞬の判断で、音がしたところの背後に飛び、誰もいないところに抑え込みにかかった。徐々に男が浮かび上がってくる。犀川は必死に男の銃を抑えていた。その時、無線機から竜田の声が聞こえた。

「犀川!犯人からいったん離れろ!!」

それを聞いた犀川は、瞬時に犯人の数メートル先に飛んだ。犯人が犀川に銃を向けようとしたとき、犯人の頭上に四角い箱のようなものが現れた。

よく見るとそれは、自動販売機だ。そしてその上には竜田がいた。

竜田は自販機ごと、犯人の上に飛んできたのだ。次の瞬間には、自販機に押しつぶされた犯人の血が飛び散っていた。

それを目の当たりにした犀川は力なく膝をついた。

「なに悲惨な顔してんだ。」

自販機の上で倒れている竜田が力の無い声で言った。

「お前は俺の命を救って、逃げるどころか犯人と戦ったんだ。もっと誇らしげな顔をしろよ。」

苦しそうに、竜田は言った。

「でも・・」

犀川も力の無い声で言い返そうとした。

「人殺しは人の道理から外れてるか?そんなもん、人の道理をまっとうに進んでるもんの言うことだ。道理で裁けない奴らは、道理から外れた俺たちが裁くしかねーんだよ。」

竜田のその言葉に犀川は、何も返せなくなってしまった。



「なんですぐに応援を呼ばなかったのよバカ!!何のために無線機があると思ってんの?」

竜田の声を無線で聞き、すぐに戻ってきた神崎が怒鳴る。

竜田はすぐに病院に搬送されたが、命に別状は無いようだった。

「・・・すまん」

しかし犀川は無気力に答えた。それを見て、神崎はそれ以上強く言えなかった。

「まあ、私たちもあの後結局逃げられて、仕留めるまで時間かかっちゃったし、結果的に竜田くんも助けて犯人を逃がさなかったのは、いい判断だったわよ。でも・・」

神崎は少し戸惑ったが、すぐに続きを言った。

「でも、あんたが死んだら・・・悲しいじゃない・・・・。」

神崎は涙を浮かべながら言いきった。犀川は顔を上げた。

立花はにやついて神崎を見ていた。神崎はそれに気づくと、

「べつに、私はただ班長としてそう言っただけよ!」

と、後ろを向いてしまった。犀川は再び下を向く、しかし、気持ちは少し軽くなっていた。


犀川の目にも涙が浮かんできたのだった。

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