第4話 一次試験

 その後、犀川は二人と共に定食屋で腹ごしらえをし、神崎たちの本部であろうビルに連れられた。

エレベーターの3階で降りると、マンションのような部屋に案内された。この部屋が何なのか、犀川が訪ねると、様々な用途に貸し出される部屋と返された。犀川は意味が分からなかったが、それ以上は聞かないことにした。

「今日はここで休むといいわ。じゃあ、私は先にあがるから、試験の説明はさっきした通り、明日は朝10時に12階まで来て頂戴。」

「ああ、ありがとう。なんか申し訳ないな。」

犀川は少し笑う

「ま、犯罪を犯されても困るしね。気にしなくていいわよ。それよりも、明日はその不細工な髭剃ってきなさいよ。あと、髪もできる限りセットすること。じゃね。」

口調は冷たかったが、目は優しかった。神崎は意外といいやつなのかもしれない、と犀川は思った。

「俺も今夜は隣の部屋で寝るから、何かあったらノックしてくれ、間違っても勝手に飛んで来るなよ」

そういうと立花も部屋を後にした。

「はあ、まだ夢見てるみたいだ。まさか自分が超能力者になるなんて。そして、能力者が国で管理されてるなんて。」

寝る前、犀川は考える。そして、立花の言葉を思い出した。

―「たいていの人は絶望を味わった時、初めて能力が覚醒する。しかし、君のように自ら命を絶とうとして能力が目覚める例は初めてだよ。」-

(結局、俺には自殺する度胸もなかったのか・・だっせえ)

そして犀川は、いつの間にか眠りについていた。


朝、犀川は匂いにつられて目を覚ます。キッチンを見ると、そこには立花がいた。スーツの上にピンクのフリフリ付きのエプロンを着て。

「・・おい、なにしてる。」

じっとりとした目で立花をにらむ。

「お、起きたか。おはよう。もう少しで朝ごはんができるから、顔洗ってきなさい。」

「わー、おいしそーう・・じゃねーよ!!なに勝手に入ってきてんだ!」

こういうときだけ満面の笑みを見せる立花に危うく乗せられるところだった。

「勝手に飛んでくんなって言ったのはそっちだろ!」

「キッチンから匂いがした時、すこし神崎のデレを期待していた犀川の怒りは頂点に達していた。」

「してねえよ!勝手にナレーションすんな!」

「いや、昨日言い忘れていたことがあったのを思い出して、朝ドアをノックしたら反応がなかったもんで、心配になって入ってみると無防備によだれを垂らしながら寝てるもんだから・・何というか・・母性がくすぐられて、気づいたら俺は朝食を作っていた。」

「お前に母性があんのかよ!!きもちわりい!」

「なんだ、反抗期か?」

「うるせえ!!!」


結局、朝食を食べながら立花の話を聞くことにした。

「で、なんだよ、言い忘れてたことって。」

用意された味噌汁や惣菜の数々を口に運びながら、犀川は聞く。

「ああ、俺たちの仕事についてだ。昨日俺は犯罪を犯した能力者を取り締まるのも仕事、と言ったな」

「ああ、覚えてるよ」

「その犯罪者の中にはな、自らの能力におぼれ、テロ行為を起こすものも少なくはない。そして、中には管理されることを嫌い、俺たちを殺しにくる能力者もいる。そういった能力者たちには、即刻排除命令が下される。つまり、その場で死刑を執行するんだ。」

少し二人の間に沈黙が流れる。

「じゃあ、あんたは人を殺したこともあるのか?」

犀川は恐る恐る聞く。

「ああ、ある。じゃなきゃ俺たちが殺される。」

再び、しかしさっきよりも長い沈黙が流れた。

「・・・食事中にする話ではなかったな、すまない。だが、よく考えてくれ。俺たちの仕事に就くというのは、そういうことだと。嫌ならやめてもいい。仕事が見つかるまではここに身を置かせてもらえるだろう。」

そういうと、立花は消えていった。

残された犀川は、ただ黙々と朝食を食べ続けた。



そして、午前10時前。12階のロビー。

「果たして、彼は来るのかな?」

そう言うのは、見知らぬ男。歳は30代後半くらいだろうか。やけに落ち着いた雰囲気が感じられる。

「さあ、だいぶ脅したつもりですが、ちょっとやりすぎたかもしれませんね。」

その横にいる立花が言った。

「脅したといっても、本当のことだろ。それで来なかったら、元々無理だったってことだよ。」

「こっちも人手不足なんですよ!ちょっとは優しくしてくださいよ!」

そういうのは神崎だった。

すると、エレベーターのドアが開いた。降りてきたのは、犀川だ。

「よう、人殺しになる覚悟はできたか?」

立花はそう問いかけた、しかしすこし嬉しそうだった。

犀川は答える。

「分かんねえ。でも、とりあえず試験受かれば職につけんだろ?就職氷河期のこのご時世に、仕事選んでる余裕ねえや。」

にやりと笑ってそう答えた。しかし、目は本気だった。

「うん、一次試験は合格だな。じゃ、二次試験をはじめようか。」

犀川には見覚えの無い男が言った。

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