第3話 遭遇

そして話は第1話の末端に戻る。

「・・・だれだ!!」

男はいきなり現れたその人影に叫んだ。

「犀川進(さいかわ しん)、あなたはおそらく今日、特殊な力を手に入れた。どういう経緯かはだいたい予想がつくわ。そして、今からその力を使って犯罪を犯そうとしている。」

今度は冷たい女の声が応えた。

「なんで俺のなまえを・・・」

犀川という男は考えた。頭をフルに回転させる。だが出てくるのはどれも根拠のない憶測ばかりだ。

「ひ・・ひいい!」

シュッという音と共に、犀川は消えた。

「あ、逃げた」

神崎はやってしまったという顔をした。

「神崎さんは威圧的すぎるんだ」

立花が答える。

「うるさいわね。・・填島(まきしま)さん!」

神崎は耳にかけた無線に手をかけた

『はいはい、全部”見てたよ”。ったく、次は逃がすなよ。めんどくせーから。今位置情報を送る。』

無線から返答が返ってくる。

「すみませんね填島さん。うちのリーダーが・・」

立花が返す。

「うっさい!!!」

神崎は怒鳴ったあと、端末を手に取り、送られてきた位置情報を確認した。

「スカイツリーの上?なんでまたそんなとこに。」

「たぶん、とっさに浮かんだのがそこなんだろうな。」

「まあいいわ、行くわよ」

そして、二人ともまた消えていった。



「はあ・・はあ・・」

犀川は焦っていた。

(殺される。俺の能力がばれたんだ。社会不適合者として、殺されるんだ。)

犀川は震えていた。死の恐怖を味わうのは二度目だ。だが、これはさっきよりも堪えるものがある。

「さ、犀川さん、逃げても無駄ですよ。」

いつの間にか後ろには、さっきの二人が立っていた。

心なしか、少し女の口調が優しくなっていた気がした。

「な・・なんで・・ひいい!!」

犀川はまた飛ぼうとした。だがその瞬間、立花は犀川の背後に回り、腰に装備していたスタンバトンを軽く犀川の首元にあてた。

犀川の体に電流が走る。そのせいか、犀川は飛ぶことができなくなった。

「能力者は電流に弱いんですよね。能力は脳の異常発達が原因だとされています。だから脳からの電気信号を狂わせてやれば、一時的に能力を奪うことができる・・・らしいですよ。」

立花は表情一つ変えずに言った。

「やっぱり、お前ら俺を殺しに来たんだな?危険すぎる能力に目覚めてしまった俺を消しに来たんだろ!!」

犀川は叫ぶ。

・・・神崎はぽかんとしていた。

「え・・あのー。何言ってんの。君。」

神崎がようやく声をかけた。

「え・・違うの?」

犀川もぽかんとした表情になった。

「・・気を付けて、あれは奴の手口です。そうして安心しきったところを・・・」

立花は後ろからささやいた。

「ひいいい!!!」

犀川は再び震えだす。

「あんたは話をややこしくすんな!!!」

神崎は元の調子にもどった。



「あはははは!!!今時そんな古臭い都市伝説を語るやつ、久しぶりに見たわよ!!」

神崎の大きな笑い声がスカイツリーの上で響いた。

三人はすでに腰を下ろした状態だった。

「いや、だってすっげー権幕だったんすもん」

犀川もやっと警戒を解いていた。

「確かに、神崎さんは威圧的すぎるよな」

うんうんとうなずく立花。

「あんたに言われたくないわよ!だいたい、なんであんな出まかせ言ったのよ!」

「・・面白かったから」

「正直か!!」

実際、あの後2回ほど立花は犀川を脅していた。

「で、実際俺はどうなるんだ?」

犀川は少し緊張して聞く。

「どーもこーも、今は能力者も増えてきている。しかし、能力者が起こす犯罪や、能力者というだけで殺す組織、そして企業や国の能力者の奪い合いは後を絶たなかった。そこで政府は能力者を管理することにした。能力者にも人権が与えられる。能力をわざと人に見せびらかしたり、犯罪を犯さなければ、普通の暮らしができるようにな。新たに能力者が生まれたとき、速やかに国に申請してもらうよう促すのが、我々の主な仕事だ。だが、一部それでも能力におぼれるものもいる。そういう者たちを取り締まる。それも我々の仕事でもある。」

立花は丁寧に説明した。

「ちなみに今日本に能力者は1000人ほど登録されているけど、その半分以上が瞬間移動能力よ。」

「え、そうなの!?」

「そ、だからあんたの能力は別に珍しいもんでもないし、そこまで選ばれた人間ってわけでもないの。私たちもそうだけどね。」

犀川は少しほっとしたような、残念な気持ちになった。

「じゃあ、俺は特に処罰はないんだな」

「だから、初めからそう言ってるでしょう。あんたはまだ犯罪を犯したわけでもないんだし、処罰する理由がないわよ」

「よかった・・・」

犀川はようやくほっとした。

「じゃあ、明日の朝ここに書いてあるところにきてくれ。印鑑と身分証明書、それから住民票も忘れずにな。」

といって、立花は犀川にメモを渡した。

(住民票・・・)

「待ってくれ!!」

と、犀川は立ち上がった立花と神崎を呼び止めた。

「俺、もう金も家もなくて行くところがないんだ。あんたらと一緒に働けないかな?」

二人は顔を見合わせた。

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