第2話 追う影

時間は少し戻って昼過ぎになる。

「地下鉄環状線の駅で飛び込み自殺との通報、電車は緊急停止、目撃者も多数。で、どこにも死体がない。それどころか、血痕すら残されていない。訳の分からん事件だな。」

現場では、駆け付けた警察や救急隊員が首をかしげていた。

と、そこに現場指揮官のもとに一本の電話が掛かってきた。

「はい、、もしもし・・・え、本部長!?あ、はい。はい。・・了解。」

「どうしたんですか?本部長から?」

「ああ、なんでも今回は我々の仕事じゃないから、”忘れてくれ”。だとよ。」

「なんですかそれ。」

「こっちが聞きたいよ。もうすぐ別の係が来るから速やかに引き継ぐように、と」

「ええ。闇が深そうですねぇ。」

「わくわくすんな。気持ちわりい」

そこに黒いスーツを着た眼鏡の男が入ってきた。手にしていたのは、警察手帳だ。

「失礼します。警視庁公安第零課、特殊能力者執行対策本部の者です。この現場の引き継いでいただけますか?」

一見まだ若そうなその眼鏡の男は、そう言いながら現場に入る。

そしてその後ろには2名の男女が着いてきていた。女の方は眼鏡の男と比べてもまだ若い、おそらく20代前半と言ったところだろうか。もう一人の男は大柄な身体でぼさぼさな髪が目を隠すほど伸びていた。

その時、あとから入ってきた女が眼鏡の男に思い切りひじ打ちを食らわせた。

「いきなりトップシークレットばらしてんじゃないわよ!エリートバカ!」

「ぐふ、ああ、そうだった。俺らの部署名は名乗ってはいけないのだった。・・不覚。」

「・・不覚。じゃねーよ!あんた何回目よ!・・ったく。」

ひと呼吸置く暇もなく、現場の新人刑事が突っ込む。

「特殊能力者っていいました!?それってSP○Cみたいな奴ですか!?津田○広は実在するんですか!??やっぱり今回の事件は超能力者のいたずらってことですか!!???」

目を輝かせて、大声で問い詰めていく。女は呆れた表情になっていた。

代わりに、眼鏡の男が返す。

「実は今回の事件は、、GA○TZ的なあれです。」

と、こちらも目を輝かせて言った。

「うおお、GA○TZかあああ!!んんん・・まあ、あり!!」

ともあれ話は盛り上がっているようだった。

「あのー、本部から通達は受けていますが、今回はどういった事案でしょうか?」

盛り上がっているバカを置いて、現場の刑事と女とで話しが再開された。

「あなたたちには知る価値もありません。連絡のとおり、この事件のことは”忘れて”いただきます。」

「はあ・・」

刑事にはこの女が何を言っているかわからなかった。

「下山、記憶操作を始めてください。」

と、これまで話に全く入って来なかった大柄な男に向かって言った。

だが、ここでまた現場の新人バカが反応する。

「記憶操作!?何それ何それ!!!!あのひとがするんですか?すげー!!!」

輝いた目で下山と呼ばれる男を見つめる。

すると、下山と呼ばれる男はポケットからボールペンのようなものを取り出し。

「・・・ここの先をよく見てください・・」

と、言った。

「M○Bだああああ!!!!」

現場の新人のテンションが上がる。

「下山あ!!あんたまでふざけんじゃないわよ!!ツッコむ私の気持ちにもなって!!!てか、あんたちょっとそういうノリにあこがれてたのね!!時間ないんだからとっとと記憶とばして!」

女が激しく怒鳴った。

「あの、さっきから何をいって・・」

刑事が聞いた時、下山という男は新人の頭をわしづかみにしていた。

手が離れると、その新人は力なく倒れる。

「な、なにをした!!」

刑事は慌てて腰の拳銃に手をかけようとした、その時。

目の前に突然、さっきまでふざけていた眼鏡の男が現れた。そして一瞬で刑事の体を倒し、抑え込んだ。

「安心してください。目が覚めたらただのいたずらになっていますから」

そう言うと、今度は刑事の前に下山という男が立つ。そして、ゆっくりと、刑事の頭に手を伸ばした。

「やめろおおおおお!!!」

人気のなくなった駅に、叫び声が響いた。

いつの間にかほかの作業員、目撃者たちは皆、その場に倒れこんでいた。



時刻は夕方の5時を少し回っていた。

駅での飛び込みは、誰かのいたずらとして処理された。目撃者はだれもいない。電車の運転手は非常停止ボタンが押されたため、急停止したと証言している。犯人はまだ見つかっていない。と、いうことになった。現場の刑事からも誰かが飛び込んだ形跡はない。と報告されている。


少し薄暗い街を歩く、まだ若いスーツ姿の男女。

先ほど、駅であった”いたずら事件”の後始末を終え、一旦事務所にもどり、今度はその”いたずら”の犯人を捜しに出たのだった。

この男女の紹介をしておこう。

まず、一見エリートにも見える眼鏡の男、名前は立花卓(たちばな すぐる)という。歳は25歳。見た目とは裏腹に、頭はそれほど良くない。

そして、ツッコみ役の女。神崎穂波(かんざき ほなみ)。22歳。歳は若いが、立花の少し上司だ。

二人が何者なのかは、さっき立花が丁寧に紹介したとおり、警視庁公安第零課、特殊能力者執行対策本部 通称Psychics(サイキックス)のメンバーだ。どのような仕事をするかは、名前で想像できるだろうか。詳しくは今はまだ話さないでおこう。


「ったく、あんたらがふざけるから、余計な時間食っちゃったじゃない」

そう言って不機嫌そうに歩く神崎。

「すまない、まさかあそこまで俺たちに尊敬をまとった眼差しを向けられるとは思わなかったんでな。」

真顔でそう返す立花。

「面白がってるだけよ。あと、一応私は上司なのよ。敬語使いなさいよ。」

「・・目標は今どこに飛んでる?」

「無視すんな!!・・・大正コープの本社ビルの屋上をチョロチョロしてるそうよ。なにしてんだか。」

「ふむ。おそらくは練習だろうな。そろそろ慣れてくる頃だろう。よし、いくぞ!!」

そう言って、立花はフッと消えてしまった。

「ちょっと!リーダーは私よ!!」

その言葉と共に、神崎も消える。

二人が飛ぶ先は、そう。この”いたずら”の犯人の元だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る