Psychicsーサイキックスー
@bintang662
第零章 Psychics
第1話 社会不適合者
ある春の日、俺は一人で地下鉄環状線の階段を降りる。
一年の中でこの季節が一番好きだった。
こんなに希望に満ちた季節、ほかにはないだろう。
通り過ぎる人たちも、みんな幸せそうな顔をしている。仕事に学校に恋愛に、誰もが忙しく、そして充実した毎日を送っている。
ふと、駅の鏡に写った自分を見る。なんてことはない、見慣れた顔ではあったが、この季節には大層相応しくない顔だ。
ぼさぼさの髪、死んだ魚のような目、不細工に散らかった髭、誰もが思うだろう。「この人は疲れている。」と。その通り、俺は疲れている。
高校までは良かったんだ。定期テストでは常に学年上位にいて、模擬試験は全国で100位以内に入ったこともある。
だが、大学受験でまさかの大コケ、滑り止めは何とか合格するも両親には見放された。大学に入ってからは何もかもがうまくいかず、途中でやめてしまった。
それからはずっと引きこもりのニートをやってたが、ついさっきとうとう親父に勘当され、現在に至る。
俺は社会不適合者だ。この世の中にはいらない存在だ。
所持金は158円。ジュースでも買えってか。
こうなりゃやることは一つしかないだろう。158円以内でできる、親と社会に対する最大の復習。
強盗なんて野蛮な真似はしないさ、第一、俺にそんな度胸はない。せいぜいできることと言えば、自殺くらいだろう。人を巻き込まずに一人で勝手に死に、その結果両親やその他大勢の人を巻き込む。俺が死んだ後でな。その方法は一つ。
飛び込み自殺だ。
150円の入場券を買って、改札を通る。
途中、募金箱が置いてあったので、何気なく残りの8円を入れた。どーせ持ってても仕方がない。
そして俺はホームで電車を待った。
ああ、畜生。くそみたいな人生だったぜ。
ずっと両親に言われるがまま、自分の人生を決めてきた。
遊ぶのを我慢して、ずっと勉強していた。ずっといじめられてきたが、俺は学校に通い続けた。
それが正しいと信じていたからだ。だが、たった一度の失敗で俺の人生は終わった。
電車が通過するアナウンスが流れた。
猛スピードで電車が入ってくる。足が震える。畜生。死ぬってなんだよ。恐怖が頭をよぎったが、
両親への恨みを思い出し、思い切り線路内へ飛び込んだ。
―ざまあみろ―
そうかっこつけたつぶやきで人生を終えたかった、が、俺は見てしまった。もう突進してくる電車を。唖然となる人々を。恐怖が沸き上がった。
「や、やっぱりやだ!しし、しにたくな・・・!!!!」
ゴオォォォ!!と電車は通り過ぎる。
我ながらみっともない最後を飾ったもんだ。と、なぜか死んだ後もそういう思いがあった。
――目を覚ますと、俺は自分の部屋にいた――
「あれ、夢?」
呟いてみる。目からは大粒の涙がながれていた。
部屋の時計を確認すると、夕方の5時を回っていた。
夢オチかよ・・・そう呟いて体を起こすと、異変に気づいた。
ジャケットを羽織り、靴を履いたままだったのだ。
「う、うわああ!!」このわけの分からない事態に思わず悲鳴をあげる。
すると、部屋の外からバタバタと足音が近づいてくる。
勢いよくドアが開くと、親父が入ってきた。
「てめえ、どっから入ってきやがった!!お前はもううちの子供じゃねえ!!とっとと出ていけ!!」
今にも殺人をおかしそうな目でそう怒鳴ってきた。
「うわああ!!やっぱり夢じゃない!」
「なにわけの分かんねえ事言ってやがる!!」
「ごめ・・ごめんって、出てくから・・お邪魔しました!!」
そういって再び家を追い出された。
(何だったんだ、今のは)
考える。
「予知夢・・いや、夢じゃなかったしなあ。」
「とすると・・瞬間移動・・?」
いやまさか、と首をふる。だが、やはり気になる。
バカバカしいとは思ったが、何気なく目の前のビルの屋上を見てみる。
(とべとべとべ・・)と集中して考える。すると・・・
いきなり目の前の景色が変わった。目の前にはさっきまで自分がいたところが見えた。それもかなり遠くに、いや、低くに。
ビルの屋上に立っていた。
「うお、あぶっ!!」その高さに腰が抜けそうになる。
(本当に・・飛んだ・・・)
まだ夢でも見ているようだった。
そこから俺は何をしたかというと、小一時間みっちり練習した。
瞬間移動の練習。しっかり自分のイメージ通りに飛ぶ練習。とりあえず、この能力に慣れるために。
だが屋上の上からは動かなかった。下手に動いて人に見られると面倒なことになりそうな気がした。
だんだん慣れてきたところで、
「・・はは、ははは・・・」
笑いが込み上げてきた。いや、笑いだけじゃない。自信とか優越感とか、なんかそういった自分の中の力がどんどん込み上げてきた。
「俺はなんでもできるんだ。何をしようか。そうだな、まずは金が要る。金を手に入れよう。それから・・・」
「それは、やめておいたほうが良い。」
誰かがいきなり、俺の声を遮った。
いつの間にか、屋上の隅の方に二人の人影が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます