第6話 二刀流
「あ、その……」
麻痺の事は言わないでー、ルイスさん!毒使いってバレちゃうよー。
デリカシー無さすぎるぅ。
って、この人は何とも思ってないんだもんな……。
「麻痺の魔術って……もしかして」
「何だぁ?あれか、付与何とかか?まぁいい、俺はシェインだ。シェイン=クローク」
「何だよシェイン、お前こいつの毒魔術だっけ?知ってんのか?」
毒、毒言わないでー。
もうやめてくれー。
これならいつものゲイル達による平凡な嫌味の方がマシだ。
新手の嫌がらせだ。
「バッカだなルイス!だからレッドドラゴン如きに腕食われんだよ。いいか……魔術ってのはだな、主要五属である火、水、土……えーと……何だっけな。魔術ってのはどうも好きになれねぇ……」
「魔術は主要五属の火、水、土、風、闇属と付与三属の治癒、補助、毒属に分けられてるわ。その中でも希少と言われるのが闇属、治癒ね。まぁ人族でありながら毒属って言うのは私も聞いたことがないけれど……ただこの二属は強大な力を持つ為魔力枯渇で魔物に変貌を遂げる恐れがあるって言われてるわ。だから周りから白い目で見られる事も多い。治癒だけは利用価値があるせいか、はたまた英雄の属性が治癒だったからか、特別扱いだけどね……そうでしょ?ロロキスト君?私はミルーナ、よろしくね」
「あ……え、は、い」
何だろう、全て分かっていてこの態度なのか。
この人は俺を毒属使いと知って普通に握手を求めてくるのか。
魔力が治癒だから万が一魔術をかけられても問題ないと?
「「おぉ……」」
ルイスさんとシェインが感嘆の声をあげる。
「流石は元対魔術執行員!」
「元訓練生よっ、執行員じゃないわ……この子と同じね」
元訓練生? どういう事だろう、元って事は執行員試験に落ちてここにいるのだろうか?
でも治癒なんて稀少な魔術使いでレベル参まで行使できる人が試験に落ちるだろうか。
でなくても俺みたいな七光りを入校させる所が稀少な治癒使いを。
「あの……ミルーナさんはその……試験に」
聞きずらい……。
何で俺はこんな質問をしてしまったんだ。
馬鹿俺、この脳味噌、毒死しろ。
「辞退したのよ、それだけ」
「辞退……?」
一体どういう事なんだろうか。
「まぁ細かい話はよ、飯でも食いながらにしよーぜ。今日は俺の奢りだ!」
「馬鹿やろうっ!お前の金じゃねぇ、パーティーで行った事になってんだから討伐報酬の500000メタルは俺達三人で山分けだっ」
「あぁっ?!俺が一人で狩ったんだぞっ、お前らじゃ無理だった!」
「んだとぉ……てめぇが一人で勝手に行ったんだろぅがっ!おいミルーナ、もうこいつに治癒はいらねーからな、今からこいつの腕叩き斬ってやる!」
「上等じゃねーか、青髪ロン毛野郎!」
「んだとこの…………ツルッパゲ!」
シェインの一言に、ギルド内で笑いが木霊した。
何だかいいな、ここ。
俺は何となく訓練校や今までの嫌な思いが、すっかり頭から消え去っている気がした。
――――
辺りはすっかり日も落ちて、空には幾点もの星が散りばめられる時間になっていた。
俺は今、ルイスさん達と共に嫌な事を聞いてしまった酒場に腰を下ろし夕食を御馳走になっている。
「はぅ……んべ、おまうはばづちゅがなくてへんでははかったってのか」
「……シェイン、食べ物を口に入れて喋らないで」
この三人はとても仲良しだ。
言い争いの中にも何処かお互いを思い合う、そんな雰囲気を感じる。
俺はシェインの口から飛ばされた肉片をナプキンで拭き落としながらそう思った。
「ただこいつの剣の腕がよ、なんせどうしょもねーんだ。クイーンビー一匹に死にそうになってんだからよ」
クイーンビー一匹にって……あれだってヤバイ魔物だろ、訓練校でも相手できるのなんてトップ10のメンバー位だ。
それに本当はフライドビーにやられたなんて言ったらどんな顔されるだろうか……恐ろしくてとても言えない。
「そりゃあひでえな。あんな虫ッケラと遊んでんのか?それが将来の対魔術執行員だと思うと国も先が思いやられるな」
「あのね、二人とも。クイーンビーは言っておくけどギルドでもC級が数人でやる相手よ、あんた達が規格外なの。それにこの子はまだ訓練生……フライドビー位がいい相手って所ね」
はい、その通りですお姉さま。
それに命を刈り取られそうでした。ごめんなさい。
「あぁ?フライドガーリック? 旨そうだなそれ」
「ばっか、ルイス。フライドピーナッツだ、あれだよ、サラダに乗ってるやつ」
「あぁ、あれな、へぇ……」
……何なんだこの人達は。
ギルドってのはこんな化け物ばっかりなのか。
もしかして対魔術執行員試験に落ちたらここへ来ようかと思ったのに……逃げ出す人の気持ちが分かったぞ。
「はぁ……ごめんね、ロロキスト君。この二人いつもこんな感じなのよ、でも悪い奴じゃないから」
「ええ、はい……それは、分かります」
なんと言うか……こう、馬鹿なんだろうか。
いやいや、でも……こう言う人達もいるんだな、世の中は、広い。
俺は今までの人生がどれだけ小さかったかを知った。
「でだっ!」
「ぅおっ、あんだよルイス。行きなり大声出すなよ」
「俺はな、こいつを鍛えてやろうと考えた」
な、なんだって!
一体どこをどう進んでそうなった?!
「ルイス……この子は対魔術執行員の訓練生よ、何であんたが鍛えるのよ?」
「……確か、自分の魔術が嫌いだと言ったな?だから剣で戦うと」
「はい……い、言いました」
「試験まで確か一ヶ月は自由時間だったな?」
確かに言ったけど……鍛えるって一体?
まさかレッドドラゴン狩りに行くぞとか言わないよな、いや言いそうだよな。
「おい、まさかルイスお前その間に剣術稽古でもつけてやるってか?」
「……正解だ。シェインがロロストの剣を少しはマシにしてくれる」
「ッブファァァッ!!」
シェインの口から白濁したスープが俺の顔面に噴射されたが、俺はナプキンでそれを冷静に拭った。
剣の稽古……。
「……っで!何で俺がっ、てめえがやるっつったんだろぅが!」
「俺のはどっちかって言うと大剣だ、ロロキンは見てみろ」
さっきからいい加減名前を間違えすぎだが?
三人が俺をまじまじと見つめる。
「ロロキスト君に大剣はちょっと辛いわね……」
「だろ?」
「……だろ?じゃねーよ、んで何で俺なんだよ、俺だって二刀流だぜ?そんな…………あ、そうか」
え、何がそうかなんだろうか。
確かにシェインが背にかけていた剣はルイスさんの物に比べると二回りほど小さかった。
俺の持つショートソードと長さは同じぐらいだ。
「そうさ、こいつを二刀流にしてやってくれシェイン」
とんでもない事になってしまった。
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