第5話 ソードバインダー


 森をスキンヘッドのルイス=ハーボットと歩きながら身の上話を聞いていた。

 ルイスさんはAクラスのギルド員らしく、森を抜けた山脈に住み着くレッドドラゴンを狩ってきた帰りらしい。


 レッドドラゴンって……人一人で何とかなるもんだったか。


「でお前こそ回復薬一つ持たずによく耐えたな、その根性だけは俺並みだ!ガハッ!」



 いやいや、貴方の様な根性はごさいませんよ。



「いや、俺……僕はその何て言うか魔術で……」

「魔術? そうか、もしかしてお前付与の治癒属使いかっ!?いや、にしては傷だらけだな……ん、魔力切れ……いやなら人族のままでいられる筈が…………」



 治癒魔術なら確かにこれぐらいの傷は治せる。だが傷だらけの俺。

 魔力枯渇なら人族は魔物と化すだろう。

 それがこの世界の摂理だ。


 どうしようか、ここで正直に俺は毒属魔術の使い手なんて言ったらまた白い目で見られるだろうか。


 まあいいか、別に今更。

 それに訓練生の制服も着ている、何処かに捕まる様な事も無いだろう。


「僕はその……付与三属の一つで毒属魔術を……使えます」


 暫しの沈黙が流れる。

 はぁ、またか。でも助けてもらったんだ。

 これぐらい全然何ともない。



「毒属……?なんだそりゃ? かっけぇな!!え、え、何だ?どんなんだよ、見してみろ!」


「え、あっと……え?」



 何だ、この反応……?

 今までにない……いや一人同じ反応をした奴を知っているが。


「えと……その腕、意外と痛いっていってましたよね?」



「あん?腕か?それがどうした?俺クラスになればこれぐらい何とも……なくはないがな、耐えられる」


「僕は……痛くないんですよ。ちょっと腕を貸して下さい」



 俺はルイスさんの腕に触れ、食いちぎられた辺りに意識を集中させ先程覚えた秘技を唱える。


「パラライズ、レベル零!」


「……んお?何だか痺れてきたな……お、何か痛みが和らいだぞ」


「これは麻痺です。弱い麻痺なので傷口だけの神経を麻痺させました」



「なるほどねぇ……そりゃぁいい!永久に戦えるじゃねーか!!全然痛くねぇんだからよ、そっか、それでお前は戦えたって訳かぁ」



 いや、永久には無理だ……出血とか……あるし。


「そんで?戻すのは?」

「えっ?えーと……戻せないです」


 あくまで俺の魔術は状態異常、治癒は無い。

 ものすごく微量の、体にほぼ影響の無い程度の状態異常にしているだけだ。


「っておおいっ!! 病気にしただけじゃねぇかっ!」

「いや、麻痺です」


「麻痺です。じゃねーよ!」

「すみません。いやでも、ほんと微量なので放っておいたら効果は消えますから……」



 腕を落としておいて麻痺ぐらいで何をいってるんだこの人は。

 でもやっぱり俺は役立たずだな……。


「って、まあいい。ありがとな、えーと……ロロキスト」


「……え、あ、はい……」



 え、お礼? 何で……



「痛みが和らいだだけでも十分助かるぜ。それに腕もくっつけて貰うついでにあいつなら麻痺ぐれぇ治せる」


 麻痺ぐらい……?

 腕をくっつける?

 治癒魔術の事か?

 治癒魔術でもそこまでが出来るのはレベル参位だ。

 教官クラスじゃないか。


「……それって……」

「あぁ、そうだ。お前にも会わせてやるよ。ちょっと付き合え!」



 そう言うとルイスさんは俺を連れて街へと足を向けた。




――――


「だぁかぁらっ!ルイスが、うちのメンバーが一人先に行っちまったってんだよ!」

「そう言われましても……ソードバインダーのメンバーとしてもう出発している事になってまして……今から追加で同じパーティーを同じ依頼に出す事は……」


「だぁから、俺らがそのパーティーなんだって!場所を教えろ、教えて下さいってぇ」


「ソードバインダーのメンバーの方は当然知っていますが、なんと言うか規則でして……」




 ギルド、ジンクス支部。

 魔物狩りや薬草、鉱物採取を生業とし、時に魔族ともやり合うと言う強者が揃う場所。

 対魔術執行員の試験を辞退、落ちた者の中にはここへ行く人間も多いが、その八割が逃げ出し国の衛兵になると言う。



「おぃーすっ!」




「……ルイス!!」

「だぁかぁら……って!ルイスっ!おぃーすっ、じゃねぇよっ!てめえ一人でレッドドラゴンなんか狩りに行きやがって!死んだらどうすんだえぇ?!俺達がどれだけ心配したと思ってる、今から追いかけようと思ったのによこのブス受付は規則規則言いやがって……」


「ブ、ブス……!?ガーン」



 何だか激しいな。

 それに受付のお姉さん、口で効果音出してるけども。



「いや悪ぃ、悪ぃ。あまりに俺が最強過ぎてお前らを忘れてたよ」


「んだと、てめえ!!」



 長髪の青髪、怒り狂っても顔の整いは崩れない程のイケメンだ。

 スキンヘッドはそんな青髪を茶化し続けていた。

 だが端から見ても分かる。

 この二人は仲がいいんだ。


「ルイス……無茶は止めて。私達は『ソードバインダー』のパーティーでしょ?」



 金髪の女性。

 長い髪は黄金の様に輝き、白いローブをまるで天使の様に纏っている。

 同じ金髪でもレイスとここまで違うとは……



「わぁかってるよ……だから悪かったって」


「ったくよ、どーせまたいつもの危ない仕事だから一人で行ったとかなんだろうが!?」


「あぁ?ば、馬鹿やろう。シェインてめぇは足手まといだからだ」


「おん?! はっ、その腕でよく言うぜ、だっせぇな。レッドドラゴン如きに」



 レッドドラゴン、如きに……。

 そもそもレッドドラゴンなんて狩りに行くものか?

 普通国が動くレベルの危険な魔物じゃないか……何なんだこの人達は。


「んだとぉっ!!よ、余裕だったぜ」


「でもよかった……ほら、貸して腕。持ってるんでしょ?」

「ん、ああ、悪いな。あ、ついでに麻痺も解いてくれ」



「え、麻痺にもかかったの?よく帰ってきたわね……本当無茶して……麻痺は大したこと無さそうね…………キュアオール、レベル参スリー!アンチドートレベル壱ワン」


 キュアオール? 何だよそれ……ヒールじゃないのか、てか切り落とされた腕……おぇ……ぎもぢわるぃ。

 皆普通の顔で金髪の女性がルイスさんを治癒しているのを見ている。



「おお、サンキュウ、サンキュウ。麻痺はこいつにかけてもらったんだがな、なかなか痛みが引いて役に立ったぜ」



 ルイスさんがそう言った所で青髪と金髪の女性が一斉にこちらを向く。


「んあ、誰だこの坊主?」

「……その制服、もしかして対魔術執行員?」


「あぁ、訓練生らしい。えっと……ロロロストだ」


 おいおい、ロが一個多いし足りない文字が出てきてるから。



「は、始めまして……その、ロロキストです」

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