第4話 野外の戦闘②
「……はぁ、はぁ、はあ」
あれからどれだけこのクソオオバハチにケツの針を刺された事か。
俺の体は穴だらけだ。
だが、一つ俺は新たな魔術を体得するに至った。
毒属魔術パラライズだ。
皮膚神経を軽く麻痺させることで傷の痛みを無くす。
これはいい、無敵だ。
ただ出血が多いせいか、意識が少し朦朧とする。
未だ人としての意識があるから魔力の使い過ぎって事は無いだろうがこのままではジリ貧か。
でもな蜂ぃ……お前の動きも読めてきたんだぜ。
フライドビーには知能がない。
尾針を刺してホバリングと言う本能だけだ。
そして尾針を発射する際、体をわずかに震わせその時だけはその場から動かない。
その一瞬を狙う、これだった。
「次こそ……決めるっ」
俺が再三繰り返したポイズンを上掛けし剣を振り回すと、フライドビーは再び針を発射させようとホバリングを始める。
そして体をわずかに震わせたその一瞬を見極め――袈裟斬り。
「……っ!!」
フライドビーは片羽を真っ二つに裂かれ、緑色の体液を撒き散らしながら地面でビクビクと蠢きながら再びの飛行を試みようと必死だった。
「悪いな、俺の……勝ちだっ!」
のたうち回るフライドビーにショートソードを突き立てると、やがてその大型蜂は動きを止めていた。
「やっとかぁ……一体どんだけ手こずったんだよ」
地面に大の字で横たわれば空は夕暮れが支配し始めていた。
訓練校の皆がほぼ数秒で打ち倒せるフライドビーに必死の思いで打ち勝った俺。
何だか虚しくなってきた。
これではレイスを守る所か村人Aになれるのが関の山だ。
俺に対魔術執行員なんて勤まるはずがない。
父のお陰で入れたが……と言うより入れられた場所だがやはり辞退しようか……。
でもどうやってこれから生計をたてればいい?
対魔術執行員の試験に落ちたものはギルドで働くと言う就職口があるが、俺にはそれすら出来そうにない。
――ブゥゥウンン……
「はぁ……あまりに長く戦いすぎて幻聴まで聞こえるよ」
脳裏に焼き付いたフライドビーの羽音。
それが段々と大きくなっていく事に苛立ちを感じ、頭を振りながらガバッと体を起こす。
「……はは、は。うっそ……」
誰か夢だと言ってくれ。
俺のクソみたいな毒魔術のせいで幻覚と幻聴が悪化したと、そう言ってくれ。
俺の目の前にはフライドビー、それも先程より一回りも二回りも大きく羽が八枚の……クイーンビーだ。
フライドビーいる所にクイーンビー。
それは頭に入れておくべきだった。
「あぁ、まぁでも将来性に悩んでいた所さ……思い切り一口でガブっとやってくれ」
こいつは毒針なんて生ぬるい物は使わない。その強靭な顎で骨まで粉砕確実だ。
レイスとの約束が頭を過る。
ゲイルとその取り巻きが言っていた下劣な計画が気になる。
だが俺はここで終わりだ。
死んだら何処か平和な場所に転生でもさせてくれないだろうか……魔術も魔物もいない、そんな世界に……。
もし俺が主人公だったらここで誰か助けに……ってそりゃ逆か。
そんなしょうもない考えをぼうっと思い浮かべながら俺は大きくなる羽音が消えるのを――
って、えっ?!
「坊主、こんな虫ッケラに手こずる程度の力で森に入ってんじゃねぇよ。帰って母ちゃんの飯でも食ってな」
顔だけを持ち上げた俺の視界に入り込んだのは……まずスキンヘッドだった。
「……はは、どうも、ロロキストです」
俺は若干朦朧とする意識の中、血まみれの体を起こしてそう自己紹介した。
「はっ!こりゃたまげたぜ。血まみれになって自己紹介たぁな! 生きてるのが不思議な位だ。その分だとポーションも使いきったって所か?俺がいてよかったな坊主」
あぁ、そう言えば武器にばかり気をとられて回復系のアイテムを買い忘れてたな。
今更だがなんて危険な事をしていたんだ俺は。
何とも情けない。
「ほら、立てるか……?」
スキンヘッドの男は俺に手を差し出し……って!
「ぅわぁた!」
「おっと、わりぃわりぃ……こっちの腕は食いちぎられたんだったな」
平然とそう言ってのけるスキンヘッドの男は当たり前のように逆の手を差し出すと俺を軽々と起き上がらせてくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
何と言っていいか、俺から出た言葉はこの程度だった。
考えても見ろ、片腕を食いちぎられて、腕に布を巻き付けた程度の止血をしながらあのクイーンビーをいつの間にか分断し、笑いながら倒れる俺に嫌味をいい放ったんだ。
挙げ句に背中にはその巨体と同じ程の背丈の大剣で、おまけにスキンだ。
ツッコミ所が半端じゃない。
「坊主、その制服は……まさか執行員か?」
男は訝しげにそう尋ねてくる。
「い、いや、僕は……まだその、訓練生で……修行に」
つい恐縮してしまう。
だってスキンだ。
「ああ?訓練生……呑気なもんだな。そういや試験も近いか、お前みたいな野郎がギルドに新人として落ちて来たらまた大変だぜ全く……」
この人はギルド員か。
通りで強そうなオーラが滲み出ている訳だ。
「あの……その、えっと……」
「んあ? あぁ、俺はルイス=ハーボット、ルイスでいいぜ。しかしぶっ倒れながら自己紹介されたのは後にも先にもお前ぐらいだろうな、ガ八八!」
「は、ははは……は、そのルイスさん?」
「あ? ルイスでいいっつってんだろ、何だ坊主?」
俺はどうしてもツッコまずにはいられなかった。
「その、腕……痛くないんですか?」
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