第7話 行方不明のロロキスト


「え、えぇっ!?」



「さぁロロ、やるのか、やらんのか?」


「ったくよ、何で俺がこんなひよっ子に……へへ」



 いや、名前が最早記号みたいになってるから。

 そんでシェインはニヤついてるぞ、大丈夫か、何するつもりだ。



「……ロロキスト君、無理しなくていいわ。こいつら馬鹿なんだから。貴方は貴方なりの生き方があるはずよ」



 俺なりの……生き方?

 英雄と魔族の間に生まれた俺。

 毒属魔術で皆から白い目で見られ、嫌われる毎日。

 唯一俺を普通の人間として見てくれたレイスがもしかしたら危ないというのに何も出来ない俺。


 俺なりって……何なんだ。

 下を向きながらビクビクして生きるのが俺か。

 嫌だ、そんな生き方は……



「俺……やります。お願い致しますシェインさんっ!!俺に剣を教えてくださいっ」


「へ、そう来なくっちゃなぁ?シェイン?」

「冗談じゃねーぜっ!こんなひよっ子、俺の剣術であっという間にBクラスのギルド員にしてやるぜっ!」


 思いの外ノリノリのシェインだ。


 大丈夫だろうか……でも試験までに強くなればレイスを、守れるかもしれない。



「……ロロキスト君、シェインはずっと一人で剣の修行に明け暮れてたから嬉しいのよ、弟子が出来て……」


 ボソッっとミルーナに耳打ちされ、仄かな甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった。



「んじゃぁ早速明日から開始だな、ロロキスト……って言いにくいなお前。ロロでいいな!」


「ちょっとっ、シェイン。まだこの子はギルドに登録もしてないんだから……と言うより訓練生なんだから気を付けてよ!」



「わぁってるよ」

「ま、シェインなら問題ないだろ?」



「あ、ちょ、ちょっと待って下さい……明日は……」



 そうだ、明日からレイスも修行したいって言ってたよな……

 どうしようか……上手く断らないと……あいつを巻き込むわけにはいかないし。



「あん?なんだ、ロロ……俺様の言うことが聞けねえってのか!?」


「あ、いえ……なんでもありません!」



「よしっ、明日は朝からギルドに来いよぉ。送れたら腕立て伏せ1000回だ」



 とんでもない事態に巻き込まれてしまった。

 レイスにもなんて言い訳しようか、そんな事を考えながら俺は三人にお礼を言って明日は早いからと酒場を後にした。





 さてとりあえず今日は寮で寝ることにしてと……しかしどうやってレイスを説得したらいいか、考えは尽きない。


 いや待てよ……そうか、もうあれしかないな。






――――レイス=ミーナット視点




 あてもなく街をブラついた。

 試験まで後一ヶ月無いと言うのに何もやる気が出ない。

 そして今日も朝から私は機嫌が悪い。

 ロキの奴……あんな手紙一枚で私から逃げたつもりなの?


「……何が俺は旅に出ます、帰ってくると思うけど、もし帰らなかったら辞退すると伝えて……よ……」



 あれから三日、まだロキの居所どころか目撃者すら見つけてない。

 本当は少し心配もある。

 まともな魔術も使えず頭もキレる訳じゃない、体力だってそんなに無いしネガティブ……私が守ってあげなきゃあいつは……。






「おぉっと、これはこれはレイス=ミーナットさんじゃないか。いつも仲良しの七ピィはどうしたぁ?」



 こんな時に……サイアク。


「あんだよ、連れねぇなぁ……俺らよ、今から街裏の草原までフレイムウルフを狩りに行くんだがよ、どうだ?一緒に行かねぇか?お前なら水属魔術だしいい相性だろ?」



「はっ、誰があんた達なんかと……水なら私よりそこの根暗の方が得意でしょ?」



 フローズン=スネーク……校内トップ2の水属魔術使い。

 口数は少ないけどこいつは本当は私なんかより絶対に優秀だ。

 分かってるの、私が秀才ならこいつは天才。

 それなのにあえてトップには立たない。その理由は分からないけど不気味な奴。



「ちっ、レイス。お前もいい加減あんな奴守って正義のヒーロー振るのはやめたらどうだ?お前は優秀、こっちがわの人間だ」


「うるさいっ!馬の糞っ」



 本当に腹が立つ。

 こんな奴等が対魔術執行員?だから国がおかしくなるのよ、私は絶対許さない、こんなやつら。


「くっ……行くぞ!」



 ……て言うよりまさかこいつらがロキに何かしたんじゃ。

 一度そう思うとそうとしか考えられなくなった。



「ちょっとあんた!あんた、ロキをどうしたのよ?!」



「……あぁん?ふん、なんだ喧嘩でもしたか?あいつも分かったんじゃねーか、お前とは釣り合わないってよ!だとしたらあいつも少しは利口になったってもんだ」



 そう捨て台詞を吐きながら、ゲイル達は街の外へと歩いていった。



 ロキが私を避けている?



 別に恩を売っていた訳じゃない、じゃあ何で?

 何で私はロキと仲良くしてるんだろう?



 可哀想だったから?可哀想な人を助けて自分は正義だと思いたかった?


 そんな……違う……私は……ただ。


「あぁ、もぉおぉぉ……馬鹿ロキ!どこで何してんだぁぁあ!!」



 私の声は虚しく街の喧騒にかき消されていった。

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