第14話 一子相伝


 レイスに全てを話し、散々あーやこーやと説教を食らったものの結局今度は私も一緒に連れて行くなら許すと言う謎の許可を得て俺達は次の日再びギルドへ向かう事になった。



 レイスにあんな無様な姿は見せたくないのだが仕方ない。

 あそこでどんなに誤魔化そうがレイスは怪しむだろう。


 それによくよく考えれば、レイスを守るために修行していたのだ。その秘密を隠すために結局レイスがまた危険な目に遭っては目も当てられない。



「ね、ねぇ……ロキ」

「ん?どうした?」


 レイスは俺の腕を掴みながらどこか怯えた様子で俺を見る。


 なんだこの上目使いは……レイスらしくない……可愛いじゃないか。



 スラムに近づくに連れてレイスは弱々しくなっていく。

 今じゃもう……これだ。いつもの気の強いレイスは何処へ行ったのか……これも悪くないけれど。


 やはり昨日の出来事で何か心に深い傷を負ってしまったのかもしれない。



「その……」


「大丈夫、俺がついてる……それにギルドは悪い人ばかりじゃないよ」



 ガラにも無いことを言ってしまった。

 俺はシェインの顔を思い出しながらレイスを慰めた。



 暫く歩いてギルドへと到着。

 一日振りなのに何だか懐かしくも感じる。

 きっと中に入ればいつも通りシェインが「おお、来たかもやし!」とか言うのが目に見える。

 そして「何だてめぇ、修行中の身で女連れとはふてぇ野郎だな。そんな奴は隣のまた隣街まで走ってこい!」とか言うんだろうか。



 俺は背中に空気のように存在する大剣を背負い直し、レイスを連れてギルドの扉を開けた。



「おはようございまーす」



 様子を伺うように中に入る。

 いつものように屈強な男達がガヤガヤと楽しそうに騒いでいる。


「……ん?おおっ、もやしじゃねーか。ちょっと来い!」


 すると受付の男がこちらに気付き俺に手招きする。

 ザニットさんだ、元々討伐を生業としていた腕のいいギルド員だ……とルイスが教えてくれた。

 が怪我が原因で今は受付兼ギルド内の用心棒である。


「え、あ、はい……」


「ロキ……?」

「ああ、大丈夫だよ。ちょっと待ってて」



 レイスに大丈夫と声をかけ、受付へ赴く。


「シェインからの伝言でな、お前にこれを預かってる。ほらよ!」

「っぅお!!」



 ザニットは俺に向かって一本の剣を投げてきた。

 慌ててそれを受け止める。


 だからあぶねぇって!また刃を掴む所だったじゃないか!

 受け取った剣は刃渡り70センチ程のショートソードと変わらぬ長さの剣だった。

 だがその刃はショートソードより細めで装飾品が柄の部分にあしらわれている。


 何か高そうな剣だな……今度はなんだ、これをまたどっかに届けろってんじゃないだろーな。

 ほんといきなりだからな、あの人は。



「良かったなもやし、そりゃグラディウスっつってな!この辺りじゃ手に入らねぇ代物だぞ。買えば100000メタルはくだらねぇ……お前じゃあと10年は手に入れられねぇな、ハハハッ!」


「ハハハッ……」



 って!? 何、何が良かったんだ?

 100000メタル?ショートソード10本分っっ!それをどうしろと?!



「そんで伝言だがな、えーと……なんだっけな?」


 ザニットは何処か中空を見つめながらシェインの伝言を思い出している様だった。



「あ、そうだそうだ。一子相伝は託した、お前に教える事はもうない。その剣は卒業の記だ有り難く思えもやし……だそうだ!」


「嘘つけーー!」



 思わず即座につっこんでしまった。

 いや待て、もう一度聞こう。何かおかしい。


「す、すいませんザニットさん……もう一回伝言をお願いします」


「あぁん?何だよく聞いとけよ……一子相伝は託した。お前に教える事はもうない。だ!」



「……いや嘘つけぇぇっ!」



 くそなんだと?

 一子相伝は託した?

 いつ託したんだよ、シェインっ!


 お前に教える事はもうない。

 いや嘘つけー!まだ走っただけじゃねぇか……くそ、何だってんだ。


 やっぱりまともに教える気は無かったのか……それであれか。

 いつ諦めるか賭けていたものの俺がしつこく付いてきたからシェインの敗けで剣をプレゼントってか!


 くそ……今までの苦労が馬鹿みたいじゃないか。



「シェインは……し、師匠は今何処に?」


 くそ、馬鹿にしやがって……

 文句の一つでもこの際言わせて貰おう。


「あ、あぁ……その、あいつはあれだ。依頼に向かった、ソードバインダーは優秀だからな!またそのうち会えるだろ!ハハハッ」


「くっ、そんな……ひどいじゃないですかっ!皆でそうやって賭けでもして馬鹿にしてたんでしょっ!?くそ……だからこんな……こんな汚い場所であんたたちは燻ってるんだっ!」


「……んなっ!?」



 ギルドの連中が俺の罵声に反応し、此方を睨み付ける。

 今にも襲いかかってきそうだ、だが俺ももうこんな場所に用はない。


 怖くないぞ、アドレナリンは爆発だ。



 俺は周りの痛い程の視線を浴びながらレイスの手を引きギルドを足早に後にした。

 シェインがよこしたグラディウスを持ちながら。





――――



「ね、ねぇ……ロキ」



 くそ、くそ、くそ……何だよくそ。

 俺の怒りは収まらない。

 あのシェインを思い出すと剣を握る強さが増す。


 馬鹿にしやがって……何だ、こんな剣!

 捨てようとも思ったが、これは100000メタルもすると言う。

 確かにこれは俺がこれから執行委員として働いてもそう簡単に手に入る物じゃない。

 そうだ、売ってしまおう。



「ねぇロキってば!」



 ふと、レイスが俺の手を引く。


「何だよ!」

「ねぇ……よくわかんないけど……良かったの?」


「いいんだ……あいつら……馬鹿にしやがって」


「そのシェインって人……悪い人じゃないと思う。その剣だって騙す相手にくれるような物じゃないよ……何か理由が他にあるんじゃないかな?ロキはいつもネガティブに考えるんだから……」



 ネガティブ?そうさ、俺はネガティブさ。

 でも俺は間違ってない、悪いのはギルドの奴等だ。


「でもロキ、変わったよ?何か前はもっとその……消極的って言うか……そのシェインって人のお陰じゃない?」


 シェインのお陰?

 ……そういえばそんな風に思った事もあったな。


 でも……


「とりあえず戻って来たら聞いてみよう、本人に直接……」


「そんな事言ったって……」



 今更ギルドに言ったら何をされるか分かったもんじゃない。

 あの目付きの悪いギルドの輩に殺される。


 まあいい、とりあえず試験が終わってから考えよう。

 この剣も勿体ないし、俺が有り金叩いたショートソードも折角だから使わなければ勿体ない。

 売るのはそれからでもいいか。



「とりあえず試験日も近いし……修行も無いんだし、ゆっくりしよ?ね?」


「う、あぁ……分かったよ」



 俺はレイスに逆に励まされながら、落ち込む体を何とか前へと進めるのだった。

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