第13話 再会

「はっ……!」



 しまったっ!

 いつの間にか公園のベンチですっかり寝てしまっていた。


 今何日だ!?

 いや、さすがに日は跨いでないか……太陽はまだ真上。

 レイクエッド教官に会ってからそれほど時間も経っていないはず、だ。


 余程疲れていたのだろうか、俺はポツポツと宛もなく街を歩いてちょっと休もうとベンチで腰掛けたら暖かくて気持ちがいいもんだから……つい。



 で、俺は何してたんだっけな。



 そうだ、レイスを探していたんだ。

 学園にも家にもいないようだった。何処かへ修行にでも行ってしまったのか……分からない。




「……はぁ、とりあえず暇だし……ギルドにでも行こうかな」


 シェイン達はまだ帰って無いだろうけど、やる事もないしな。



 そう決めるや否や早速街外れへ歩き出す。

 行き慣れたギルドへと続く裏通り、スラム街へ近付くなり屈強な男達や物々しい装備を身に纏う男勝りな女達が姿を増やしていく。



「んぉ……?おぅ、シェイン所のもやしっ子じゃねーか、どうした?またパシリかぁ?」


 そんな中一人の厳つい男が通り様にそう茶化してくる。

 たまにギルドにいる奴だ。


 三週間の間に俺も随分名が知れてしまった……。

 シェインのパシリ屋と。



「あ、ガンツさん……もやしじゃなくて、弟子です」


「ふははっ!おんなじようなもんだろうが、まぁシェインに殺されないよう頑張れや」


「は、はい」



 そんなしょうもないやり取りをしながらすれ違う。


 馬鹿にされてはいるが、学園とは何か違う。そんな空気。

 皆俺の魔術が何属かなんて知った事かとでも言うような……それが今では心地好くも感じる。


 なんだかんだ言ってもこれはシェインのお陰だ。



 暫く歩き、辺りには食べ物屋が多く立ち並ぶ通りに出た。

 だがそこにはふらふらとおぼつかない足取りで歩く場違いな……金髪の少女――――レイスの姿があった。


「ぇ……レイ、ス?」



 少し近付き、顔を良く確認しようとする。

 やはり間違いなかった。

 紛れもなくそれは、俺を学園で励まし続けてくれたあのレイス=ミーナットの姿だった。


「レイスッ!」


「…………ろ、キ?」



 だがなんだろう、そこにはかつての明るい前向きなレイスの面影は微塵もない。

 慌てて駆け寄る。


「ど、どうした……ってか何でこんな所に!?」


「ロキっ……!ロキ、ロキ、ロキ!」



 レイスは俺の存在を確認するなり躓きそうになりながらも走りより抱きついて来た。


「馬鹿ロキ!……何処に、いたのよ……探したん、だから」

「レイ、ス……泣いてるのか?」



 よく見ればレイスの服には所々血のような物が付いている。

 一体何があった?

 何でこんな所に。


 お世辞にもこの辺りは治安がいいとは言えない。

 レイスも自分でスラムには行ったことがないし、これからも行かないと言っていたのに。


 ……まさか俺を探して?

 三週間さ迷ったとか? まさか。


 でも何かあったのは間違いない、こんなレイスは初めてだ。



「ごめん、レイス……でもどうしてここへ……もしかして何かされたのかっ!?」



 レイスはまさか暴漢にでも襲われたんじゃ……いや、もしかしてゲイル達に?



「……大丈夫……ロキ、会いたかった」


 レイスは首を横に何度も振りながら消え入りそうな声でそう言った。






――――






「私……魔術の才能無いのかな」


「そんな……事、レイスは学園トップだろ?そんな事言ったら俺はどうなんだよ」



 今俺は再びのベンチにレイスと隣り合わせで座っている。

 レイスは震えていた。


 何とか励ましながら前回お世話になった武器屋さんと言う名の店主に服屋さんと言う名の店を紹介してもらいレイスの汚れた服を買い替えた。


 お金は申し訳無いが、俺はショートソードを買ってしまったので少ししか出してやれず強制的にレイスの訓練生報酬を使った。


 甲斐性無しですまん。




「世間知らずなんだよね……私……この街ですらずっと住んでるのに知らない事ばかり……」



 レイスは深く話してはくれなかった。

 だが何やら暴漢に襲われた所を何者かに助けてもらったらしい。

 その際に自分の魔術が通用しなかった事が何よりレイスを落ち込ませている原因の様だった。



「ま、まぁ……そんな事も、あるさ」


 確かに世間は広い、俺も正直それは三週間前に実感した。

 蜂に殺されかかった事、ギルド員の人間がどれだけ凄いか……どれだけ頭がおかしいか。


 俺はこの三週間でそれを痛感した、でもそれと同時に凄く新鮮で、どれだけ自分が小さい世界にいたのかを知る事が出来てとても有り難かった。



 でもレイスは違うのだ。

 俺はもともと出来損ないだったけど、レイスは成績トップと持て囃されていた。

 そのギャップは直ぐに認められる様な物じゃないのかもしれない……。



「ほ、ほら……俺もこんな広い街なんて初めてだし、世間て広いよなぁー」


 ダメだ、何も気の効いた言葉が思い付かない。

 レイスはこちらをジト目で見つめる。


「……なっ、なんだよ……悪かったよ、その約束破ってさ……てかお前が無理矢――――!?」


「ロキ……良かった、無事で」



 レイスが再び抱きつき、耳元でそう呟く。

 ミルーナさんとはまた違う、甘くて爽やかな香りが俺の脳内中枢を支配する。

 ちょっと、待て……これはヤバイ。さっきは咄嗟の事だったが冷静になると凄く……その、興奮してしまう。


「レイ、ス……!?」


「そう言えばロキ……って、こんなに体、がっしりしてたんだね」


「えっ?」



 何だ、照れるだろ。

 あれかな……修行で走らされまくったからだろうか……。



「あっ、いやその……男の子なんだなぁって……」



 頬を赤らめるレイス……何だか久しぶりにこうしてマジマジ見ると可愛いな。


 暫しの沈黙が俺達の間に流れる。


 ど、どうしよう……なんか気まずいな。


「そ、そういえばロキ!あんな所で何してたの?」


 え?! あ、あっと……な、何してたんだっけな……レイスの体が俺の思考を爆発させてしまった。


 あ、そうだ……暇だからギルドに行こうと思ったんだ。

 どうするか……今までの事を説明するべきか?どっちにしろそのうちバレる、と言うか明日にはまた修行に行かねばならない……うーん。



 レイスにこれ以上隠し事は出来ない。

 俺は地獄の三週間をここぞとばかりに誇張してレイスに話して聞かせた。

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