第12話 魔術の使い方
「……レイクエッドさん、俺……もっと強くなりてぇんだ。だから、頼む……早く俺に闇属魔術を教えてく
「そう焦るなフローズン。お前には才能がある、だからわざわざお前をスラムから拾ってこうして勉強させている。それとここでは教官と呼ぶ事を忘れるな」
「それは分かってる。レイクエッドさ……レイクエッド教官には感謝してるっ!あんたの言う通り学園では不要意に喋らない様にしてるし、目立たないよう心掛けてる。それに……治癒属使いの目星もつけてあるしあとは試験日に殺る手筈も大丈夫だ……だから」
「まぁ、待て。まだ上手く行った訳じゃない……お前には水属魔術の素質がある、闇属が使えればこの街最強も夢じゃないだろう……だが学園長も目敏い人だからな、安心は出来ない。無事に試験が終わるまで待つんだ、いいな?」
レイクエッドはそう言うと早く行けと手で促した。
これ以上奴の機嫌は損なえない。
仕方なく俺はその場を後にした。
「……クソ、何だって試験日まで1ヶ月も待たなきゃなんねーんだ……」
あんな平和顔した世間知らずの馬鹿共と一年も馴れ合って来た。
正直対魔術執行員の訓練校なら凄い奴等が巨万といるのではないかと期待もしていたが、とんだ肩透かしだ。あれなら俺がいたスラムの馬鹿共の相手にすらならない。
俺が欲しいのはギルド員を超える力だ、それには今のままじゃまだダメだ……最強と言われる伝説の闇属魔術。
それさえ教えてもらえば……あの教官の才能も俺なら超えられる。
後は折角ここまで育てて貰って悪いがレイクエッドには消えてもらおう。
闇属魔術は俺だけの物だ……
「……は、離してよっ!」
「ここはよ、嬢ちゃんの様な学生さんが来るような所じゃないんだぜ?」
そんな時だった。
いつも通り俺はスラム街をふらつく。
金髪の女が二人の木偶の坊に絡まれている様だった。
年頃は俺と同じ位か……しかしこんな所にあんな育ちの良さそうな娘が何をしているのか。
珍しく憂さ晴らしをしたくなったな、それもこれもレイクエッドのせいだ。
まぁいい、とりあえず近づいて様子を見てみようとして俺は若干驚いた。
よく見ればあいつは学園で成績トップのレイス=ミーナットじゃないか。
成績もさることながらその顔立ちもスタイルも年齢に似合わない程良く人気が高い。
そういえば何となくつるんでいたゲイルも御心酔だったな、俺もいい女だと思ってはいるが。
「へへ、ビーノ……こいつは上物じゃねぇか、プラットの街まで行って奴隷商にでも売り飛ばすか?」
「馬鹿がっ、こんな奴すぐ足がついちまう。俺らでマワして森にでも捨てんだよ」
「ゃ……やめ……んむぅう……っ!」
「少し黙りな、嬢ちゃん。恨むなら世間知らずのてめぇの人生を恨むんだな……へへへ」
世間知らずか……確かにな。
それは言えてるが、違うな。
さて、そろそろ憂さ晴らしに付き合って貰おうか。
恨むなら試験日の長い訓練校の決まりを恨めよ、馬鹿共。
おっと……その前に。
俺はポケットに入れたニット帽を深くかぶり、ゆっくり三人のいる路地へと飛び降りた。
――――
「むぅうっ……んむぅっ!」
どうしよう、どうしよう、どうしよう……私殺される!
助けて、ロキ、ロキっ!
「……恨むなら世間知らずのてめぇのちっぽけな人生を恨みな」
その時だった。
突然どこからともなく現れた……ニット帽を目下まで被る……多分男の声。
ロキ……じゃないのは確か。
「……あぁん!?何だぁ……ガキ、か?」
男達がそのニット帽に視線を移す。
「……レベル零でも十分か」
「ああん?聞こえねーぞガキ、ビビって――――」
一瞬だった。
気付けば最初に私に絡んできた男の首は血飛沫と共に空中へ舞い上がっていた。
「っぷはっ!ひっ……」
背後で私を掴んでいた男の手が離れる。
何、何なのっ!?血……!
「ビーノっ!? なっ、くっ、魔術使い……っ」
「こういうゴミに一々遠慮してる辺りが……温室なんだょなぁ」
何……を言ってるの、この人。
この子、と言うべきなのか声色ままだ年若い。
それにどこかで聞いたことのあるような声。
「ち、ちっくしょぉ……テメェガキ、俺も魔術使いの端くれだぁ!火属魔術っ、フレイム――」
「――スラッシュレベル零」
刹那に私の頬を何かが掠め、背後で男が倒れる気配がした。
見たくない。
慟哭すらないその静けさは十分に男がどうなったか予想がつくから。
「水属魔術はこう使うんだ……」
ニット帽の少年はそう私に呟き、何事も無かったように踵を返した。
水属……魔術? 今までのが私と同じ魔術だって言うの。
私が全力で魔術を放ってもあんな風にはならないかもしれない……それにレベル零ゼロと、彼はそう言った。
思わず呼び止めようと思ったが、私の声帯は掠れその少年を呼び止める事は叶わなかった。
「……わた……しは……」
とにかくこの場を去りたい。
ただ、今は自分の無力さよりも今いる場所が別世界なのだと思いたくて仕方なかった。
早く、帰らないと。
そう、いつも笑い合えるロキ、ロロキストがいるあの場所に。
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