第11話 レイス=ミーナットの危機
さて、しかしどうしたもんか。
自由時間と言っても今更何をしたらいいか。
剣で強くなるしかないと誓ったものの魔物にやられ、稽古をつけてくれる人もいなくなった。
出来るのは筋トレと走る事ぐらいか……あ、そう言えば大剣も背負ったままだったな。
地面に切っ先が付くほどの大剣二本も今となれば空気のようにそこにたあった。
「……これ、目立つな」
とりあえずこの大剣を一度寮に置いてからまた街散策と行こうか。
レイスにもどやされるだろうが久しぶりに顔も見れるかもしれないしな。
俺は面倒な奴に出くわさないよう、そそくさと訓練校の学舎へ足を向けた。
うん、誰にも会わなかったな。
皆何処で何をしているんだろうか……
学舎から裏を通り学園へ向かう所で人陰が見えた。
ん、あれは……げっ、フローズンだ。トップのレイスに次ぐ実力者、あいつも確か水属魔術の使い手だ。 何やら一緒にいるのは……レイクエッド教官か、何をしているのだろうか?
フローズンが去った所で教官にレイスの居場所をしっているか聞いてみることにした。
あまり誰とも話したくはないのだが……嫌われものの性だな。
「あの……レイクエッド、教官」
教官は少し驚いた様子で此方を振り向く。
「えと、あの……レイス見ませんでしたか?」
「ん……レイス……?あぁ、君はあれか……えっとロロキシリ君だったね、えぇと、レイス=ミーナットか。悪いが見てないな、すまないが急いでいるんでな。あぁ、試験日は遅刻しないようにな……いつもの始業時間だぞ」
あんたまで名前覚えてないのかよ、俺の名前はそんなスースーしそうな名前じゃない。
「あ……はい、分かりました」
レイクエッド教官はそう言うと足早に学園へと戻っていった。
はぁ……何か疲れる。
どうもあの人は苦手だ、と言うか俺に得意な人などいないが。
まぁシェインやルイス、それにミルーナさん達みたいな人が学園にもいたら話は違ったのだろうが。
とりあえず街をぶらつきながらレイスでも探すとするか、あいつの事だから心配しているかもしれないし。
――――
ロキが私の家に訳の分からない手紙を残してから三週間が経過していた。
あれからロキの居場所を街の色んな人や他のクラスの人間にも聞き込みをしたけれど全く居場所は掴めない。
ただある噂を耳にした。
何やら危ない人達と一緒に何処かへ走っていったとか、大きな剣を二本背負った少年がギルドで活躍しているとか……ただそれらの噂はどうにもロキとは繋がりそうもない。
ギルドなんて行ったこともないし、そもそも彼処はスラム街らしいから足を向けたこともこれから向ける気もなかった。
「……何か暗い雰囲気ね、道間違ったかしら?」
ジンクスの街に住んでから一度も踏み入れたことの無い領域。
私は遂にスラム街を一人で歩いている。
母と父が知ったらどんなに怒るだろうか……でも、ロキはもしかしたらと思うとここぐらいしか思い当たらなかったのだ。
「何よ……ここ……もぅ」
何だがジメジメして気持ち悪い。
何かの料理でもしているのか、それが腐った様な匂いのする煙が所々の店から立ち上っている。
「こんな所で何してるんだいお嬢ちゃん?」
「……へっ?」
突如背後からかけられる卑しい声。
見れば明らかに達の悪そうな男が一人、物珍しそうな目で此方を見ていた。
「な、何よあんた……」
早速絡まれた。だから嫌なのよ……でも私はこれでも対魔術執行員の端くれ、成績もトップ。
何かされても対処出来るはず、そう頭では分かるのに足には力が入らなかった。
怖いの? 私? 大丈夫、落ち着いて……。私は魔術使い、私はトップ……。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん……震えてるじゃないか、へへへ。大丈夫さ、別に娼館に売ったりなんかしない……俺が……楽しむぐらいだから、さ」
「っ……この……」
男がふらついた足取りでこちらに近付く。
遅すぎる、これなら魔術で……怪我をさせるといけないから一番弱いので十分のはず。
「……近付かないで……私はこれでも対魔術執行員の訓練生よ!」
「んん?訓練生ぇ?……ダメだなぁ、こんな所でお嬢ちゃんの様な子が遊んでちゃあ!」
男が一気に距離を詰めてきた。
もうやるしかない。
「アクアショット、レベル零っ!」
思わず本当に魔術を使ってしまった。
対魔術執行員の任務は街での魔術暴走やいざこざを止める事なのに……当の私がそれをしてしまうなんて。
それに今ので死んでしまったりなんか……
「――ぇ」
「おぉ、いてぇ。いてぇなぁ……嬢ちゃん。へへっ……対魔術執行員ってのはそんなもんなのかい?」
「う、そ……」
水属魔術レベル零ゼロ、アクアショット。
確かに初歩的な魔術だけどそれでも私のアクアショットは実施訓練でラチェットアンツを圧倒できる程だったはず……なのに……なのに……
「あぁ、いてぇ。虫に刺されたみてぇだ……こりゃ慰謝料がいるなぁあーへへへっ」
何でこいつは何もなかったかのようにこっちを向いて笑っているの!?
動揺した。
こんな気持ちは初めてだ。
慌ててもう一撃、今度は遠慮なしの魔術を放つ。
「ウォーター……っはぅっ!?」
魔術をいい放つ前に私は背後からいきなり凄い力で羽交い締めにされていた。
「へへ、ビーノ……ずりぃじゃねーか、一人でこんな可愛いちゃんよ!」
「ちっ……あんだよ、いい所だったのによ」
二人……そんな。
「放射型の魔術は標的に手を向けなきゃならねぇ……そうだろ?嬢ちゃん」
何なの……何よコイツら。
心の底から恐怖した。
そして私は今、最低最悪の状態にあると……実感していた。
「ロキ……たす、けて……」
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