第1話 神は


 家族になろうという、プロポーズを受けてしまった。

 それは言った本人も、言われた本人も、気づいた瞬間に恥ずかしくてのたうち回ってしまうほどのもの。

 恥ずかしくて恥ずかしくて。

 でも、とてつもなく嬉しくて。

 その嬉しさが溢れて、にやにやしてしまうことがまた恥ずかしくて。

 そんなことを何度もり返して、次の日の学校ではどういう顔をして会えばいいのかすらわからなくなってしまった。

 弘樹が席に座れば、うしろにはもう優人が座っていた。

 心の準備をして、振り向けば、優人も顔を上げていた。

 ぴたりと目が合ってしまったふたりは真っ赤な顔をして固まる。

 弘樹がどうしようかと回らない頭をぐるぐるしていると、優人が口を開いた。

「あの……お、おはよう、あま………………弘樹」

 名前呼びに慣れていないからか、俯いてもじもじと言ってくる。

「………………」

 萌え死にしそう。

 なんという天使でしょう。可愛い。可愛すぎる。あぁもう可愛い。

「大丈夫か? あ、……弘樹?」

 そのわざわざ言いなおすところとかもう可愛い。

「おはよう優人」

 挨拶を返さないのがよほど怖かったのか、不安そうな顔をしている優人に、そういう。

 すると、優人はすごい嬉しそうな顔で笑う。

「ほんと、かわいいよね、優人は」

「は!?」

 可愛いって言葉を言うと、すぐ顔を赤くして否定するし。

 これがバケモノって、誰が信じるのやら。

「あ、そうそう。今度さ、また家に来いよ。由紀がさ、今度は一緒にご飯作りたいって言ってるんだ」

 由紀は優人が心底気に入ったようで、朝から今度はいつ来るのか聞いてきた。

 予定はないって言ったらすぐに、じゃあまた連れてきて、すぐにとねだる。

 優人はいい奴だから、嫌いにはならないとは思っていたけれど、ここまで気に入られるとは。

 優人はあくまでも兄である弘樹のものだ。いくら可愛い妹のたのみだとしても、優人のみはやれない。

 由紀が優人を恋愛の対象たいしょうとして見るかはまだ分からないけれど、兄妹だし、なによりこの可愛さでは好きになっても仕方がない。

 由紀は、優人をたぶん第二の兄として見ているのだろう。

 一緒に料理したいのは、誰かと楽しくご飯を作って、大好きな兄に御馳走ごちそうしたいとか、そういうことなのだろう。

 弘樹も、両親が構ってくれず、転校が多くて友達もできない状況で、寂しい思いをした。

 由紀にはそうさせまいとなるべく傍にいたけれど、寂しさを拭いきることはできなかった。

 そんな由紀が、家に来てほしいというのだ。

 もしかしたら、優人が寂しさを拭ってくれるかもしれない。

 まぁ、優人はまさか自分がそんなことできるとは思ってないだろう。

 なぜか尋常じゃないくらいネガティブだから。

「いいのか、いっても」

 そういう優人は、少し自信がなさそうに眉を寄せている。

 たぶん、親に捨てられたということと、バケモノと呼ばれていたことが関係しているのだろう。

「いいよ、むしろ来て!」

 すこしでも、自分が優人を変えられるようにするつもりだ。

「前よりいい服を……」

「着ないぞ?」

「えぇぇぇぇっ!?」

 こんな他愛もない会話を、こんなに楽しそうにしているふたり。

 ここが、一番の幸せ。

 これが永遠に続けばよかった。

 なにか大きなことを望んだわけではない。

 なのに、神は。












 バケモノの幸せを奪っていく。










 はらり。









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