第4話 千羽鶴
次の日、バーに行けば予想通り、誠はちゃんといて。
しかも、ご丁寧に折り紙の折り方の本をもってきていた。
「これが鶴の折り方な」
ページを開いて教えてくれる。
いつものお気に入りのソファーにふたり向き合って座り、そのページを睨みつけた。
「…………ふむ、わからん」
どう折るのかがよくわからない。
「まぁ、絵だからな。俺も折るから、まずは順番通りにやってみよう」
三角に折って、もう一回三角に折って。
「そこを、開いて……? あ、あぁ、こうか……」
なんとか形を
声に出して折っていることに気づいていない優人に、誠は笑う。
「おまえ、必死過ぎ」
くすくすと笑う誠は、嫌味というよりただおかしいというような、無邪気な微笑みを浮かべてそういった。
「だって、折り紙なんて折ったことないし……」
部屋の中でおとなしく座って紙を折るというのが、できない。
もともと外で動くのが好きだったうえに、そういうのは数人が一緒にやるから楽しいのだ。
ひとりでやっても、つまらない。
だからやったことがなかった。
「あとはここを折ると、顔になる。はい、完成」
力強くやったせいか、初めて作ったこの鶴はかなりよれよれで汚いものになった。
けれど、なんだかこの
「すごい、鶴、作れた俺……」
「ふつうはみんなできるよ」
尋常じゃない
「よかったな、作れて」
そう誠が言うと、優人は
「いや、あと九百九十九いる。千羽鶴だからな」
決意に燃えた優人は、さっそく次のを作ろうと折り紙の入る袋に手を伸ばした。
「俺も手伝うぞ?」
誠がそう告げると、優人は首を振る。
「いや、俺ひとりで完成させたいんだ。……あいつには、いろんなものをもらったから」
いとおしそうに、鶴を見る優人。
その鶴に、弘樹を重ねているかのようだ。
「……そうかよ。でも、繋げるときは手伝うからな」
「あ、それは頼む。やり方わからん」
真顔でそれを言ってから、
集中しているのか、
いま話しかければ、せっかくの集中が
仕方ないと肩をすくめて、いつものカウンター中央の席に座って、その優人の姿を見つめた。
どこまでもまっすぐな、その目は。
「……俺には、向かない」
小さく
「………………」
鶴を折ることしか頭にない優人には、届くことはなく消えた。
◇
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