第6話 好きだ
腕に力を入れる。すると、優人を縛っていたロープが、悲鳴を上げる。
ブチブチと切れて、優人は地面に足をつけた。
「ロープが!?」
不良のひとりが、驚いて声を上げた。
磯田は優人の
「バケモノがキレた…………っ」
優人は上を見上げている。
磯田は
しかし、優人と関わるのが初めてのようで、不良のひとりは、鉄パイプを持つと優人にむかっていった。
「おりゃああああ!」
鉄パイプを振り下ろす。すると、優人はそれを手で掴む。
不良は鉄パイプをもう一度振るために優人の手から離させようとするが、びくともしない。
「ひっ……!?」
怯えて鉄パイプを持つ手の力が緩まると、優人は鉄パイプを取り、それを不良に振り下ろす。
ごるぅあっ、という風を切る音と共に、不良は鉄パイプを頭にめり込まされて地面に
そんなことが、十秒もかからずに
優人はそんな不良たちを見て、
残りは、磯田含めて五人。倒れた天城の周りにいるのは、磯田と不良ふたり。
他のふたりは気にせずに、天城の方へと歩き出す。
ゆっくりと歩いてくる優人。鳴り
磯田はゆっくりとうしろに
優人は恐怖で動けない不良ふたりの首を掴むと、上げた。
首が
ひとを投げるということすらありえないのに、
磯田はさすが優人に何度もちょっかいを出してるだけあって、
壁に
「は……はは。
そう引きつった顔で磯田は言う。
ニヤニヤと、優人は嗤う。磯田は止まらない
一瞬でも目を離せば、殺される。
そんな
「う…………ん……」
倒れていた天城が、
それに、優人の狂気が
「俺を殺そうとすれば、こいつも
優人はそれに、だんだんと狂気を消していく。
笑みも消え、
「ふ、ははははははは! なんだよ夢島! おまえマジでこいつと出来てんのかよ!」
一か八かで天城を盾にしたら、こうも簡単にバケモノをおさえられた。
それに、磯田はもうとてつもなく喜んだ。
天城がいれば、優人はなにもできない。もはや勝ったも
なら、これで一番は磯田だ。
嬉しくて、他の不良が
「しぃぃねぇぇぇぇ!」
「馬鹿! やめろ!」
優人はバケモノのように強い力を
だから、動けない。
まずい。人殺しになってしまう。
磯田が止めようと動き始めたとき、その横をすごい速さで天城が抜けていく。
優人を押しのけて、天城は安心した顔を浮かべた。
その
痛みに顔を歪め、天城は優人に
刺した本人は茫然としていて、自分のしたことを理解出来ていないようだ。
磯田はそいつを殴る。
「なにしてんだおまえ! 逃げるぞ!」
他の不良も、関わりたくないとばかりに散っていく。
「お、俺は刺せなんて
そんなことを言い残して、磯田は逃げる。
優人はようやく我に返り、天城を見た。
痛そうに、顔を歪めながら、天城は優人を見る。
「大丈夫か……?」
そう聞いてくる天城に、優人は言う。
「おまえの方が大丈夫じゃねぇだろ!」
刺されたところからの血が、少しづつ
早く病院に連れていかないと。
「縛っていたロープのおかげでそこまで深く刺さってないから、大丈夫だよ」
そう言うけれど、天城の
優人は怪我の痛みを
「おまえ怪我してんのに無理すんな」
「馬鹿か。いま無理しないでいつするんだ」
ここから、走って病院に行く。
少し時間かかるけれど、携帯電話を持っていないし、電話ボックスなんていまどきない。
それを探すよりは早いはずだ。
「揺れて痛いだろうけど、
足は早いほうだ。急げば十分で行けるはず。
「夢島は、平気か?」
「……バケモノ
走りながら、優人は
「そっか。ならいい安心だ」
優人の言葉を聞くと、天城はまた意識が遠くなる。
優人の背中から伝わる熱や、走っている心地いい
それに、優人は怖くなる。天城が死んだのではないかと。
しかし、天城の息が肩にかかるのを感じた。だんだんと弱くなっている気がするが、急げば大丈夫だろう。
必死に足を
痛みのせいか、心が弱くなっている気がする。
天城が死ぬんじゃないかと、恐怖で足が竦みそうで。
口説いて口説いて落としてやるって、言っていたくせに、死ぬなんて。
そんなの、嫌だ。
離れたくない。死んで欲しくない。一緒にいたい。もっといろんなところに行きたい。
天城じゃないと、嫌なんだ。
天城じゃないと。
天城がいい。
天城が、
――――好きだ。
あぁ、好きだ。好きなんだ。そう
熱を
病院に着くと、天城はすぐに手術になった。
優人の方は手当を受け、そのあと病院側が呼んだ
優人は磯田や周りにいた不良の
これで当分は優人に絡んでくる不良は
警官は優人にもあまり喧嘩をするなと注意して、一度帰った。
天城は、命に
一日経ってから、警察は天城にも事情を聞くらしい。
意識の戻った天城の病室に、優人は入る。
「夢島! 大丈夫だったか?」
「平気。
「よかった……」
そう安心した顔の天城。
優人は天城に近づくと、頬を
「やばかったのはおまえだ馬鹿。俺を
「なんか、体が勝手に動いちゃってさー。やっぱ、好きな子は守りたいじゃん?」
「それでおまえが死にかけてどうする」
「えへへ」
そう、いつもの笑顔に、少し安心した。
「もし、死んだら俺はおまえを許さなかった」
「え?」
抓っていた手を離し、ベッドの横の椅子に座ると、天城の手を握る。
「俺を惚れさせるとか言って、
ぎゅっと、天城の手を握る。
大きくて、暖かい手。
生きている、
優人の
死んだんじゃないかと、頭が痛くなって。気持ち悪くなって。
天城が、優人の頬に握られていない方の手で触れる。
その手も、ちゃんと暖かい。
よかった。生きてる。
安心すると、すこし涙が浮かんだ。
それと同時に、笑顔が浮かぶ。
それはそれは、綺麗な笑顔。
天城は、ときめいたのを感じる。
「ねぇ、夢島。それはつまり、俺に惚れたってことでいい?」
そう言うと、優人はまたりんごみたいに顔を真っ赤に染めて。
「……………………………………うん」
こくんと、小さく、小さく、頷いた。
恥ずかしいのかうつむいたままの優人の顔を、頬に触れていた手を
真っ赤な顔。潤んだ瞳。困ったように寄せられる眉。
どれもが可愛くて、
あー、好きだなーと、
「夢島、キス、してもいい?」
そう言うと、
なんだこの天使。どうしよう可愛すぎて心臓が痛い。爆発しそう。
優人に顔を近づけて、天城はそっと触れるだけのキスをした。
「やっと両思いかー。嬉しすぎて夢なんじゃないかと疑っちゃうね。もしくは天国? 俺実は死んでたり!?」
恥ずかしくて、そんなおちゃらけことを言ってみると、優人は顔を赤くしながら笑う。
「俺も、嬉しい…………」
もじもじとしながらそんなことを言ってくる天使。殺し文句とはこれのことですか奥さん。
最近の天使はこんな殺し文句をこんな可愛い感じに言ってくるんですか。可愛すぎます。もう心臓が死にかけてます。
とりあえず、
「かーわーいーいー!!」
と、抱きしめたら。
「うざい」
って照れ
優人は優人で心臓が死にかけていた。
抱きしめられたりしたら死ぬ。
こうして、ふたりの恋が始まった。
恋の桜の木は、満開になろうとしている。
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