エピローグ~冬の向日葵~

2016年12月24日


時刻は午後1時。

私は、涼太のお墓の前にいた。

太陽のところには行かなかった。

いや、行けなかった。

あんな話を聞かされたら、涼太を裏切ることになるような気がして、行くことはできなかった。


今から4時間前。


「ひまわり、ちょうどよかった。ちょっと来て。」

私が階段を下りたところで、母が話しかけてきた。

「お母さん、私、出かけないと。太陽が待ってるから。」

「いいから来て。大切な話があるの。」

大切な話?

なんだろう?

「お姉ちゃん、どうしたの?」

さくらが下りてきた。

「さあ。」

私とさくらは、母に続いて居間に入った。

「ひまわりちゃん、それに、さくらちゃんだったね。久しぶりです。元気そうだね。」

ソファーに座っていたのは、涼太の父だった。

「えっ?どうして、涼太のお父さんが?」

「ひまわり、あなたに大切な話があるそうよ。お母さんは、お茶を入れてくるから。」

母は居間を出ていった。

「お二人とも座ってください。」

私は、涼太の父の向かいに、さくらは私の隣に座った。

「今日こちらにお伺いしたのは、見てほしい物があって、やって来ました。」

「見てほしい物?」

「はい。」

「何でしょうか?」

「涼太が亡くなった後、私たち家族は、その事実をなかなか受け入れることができませんでした。まだ涼太は生きていて、いつかひょっこり帰ってくるんじゃないかって……もちろんそんなことは、あり得ないんですが。それで、涼太の部屋もそのままになっているんです。涼太がいつも仕事に持っていっていたカバンも、中を確認することなく置いたままにしていました。」

確かに、涼太はいつもカバンを持っていた。

あの日も持っていたはずだ。

「しかし、あれから今日で3年です。私は、いつまでもこのままではいけないんじゃないかと思って、昨日カバンを開けてみたんです。そうしたら、こんな物が入っていたんです。」

涼太の父はそう言うと、小さな白い箱を取り出した。

「これは?」

なんだろう?

「まるで指輪でも入っていそうな箱だね。」と、さくらが言った。

「指輪?まさか……」

涼太の父は、静かにうなずいた。

「開けてみてください。」

私はその箱を受けとると、ふたを開けた。

箱の中には、指輪が入っていた。

「これは……」

「真珠ですね。6月の誕生石だそうです。」

「6月って、お姉ちゃんの……」

「はめてみてください。きっと、ぴったりのはずです。」

私は、おそるおそる左手の薬指にはめてみた。

その指輪は、ぴったりとはまった。

「カバンの中に、その指輪と領収書が入っていたので、昨日行ってみたんです。お店の人に聞くと、涼太のことを覚えていました。本当は、前日の23日にお店に入る予定だったのが、お店の手違いで24日の午後6時30分過ぎになってしまったそうです。」

それで涼太は遅れて来たんだ……

「涼太は言っていたそうです。これから彼女にプロポーズをするんだと。」

「涼太……私……」

私は、溢れ出す涙を止めることができなかった。

「お待たせしました。」

母が、お茶を入れて戻ってきた。

えっ?

この香りは……

「アップルティー……どうして?」

涼太が好きだった、アップルティーだ。

「高橋さんが、持ってきてくださったのよ。」

「ひまわりちゃんも知ってると思うけど、涼太が大好きだった物です。」

やっぱり私は、太陽のところには行けない。

指輪だけではなく、このアップルティーまで出されては……


数年後。


「お母さん、本を買うの?」

5歳くらいの女の子が、母親に聞いた。

「そうよ。お母さんの欲しい本があるの。」

「私も欲しい。」

「それじゃあ、絵本も買おうか。」

「わーい。やったぁ。」

「それじゃあ、最初に絵本を選びましょうか。」

親子は、絵本売り場にやってきた。

「どれにしようかな?」

「1冊だけよ。」

「うん。じゃあ……これにする。」

「それでいいのね?」

「それじゃあ次は、お母さんのね。」

親子は、新刊が並べられた売り場にやってきた。

母親は1冊の本を手に取った。

その左手の薬指には、真珠の指輪がはめられていた。

「お母さん、これなんて読むの?」

「これはね、『ふゆのひまわり』って読むのよ。」

「お母さんと同じ名前だね。」

「そうね。」と、母親は微笑んだ。

母親は、その本をめくってみた。

そこには、著者の言葉が書かれていた。

『ミステリーばかり書いていた私が、初めて書いた恋愛小説です。もしかして、ノンフィクションだったりするかもしれません(笑)軽い気持ちで読んでみてください。』

著者

秋山太陽

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冬の向日葵 わたなべ @watanabe1028

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