センター街2020年//22_17試重装支援戦闘計画車4号
センター街2020年//22_17試重装支援戦闘計画車4号
それは異常にごついバイクだった。
バイク便のバイクである。
見た目は、確かに赤いSUZUKI『隼』。
今時『隼』を転がしているのは、生粋のマニア以外にない。
すでに生産されていないモデルを、メンテナンスを丁寧に続けていたらしい跡が車体各所に伺える。
見た目から伺えるその形の細部の異常さ。
それは、それ程の機械の専門家でなくても、そのマシンが特別なものである、ということはわかるほどだった。
黒塗りのトランクボックスには『バイク便の御用命は、東京機動搬送サービスへ』と大書してある。
このバイク便が所属するプロダクションだろう。
そして社名の極太ゴシックの脇に『4』という数字。
練馬ナンバーの黒塗りのクラウンが、テレ朝通りから六本木ヒルズの交差点を渋谷方面へ左折する。
妙な雰囲気である。
助手席でビデオを構えている男は、人民解放軍の制服だった。
大使館付き武官だろう。
高樹町の信号を抜け、駒沢通りが別れる手前でクラウンは左端に停車する。
東京機動搬送4号車のライダーは、六本木通りの、六本木ヒルズ前を左折した所からずっとこのクラウンをつけていた。
クラウンは、ドアは開けない。
クラウンが止まるのを待っていたかのように、数人のホームレスが、窓ごしにメモらしきものを差し入れた。
ホームレスの中には腰が曲がり、歩くのもつらそうな老人もいた。
その老人は、窓をあけたクラウンの中の人物に向かって、懇願するように、
「お金、くれるんじゃろ?」
「あ、あぁ」
「お金もらえたら、年、越せるんじゃ、お金くれ、」
お金をせびるホームレスが、その根拠とするのは、今年の夏頃から渋谷新宿界隈で盛んに撒かれているビラ:『中日友誼語学館;CJFLS』による。
その薄汚れた老人のポケットには、このビラがくしゃくしゃに畳まれて入っていた。
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「後で大使館に行くがいいよ、」
ビデオを構えている武官は、比較的明瞭な日本語で無責任な言葉を放った。
大使館へ行っても、密告の報奨金はもらえない。
友誼語学館に行かないとだめなのである。
それに、その老人が金に変えようとしていた情報は、
『暫定治安維持機構と文字の入った車を4時間くらい前に見た』
ということにすぎなかった。
クラウンは、メモを差し入れたホームレスの言動を無視したがっているように、すぐ発進した。
クラウンが、渋谷警察署脇を右折し、明治通りを宮下公園から迂回して、センター街へ曲がるのと同時に、赤い“異常な形をした”隼を操るライダーは、す
り抜けをするバイク便を装って、クラウンの脇を抜けた。
さらに加速。
荒っぽい路面を軽くいなして、数秒でクラウン前方へ50メートル近い距離をとった。
それは、このマシンにしか出来ない技だった。
ライダーは、ハンドル左手親指の感圧パッド上で、指を軽くにじらせる。
センタースタンドの位置にある機動肢が伸びる。
この間0、01秒。
この非常に短い間だけ車体は小型の補助輪で支えられ、180度旋回。
機動肢再接地、路面に対して突き立てるように10cmほどの超硬金属のアンカー起動。
がきゅっ! (すごい音だ)
反動で車体はバックのまま数メートル後退。
アンカーは地面に爪を立てて、後輪を跳ね上げるような形で車体を強制的に停止させる。
これは作戦行動だった。
20mmリニアキャノン×1(砲身長25cm)。
それはバイクの右側に外付けトランクのように見える装備の中に格納されている。
発射待機状態で砲身が露出している。
もっともこのマシンのライダーがこの武装を使う時は、めったに無いはずだが。
それは、このマシンをあやつるライダーにとっては、当たり前の何でもない動作のようだった。
ライダーは、手早くマシンからおりると、眼鏡を外してヘルメットを脱いだ。
見た目、年齢以上に若そうな感じはうける。
彼は根っからのライダーだった。
彼は、バイク便に偽装した黒いトランクのフタを開けて、何かを取り出す。
フタは、ちょうど、後方から来るクラウンからライダーの顔を隠す形になる。
どこからみても、真夜中に、道端にマシンを止めてちょっと一服してるバイク便にしか見えない。
サイドトランクのリニアキャノンは、正面逆L字型カバーが上に跳ね上がるようにして開くが、横から見ると砲身全露出にはならない。
ライダーが手にしたのは銃だった。
それには、弾丸を装填する部位や、排莢口らしきものはなく、銃口に相当する部分には、フードに被われたレンズだった。
ライダーは、ヘルメットから携帯にケーブルを接続し、さらに銃の照準器にケーブルを接続する。
携帯は開いて真夜中の渋谷の天空へ向かってかざした。
キーボードタイプの重装型、小さいモニターに受信感度のステイタスバーが表示されたが、それは民生用のそれではなかった。
そこから送られてくる情報を銃の照準HUDへ流してやる。
HUDのバックライトがステルスモードで鈍く光る。
三重の照星グリッドが交互に回転し、標的座標追尾データ表示の変化がライダーの照準動作へフィードバックされてゆく。
この男は、ライダーであると同時にスナイパーだった。
クラウンが接近。
引金を引き絞るタイミングはあっけないほど簡単だ。
_すっ_急ハンドル、スピン!
銃本体から光芒が放たれたことも、人間の目では確認することは難しかった。
ほんのわずかの間だけ、あまり街頭照明の無い渋谷ビデオスタジオ通り前を明るく照らすフラッシュのような光が走ったのは確かだ。
銃から放たれた光芒は、クラウンの中でビデオカメラを構えていた男の、レンズを直撃し、カメラのCCDを完璧に焼き切った。
「哀哉」
「痛」
武官は、回転して電信柱にぶつかって止まった車内で、両目を押さえながら苦痛を堪えてのたうちまわっている。
「三浦005、234-09-11《暗号通達/送り狼の処理完了》」
ライダーは一服して、吸い殻を携帯灰皿へねじ込むとマシンをスタートさせた。
三浦仁乃助、陸上自衛隊出身の38歳。
偽装したバイク便会社のライダーだったが、この赤い隼は、暫定治安維持機構の先鋭装備。
ミッションを終えたボスのすみれ野:暫定治安維持機構、戦略MG局第七課所属コマンドディレクター/空自在籍(東山 すみれ野一尉、通称芸者一尉)と
のランデブー地点はすぐ近くである。
映像屋は、歩兵クラスではまだほとんど実用化されていないレーザーライフルの実戦シーンをパパラッチした。
そして、毒づいていた。
いつもだったら?
いくら忙しい俺だって、可愛い子ちゃんと年越しそばを食ってよろしくやってる日なのだ。
どうしてくれんだ、まったく…
しかし内心、この高揚感に拍手喝采を送っているところもあった。
数年前のあの“事件”の時は、単なる傍観者に終わってしまっていた。
“今度は、そうはさせない!”
映像屋のプライドだった。
カメラのレンズフードに貼ってあるフォトシールに口ずけをする。
すべての女性に優しく、が彼の生き方だった。
「ひゅう、ミカちゃん、俺を守ってくれい!」
今、彼が入れ込んでいるポリネシアン系の美少女だった。
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