センター街2020年//20_接近戦02:46
センター街2020年//20_接近戦02:46
人は自らの体制化構築作業をくり返していく存在である。
そしてソシオンドロイドのOSは、まさにその構造を模して作られたものに他ならない。
そして、その時点で、人とソシオンドロイドとのあまりにもの明白な違いがはっきりする。
それは、一つには、人は常にその内的な部分にバグを発生し続ける存在であり、人としての存在の見かけの外殻は、常に曖昧でぼやけている、ということで
ある。
ソシオンドロイドに、この二つは存在しない。
そして、ソシオンドロイドは、この二つ:バグの発生と曖昧な外殻を瞬時に理解し得るが、人はこの理解そのものに、常に堪え難い激痛を伴う、ということ
である。
人はいうまでもなくこの激痛を厭う。
ここに人のゆるやかな自滅の翳りがある。
暫定治安維持機構に与えられた使命は、その自滅の翳りを殲滅するところにあった。
その戦略は魂と魂の闘いがメインステージになるはずだ。
コンバットスクーター:ジレラは、渋谷区役所前信号で停車。
一佐は、ハンドルから手を離さないまま、無言で呟いた。
“この街は、もうずたずたななのね…”
意識は、常に背景ある状況そのものを感じる。それを、どう、感じるか、だ。
その場の状況、その場の状況から類推されるより深い背景。
そしてその背景から類推される観念。
意識とは、それらすべての拘束を離れて自由に飛翔することができる。
それが、自由に感じること、そのものだった。
彼女は凍てついた闇夜を振り仰ぐ。
ハマーのサーバーアクセスレベルがさらにはねあがった。
突入体は、JSLを包囲するアンカーマトリクスに変型をはじめている。
「入らねぇよぉ~~~~~~!」
薬物催眠のプロは、見えない所から襲いかかって、自分のプライドをどろどろに溶かしていくものに必死で抵抗する。
―このくされブス、犯してやるっ!―
「コアマトリクス書き出し96.64%完了」
作戦部長の留守をあずかる2人の連携プレーは完璧だった。
男の捨て台詞は、すぐモニタリングされた。
侵害勢力モニタリングウインドゥ内に、捨て台詞がテキスト化される。
コンバットスクーターは、さらに徐行しながら気配を探っていた。
ネットの中を飛翔するAMCは紫色に発光を始めた。
AMCの電子的な機体の縁が点滅し、突入体にカウントダウンサインを送る。
機械の美少女の横顔。
―迎撃第二波、行きますぇ!―
その瞬間、24機の突入体があらわれた。
たて続けに“会長”の認識モジュールを貫通。
生身の脳細胞に数十GHzでシンクロしているロジックコンバーターの大脳内ネットに、大規模な地震をも思わせる衝撃が走る。
「うげぇっ!」
頭に激痛が走る。
血と痰を何度も吐きすてずにはいられない…
ジレラは宇田川町信号から、勤労福祉会館よりに止まる。
街灯の消えかけた路地に、彼女とバイクのシルエットは、極めて高いエネルギーポテンシャルを持った闇として存在していた。
17・F-0号車オペレーションルーム。
19-1号機OSの構造が時間軸要素を加味された四次元立体モデルで描画された。
それは、普通表示されるものではない。
“敵に押されている”ということである。
「コアマトリクス書き出し解析98.97%完了」
ぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽた…
「対JSL戦略カウンタースクリプト、殲滅モードで起動秒読み開始!」
美少女が宣言する。
ぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽた…
Anti JSL STRATEGIC COUNTERSCRIPT Directed by SHIHONO
とタイトルされた様々なウインドウが、むわっ、とモニター一杯に現れた。
数は?
わからない。
後から後から出現する。
ぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽた…
「6、5、4、3、2、1、スクリプト起動」
一気に十数個のステイタスバーが現れた。
バーが、それぞれ別個の速度で進行状況を表示しはじめる。
「JSL表層系電子装甲にヒット!」
神泉町。
「まずい」“迎撃スクリプトのカテゴリーがわからん…”
「セイジさん」
17・F-0メインモニター。
「いってます。」
「JSLメガ電子装甲系、解凍率、現在47.27%、49.88%へ増加、さらに55%、」
「よし、いけ、いけっ」
神泉町
マフィアのサイバーテロリストは最終決断を下した。
「後退しながら障壁を連続起動させろ。」
「はい」
「JSLインターセプター、ありったけ打ち込め」
「あ、だめ、全部無効化されちゃう…」
モニタリングマシンの一つ(ノート)を操っていた男が悲鳴に近い声をあげた。
「審陽のサーバーが傷付かなけりゃいいっ!」
不細工なヤニ男の自信は、底知れぬものがあるようだ…
17・F-0メインモニター。
ステイタスバーが、オレンジに発色し始める。赤くなってるやつもある。
最終メッセージダイアログが出た。
『Accessed file 3,452,788,761』
『Terminated script 119,083,562』
『Situation report 357,120』
『damaged file GYATAI / 4815』
『damaged file MASURAO/ 9815』
『damaged file TAOYAME/ 2416』
『damaged file SHIHONO/ 6541』
『error 132』
『ALL JOB COMPLETED_ 1/1.02:59:45.2020』
神泉町
「間に合わんっ、物理断線しろ」
「中継機がぶっ壊れます!」
「かまわん、やれ」
セイジの視界インナーモニター
――撤退しろ――
――セイジさん――
――迎撃スクリプトのカテゴリーが全くわからんのだ!――
――それじゃ――
――ボリュームのステルス化がほとんどきかない、今は姿を消せ…――
移動事務所に改造された居住区にいる3人の男は、外部ネットに繋がっているケーブルを片っ端から抜いてまわった。
その数6本。
その内2本の高速電力線ケーブルは、引抜いた衝撃で電撃が走り、煙りとオゾンの臭いが一気に充満した。
調整槽の中身、収容ポッドの中の肉塊たちがさざめいていた。
収容ポッドの内的環境を反映させるモニターには、肉塊の出力許可されていない信号が流れて、呪詛のような音を並べ立てている。
「う、あ、すい、す、たっっYYYうい、NぶぶM…」
ばちばちばち…
「う、あぁ、消火器持ってこい」
「セイジさん、ドッペルゲンガーモジュールっす。」
男の一人が、PCカードをよこした。それは焼けていない。
「おう、わりぃな、火は収まったか、」
「うっす」
公園通り、どこかのコンビニエンスストア前。
コンパ帰りらしい女達が、公園通りを歩いていた。
白い毛皮の女が2人、黒いコートが3人、しかし、エルメス、ジバンシー、イヴサンローラン…と、どの女も超高級ブランドの満艦飾だった。
「ねぇねぇ『自由情報連邦』ってコンテンツ知ってる?」
「ヤフーとかでさ、120メガあるやつでしょ、」
「うん、あなたも自由情報連邦のフリーレポーターになろう、って、」
「あ、知ってる。」
「これも、おくっちゃお、」
彼女が携帯で送信を始めたのは、たった今盛り上がってきた男漁りの実況だった。
公園通りから見れば、センター街はたいして距離があるわけではなかったが、数度の巨大な爆発音を、何かのイベントに錯覚させてしまう怪しいこの街の神
通力は、まだ生きているようだった。
「今月援交、ぱっとしないし、あれっていいやつはギャラもらえるんでしょ、」 「うん、中国人の大佐以上とやったやつ送るとすごい。」 「へぇ」
「成美がいってたよ。」「10万はいけちゃうって。」 「やるじゃん、あの女」
「上海あたりにマンション買ってもらうっての流行ってるもんね。」 「あたしはまだいいや、それよりさ、ロジックコンバーターのオプションセットっ
て、」
すぐ脇の女が言葉を継いだ。
「あれって、自分で買って自分にインストールするナノマシンのセットなの?」
「そうそうそうそう。」
「で、インストールしたら、120メガ携帯に落としておけば完璧。」
「すごいんだって、ばりばり、」
「あれ携帯が中継機になるからさ、簡単にアクセスして、『自由情報圏連邦』のイニシエート画面見てるだけでいいんだぜ、」
「あたし入れたよ。」
「げ、マジっすか。」
「あ、いいなぁ、」
「6500円で完璧っす!」
「えー、渋谷ビッヶで買うと6000円だけど。」
「客見てんじゃん、」
「しらねぇよ…」
「オヤジの古くせェパソコン使う必要ないもん、ほら、」
そう言うと、その女は、携帯を出して、パチンと広げると、中空を見つめた。
『自由情報連邦』は自前の中継衛星があるらしい。
携帯が、その中継衛星とナノマシンがインストールされた女の大脳とを中継する直結ネットを構成する。
今、女の視界には、情報画面が展開されてるはずだ。
今日の占い、買い物情報、デートスポットの更新状況など押さえるべき所は押さえてあった、ということである。
いきなり…
『091292-769IO1878892990302020--99-727-563983221-D-6766512`0999887…』「イ
ヤ、」「どうしたの?ミサ」『8929956632112DFA90309IOOYU-09097337373727-21-302020--99
-09087…』「イ…」『8929387621-32212-769IOOYU-090973373983221-D
-6766512`06512`09…』
女のうめき声は、その見慣れたはずの情報画面が“いつもの通り”ではなかったことを現していた。
それは、見慣れた視界の中にインポーズされる画面ではない。
それは、今見えているはずの公園通りの坂の下へ向かって見えている光景の中に、無意味に溢れ帰って視界を塞いでいく数字の列だった。
駅前へ向かう救急車の数がさっきより増えていたようだが、彼女は関知できる状態ではなかったようだ。
その溢れかえる速度は尋常ではなく、正常な精神のあり方を破壊するには充分なものがあったといえる。
「イヤ、イヤあぁ、」
「ねぇ、どうしたの」
「あ、頭痛い…、吐きそう、」
「ミサ、変よ」
「うげぇ、げ~~~げ、」
女は、不様な格好でうずくまり、胃の内容物をアルコール臭い息とともに、激しく吐き始めた。
女がアクセスしていたボリューム:JSLに、突入体が直撃したのだ。
数字の奔流は、突入体が直撃して解凍し、カオス状態になったJSLの残骸だった。
一佐は、その女達の集団に気付いていたが、一瞥をくれただけだった。
彼女の漆黒のジレラは、周囲の冷たい空気を跳ね返すように止まっていた。
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