センター街2020年//19_8番外部装備

センター街2020年//19_8番外部装備




 EXTERNAL WEAPON PACK No.8(8番外部装備)75ミリ砲、弾数15。

 2号機が、17・Bにとって返し、わずかの間で換装したもの。

 今回が始めての実戦テストだった。

 2号は、アジトの手前数百メートルのビル陰に着地。

 19の隠密接敵は、のっそり歩くひきがえるのようだった。

 メインカメラが焦点を合わせていく。両手を壁に着いて主砲の照準動作に入った。

 電磁“烏賊”迷彩が、機体の色をビルの壁面と夜景に同化させる。

 続いて1号機が上体をゆっくり回転させながら2号機のサポート。

 第一射。

 どおっっぉおおおんっ…遠雷のような響きが、凍った渋谷の大気に伝わる。

 建築物破壊用の徹甲弾がスカイパーキング(2016年の宇田川町12番地付近再開発による)の中にあるアジトを貫通する。

 「センサリング」

 萩原が、インカムでボイスコマンドをかけた。

 モニター上へ、仰角40度で打ち込まれた弾体がアジトに及ぼした影響測定値が描画される。

 測定データリソースは、上空1200キロから見張りを続けている早期警戒衛星のうちの1機《増長天: RESCUE CARGO

SYSTEM-5.03》だった。

 《増長天》のメインモニターは緊急時に有人操作も可能なインターフェースが装備されていたが、通常は無人である。

 現在も、17で、2号機パイロットの注視する作戦マトリクスが描画されたモニターと全く同じコピーが、《増長天》のメインモニターに現れて地上の進行

状況を追跡していた。

 4機の機動警戒衛星“四天王”《増長天5.03》《多聞天5.01》《持国天5.02》《毘沙門天5.04》と、その制御下にある“十二神将”(四天

王の有線誘導衛星)は地上800キロから300キロの間で、地上の戦術支援に応じて自在に高度を変えながらデータを送り続ける。

 十二神将のうちの一つ“宮比羅”が290キロまで下降して、13分前から《増長天 》のコマンドとシンクロし、スポットフレームを撮り始めていた。

 第2射…どおっっぉおおおん…

 2度、射角を引き上げた。

 爆煙の高さは、おそらく上野や秋葉原あたりからも見えるはずだった。

 宮比羅のフレームは、30センチ方眼レベルで、マフィアの立ち位置を割り出していた。

 萩原が放った砲撃は、この立ち位置の間隙を巧妙に縫って打ち込まれたものだった。

 東京のど真ん中でこのような砲撃戦をやるのが、現代戦の有り様といえる。

 すでに10年以上前に、国として地に堕ちた信用を回復させるためには、どんなに短くても60年はかかる、というシミュレーションを彼は目にしていた。

 これは、その60年後、そしてさらにその先を見据えての砲撃だった。



 

 ――アラキっ!――

 ――え?――

 ――カバ女、死んだか?――


 焼き過ぎの焦茶色の肌に、ビーズを編み込んで脱色しまくった髪、そしてグレーパープルの口紅の少女は、頭の中に飛んできた声に応えた。

 「うん、死んだ。」

 その必要は無いのにも関わらず、彼女は声に出して応える。

 足下には、さっきまで声をかわしていた不細工な女の死体があった。

 正確には、もう助からない状態になっている(?)というべきか。

 もはや20台近く繰り出していたセイジ配下の戦闘車両の沈黙と同時に、女の身体も冷えていく状態である。


 ――じゃ、それ持ってこい…――

 『え?』

 ――ちぎれた腕もそっちに残すんじゃねぇぞ――

 ――うん――

 ――マリオアントロキシン753118とカイラモ45は持ってるな?――

 ――うん――

 ――カバ女に注射しとけ――

 ――わかった。――


 これは、マフィアが、ロジックコンバーターを埋め込んだお手軽サイボーグをハッキングする時によく使われるナノマシンのセットだった。


 ――そいつもJSLコンテンツにする。――

 『わ、すごおい。』


 彼女は具体的に何が凄いのか分かっているわけではなかった。

 しかし彼女は『死にたての死体の脳みそは面白い』というセイジの台詞を聞いたことがあった。

 きっとすごいことをしているんだ、という尊敬はあったようである。


 齎藤は、17・F-0で砲撃の手応えを感じていた。

 無人偵察機から1号機と2号機の画像が入っている。

 『EX-PACK No.8#2』と書かれたA4の技術書式に齎藤は二三の走り書きを加えた。


 「ヒロシマナガサキは戦争終結に必要だったなんてほざいているどっかの国や、自分んとこの核ミサイルは絶対に先制攻撃には使わないなんてほざいている

どっかの国の顔色ばっかりうかがってるへなちょこ野郎が昔から多かったからな、この国は、」

 「うっす」

 陸将の言葉は、自らが感じた手ごたえに対するコメントのようでもあった。

 刈谷三尉は、弾着解析のレポートファイルを開きながら、指揮官の呟きを聞く。

 「そんな腰抜けの集団が、金と権力ばかり掻き集めて育てたクソガキの集団っつーわけだ。昔のターミネーター思い出すぜ…」

 陸将のセリフは、熱く燃えていた。

 「何すかターミネーターって?」

 「そういう映画があったんだよ、ソシオンドロイドが実用化される前の話だ。未来から来たロボットでさ、最後にはヒーローになって死ぬんだけどな、」

 「へ~」

 軍閥自治体を背景に連合した東京マフィアは、毛細血管を伸ばすように永田町や霞ヶ関の中枢部まで食い込んでいた。

 沖縄では巧妙に北京政府の文化浸透統治が急速に進んでいるのも、北海道、日本海沿いに、実質的にロシア、韓国の飛び地ともいうべき独立自治体が清朝末

期の租界のように出来上がっているのも、彼らのなせる技だった。

 経済特別区という存在が、混沌と無秩序の培養基に成らざるをえなかった所に、まさに彼らの存在証明があった、といえる。

 回復不能な財政破綻に陥り、私企業が実質的な乗っ取りをかけた地方自治体が2010年代後半から出始める。これはある意味極めて分かりやすい道筋だっ

た。

 マフィアの存在は、欲に反応する邪悪な血流だった。

 彼らの行動理念は極めて単純明快である。

 それは、金と権力をもつ者こそが正義であり、真理であり、善である、ということだった。

 機械化されたマフィアの子弟達は、見かけは前途有望なる明るい青少年を装いながら、およそすべての社会インフラに取り付いては、その欲にまかせて喰い

たい放題喰い散らかしていた。

 「ヒーローになって死ぬなんてて、かっこいいじゃないですか。」

 「かっこいいのは物語の中だけ、っつーのは本当だな。」

 「そうっすね~」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る