センター街2020年//11_衝撃緩衝力場壁00:19

センター街2020年//11_衝撃緩衝力場壁00:19



 改造したデリカスポーツギアのサンルーフから顔を出したちんぴらが雄叫びをあげた。

 「ぶっぱなせっ、」


 萩原空将の19:2号機が、機体の両肘をクロスに構えた。次いで1号機。


 どうぅぅん!…


 呆れたことにそれはリニアキャノンの砲撃だ。(横流しの放出品か)

 20ミリクラスの実用に給するそれは、すでにあるという話である。

 センター街の、ビルの建て込んだごみごみした中で、照準もつけずに、当てずっぽうの零距離射撃で、凄まじい初速の弾頭を放てばどうなるか。

 装甲盾が第三層までクラッキングを起こす。

 あと一層クラッキングが進めばもうこれ以上使いものにはならない。

 2号機は、今の砲撃で3メートルほど、1号機も2メートルほど、反動を吸収して機体が後じさった。

 19の装甲で流された爆圧が、人垣を切り裂く。

 ビルが破壊される。

 クロスに構えた機体の両肘が跳ね返す爆風が、ビルの隙間で圧縮され、何度となくビルの稜線から吹き上げる。

 これは最低な破壊だ。

 こんなことは、武器を使って為すべきことではなかった。

 子供の遊びだった。

 陸将は呻く。


 「はじめやがった…」


 陸将の手は、増長天の極超望遠照準システムのモニタリングパネルの上を軽やかに滑った。

 トラックパッドの上に当てた指を躙(にじ)らせ、照準グリッドの微細調整を進める。

 増長天の人工実存は20メートル近い機体が睨んでいる1600キロほど真下のこの光景を、おそらく数テラバイトにもおよぶビデオキャプチャとして撮影

完了しているはずだ。

 無人偵察機の画像が入る。

 17・F-0メインモニター。

 無人偵察機は、2機の19を電子視野に収めるために、地表から300メートルから500メートルの高度を周回している。


 偵察機は、2機の19を電子視野に収めるために、地表から300メートルから500メートルの高度を周回している。


 マフィア、第二撃、間髪を入れず第三撃 

 そして第四撃、

 反撃!…続いて2撃、閃光照明弾…?…その砲撃を放ったのは、バイクだった。

 間髪入れず反撃2弾目、撤甲弾。

 さっそく反撃3弾目。

 装弾プロセスは、無音で2秒以内に完了する。

 『浅賀001、1号、2号のサポートに入ります。』

 「おうっ」

 17F-0号車、指揮官が応える。

 現在、17に搭載されているのは-Bの浅賀の5号と-Rの2号車だけだった。

 1号車:星川三佐、2号車:岡本一尉、4号車:原一尉(順次メンバー増員予定)は、特別工作班として、偽装されたバイク便会社を経営する。


 マフィアの第五撃

 2機は、押しまくられるようにして撤退した。

 それはパレスチナの自爆テロがささやかなイベントに見えてくるほどのものだった。

 またたく間に、人垣のほとんどは、ぶちまけられた十数人分のぶつ切りの肉塊の陳列会場と成り果てる。

 

 陸将が、モニターに向かって絶叫した。

 「ばかどもの映像は、たんまり撮った、オレに出張らせるなよ。」

 2号機

 『了解っ』

 萩原空将は、にやにやしながら返答を返す。

 陸将のやり方は熟知している。

 彼は熱い血をたぎらせる肉弾派だった。

 それが、そのとおりに字面通りの戦い方をする武将であることは、遠からず時代が語ってくれるだろう。

 今回は、19式特別警戒機動車の実証テストを兼ねている。

 空将の出番だった。

 操縦捍の人さし指の部分にあるトラックパッドで、機体機動のモードを、機体の自律判断優位のヘビーオートに切り替えて、発進させた。

 トヨタのワンボックスとセドリックシーマが、肉塊を雪の中に蹴散らしながら突っ込んできた。

 19は防禦体制のままギアを軋ませて路地を後退する。

 機体後方の装甲で弾き飛ばす看板の数やら瓦礫の量は半端ではなかった。

 押し分けていく物体の軋んだり砕けたりする音に混ざって、逃げまどう人たちの怒声や罵声が聞こえていた。 


 「行け~!」どんっ…ちんぴら達の車は違法火器満載だった。

 また何かをぶっ放した。

 ここまで派手な破壊が許される街になってしまった所に、東京の今日的な時代の気分があるといえる。

 セドリックシーマと四駆が押して出た。

 次にグロリアとBMWが続く。

 シーマには、

 『神奈川自治警備協会』

 BMWには何故か、

 『岡山農協自治連合会』の文字が入っていた。

 軍閥自治体が、自警団に使ってるやつに、さらにごてごてと火器をくっつけたものだった。

 シーマが、止まった。

 助手席のカーナビのモニターの中で、背筋のしゃんとしたスーツ姿の男が演説している。

 『みなさん、これは救いの実践修業です…』

 モラルの詭弁の中から魂の飛躍を説くのは、前世紀末から流行っているいかがわしい手合いの常套手段だった。

 それは反社会的な人格に達成感を与えるには、またとなく効果的な言葉でもある。

 ドライバーがカーナビの演説を見つめている。

 『頑張ってください…』

 「セイジさん、いいこと言うよなぁ、」

 「人助けができる生き方しなきゃだめだよな、ほんと」

 「そうだぜ、そうしないと、この日本はだめになっちまう…」

 聞く方にも何を頑張ればよいのか、分かっている様子は無かったが、問題を感じてるそぶりもない。

 生きながら人を辞めたものにとって、主体の喪失こそ望ましい。 

 主体的な生き方とは、人として生きるための義務が必要な生き方だ。

 どこかの独裁国家のプロパガンダを引き合いに出すまでもなく、ここは無政府主義を信望するテロリスト達の世界であり、彼等が人として望ましい生き方を

歩む可能性を剥奪された存在であることは記録しておくべきであろう。

 「スズキさ~ん」ばんばんばん…走り寄って、ドアを叩く女がいた。

 「おー、カガタじゃねえか」

 スズキは、カバ女の知り合いらしい。スキンヘッドのちんぴらである。

 「オレがさー、ぜーんぶモニターしてんだぜ~」

 カバ女は自分のことをオレとよび、得意そうに応える。

 後席で、弾倉をチェックしていた別のふたりが、女に聞こえないように話していた。

 「あんなブスのどこがいいんだか。」

 「セイジさんは、やらしてくれる女はみんないい女なんだよ。」

 「趣味悪い…」

 スキンヘッドドライバーは、カバ女に会わせる。

 「セイジさん、よろこぶんじゃねえの?」

 「あんな奴さー、ぜ~んぶ記録にとって虐めたいよおぉ~」

 19のことをいっているらしい。

 あるいは、コクピットに垣間見えた19のパイロットのことか。



 19式特別警戒機動車:アームファイアリングポジション/ピンポイント射撃。

 視界正面の円形モニターの照準円環に、水平方向と垂直方向の傾斜をあらわす基準面がモニターの中にかぶさるようにして現れた。

 それは、腕を振り回す先へ追い付こうと、きびきびと動き回る。

 1号機が、バック。

 ゲームセンターに突っ込む。

 機体後部の装甲が1階のガラスすべてぶち破っていく。

 派手な破壊音と、破壊を免れたスピーカーの店内BGMが重なった。

 衝撃で外れた店の看板が1号機の上に落ちてきた。

 どん…萩原空将の放った50ミリ一発目は、10メートル先の四駆を吹っ飛ばした。

 この戦いは、往来でラリって刃物を振り回す人間を押さえようとするプロボクサーに例えられるだろう。

 どん

 「くそガキ相手に、こんな狭い場所でっ…」

 どん…50ミリ線形加速砲の薬莢が、一個、また一個、地面に叩きつけられて、バウンドしながら転がっていく。

 便宜的に“薬莢”と呼ぶが、それは弾体を瞬時に極超音速まで加速するための使い捨て式電磁加速加圧ユニットだった。

 水平射撃でぶっ放せば、ここ渋谷から、練馬や川崎にある標的を撃破できるほどの初速である。薬室の電磁昇圧レベルは最低に落とし、さらに手動で減圧ス

クリプトをかましてあった。

 インカムに怒鳴る。

 「1号機、障壁展開いくぞ、一気にカタつける!」

 『あ、はい』

 正面円形モニター両サイドの感圧パネルに指を走らせた。



 19式多重積層型衝撃緩衝力場壁-新上州重工(株)・ロックウェル・コルメトラン Co Ltd-のアバウトがモニターにあらわれた。

 2機の19式の右肩のジョイントに障壁展開用のプロジェクターに電力を送るケーブルがある。

 先行量産型であるこの3機は、まだ外側にむき出しのままだった。

 萩原空将

 「3分展開したら40秒以上間を持たせるんだ。」

 『やっぱり!?』

 萩原空将

 「仕方ねぇな、オーバーヒートしちまったら元もこもねえ、」

 埼玉出身だという萩原は、自分の口調が次第にガラが悪くなっていくのに快感を感じていた。


 ビル影等から狙い撃ち、30ミリクラス至近弾だった。…どん


 『展開まで15秒』

 インカムの中で19のボイスアシスタントがアルトの艶っぽい声で喋った。

 空将が怒鳴った。

 「展開っ」

 彼からの連絡。

 『展開します。』

 右コンソールのスイッチを指を走らせて入れた。

 出力インジケーターの同心円の間隔が窄まって、機体前方右手を突き出した先に“力”が圧縮された。

 分子間力を起電力として利用する対消滅反応タービンからダイレクトに供給される電力が、いきなりレッドゾーンまではねあがった。

 そのまま右手を振り回した。

 それは、見えない壁だった。

 緩衝力場壁と荷電壁のベースとなる基本構造は同じだが、緩衝力場壁は、楔のように変型させて、腕の向く方に突き出すことができた。

 障壁は、埃でどす黒く汚れて凍り付いた雪を削り取るように弾き飛ばしていく。

 “ふぉnnnnnn…”と、空気と“力”が重なり合って共鳴する音が響く。

 『解除まであと1分20秒』

 どん、

  きゅるりん…かしゅん 

 実包弾はその自らがもつ力学的ベクトルを削がれたり、あるいは緩衝されていく。

 どん

  きゅきんっ

 どん

  かきっ

 『あと30秒。』

 打ち出された弾道を完成させることなく失速して地面に転がったり、90度近く跳弾するものが続出した。

 どん

 『あと10秒』どどどん

 「解除」

 彼が続けた。

 『解除します』出力インジケーターがもとに戻る。

 「このままじゃどうしようもねえ、」

 『!』

 「自分の判断でどんどん行け。」

 『はい』

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