センター街2020年//05_十二月八日付朝刊

 3週間前、パイロット:荒木田は、醜く変貌した妻と娘の遺体と対面した。

 それは、あまりにも突発的すぎる事件だった。


 娘(3才)の両手と、妻の右手は車のタイヤで引き潰されたように粉砕されていた。

 腹部はナイフで裂かれて内臓が引き摺りだされていた。

 しかもその状態でかなり歩かされたらしく、切り裂かれて外にはみ出した部分や内臓が泥にまみれていた。腕や足など皮膚の露出している部分は、カッター

で斬り付けて作ったと思われる落書きが無数にある。

 そして妻も娘も、顔が原形を留めないほど焼かれていた。


 『活き作り』というリンチ。


 それは、標的にした人間を、複数のサイボーグ達が、あらかじめセッティングされた無人区画の中に追い立てて楽しむ、というものである。

 2016年以降、警視庁が摘発したケースで12件あったが、2019年の現在でも、いまだ未解決が8件あった。


 この時の状況を記録したと思われる殺人ムービーが、インターネット上で確認されたことと、容疑者の親が権力者であった時の捜査の歯切れの悪さを書き留

めておかなければなるまい。



 前世紀の末から、この国には人権主義者と呼ばれる特異な存在が、多数、跳梁跋扈している。

 政治テロや宗教テロがはびこり、3流国に成り下がったこの国を、ある時期、したたかに彼ら人権主義者達が支えてきた責任を問いただし確認することは、

今となってはかなり困難な作業だ。

 しかし、現在、軍閥化したいくつもの地方自治体首長勢力と彼らが結びつくのは、時代的な必然ともいえた。


 上流階級の子弟であるところの“重度身障者:サイボーグ”が“事故”を起こす。


 軍閥自治体は、人権主義者にとって、反権力の輝かしい理想の基地である。


 “重度身障者”の“事故”は、体制権力側から正義をもぎ取り、軍閥自治体の子弟家族の愛を守り抜き、この輝かしい理想をより堅固なものとなす価値ある

取り組みだった。

 寄生虫のようにいたるところに繁殖をはじめた軍閥自治体は、犯人の特定できない“殺人事件”の増加を支援していた。

 荒木田の妻と娘、それに被疑者達の消息に目星がついたのは、19式特警の衛星追尾解析システムのテストの結果、たまたまの僥倖にすぎない。



 17・F-0作戦室。


 齎藤がクリップボードを見ている。

 新聞の切り抜きが挟んであった。



 『朝日新聞2019年十二月八日付朝刊:また残虐リンチ殺人事件!


 十二月七日午前6時頃、海岸3丁目を巡回していた三田署の五十嵐巡査は、海岸9番地から6番地にかけての路上で、凄惨なまでに暴行を加えられた二人の

女性の遺体を発見した。


 現場は2017年から完全に無人区画となった倉庫街で、遺体は、緊急DNA照合システムにより、防衛省技術研究所勤務の荒木田武史さん(28)の妻美

世子さん(27)長女沙苗さん(3)と判明。


 遺体の状況が常軌を逸していることと、未確認情報ながら、二人を殺害したと思われる時の状況を写し出した動画コンテンツが、複数の掲示板で目撃された

との情報もあり、警視庁は、海岸三丁目猟奇殺人事件として捜査本部を設置した…』


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