3ー捌
王学斗は、ただ常世の中を漂うように、身を委ねていた。どれぐらいの時を経たのだろうか、考えもつかない。何しろ常世には時間が無い。それにしても自分が現世で生きていたよりは随分長く、漂っているはずだ。
現世は、無常の世界。つねに変わりゆく
皮肉なものだな。憧れにとどめておけばよかったものを、ついに常世の一部として俺はこのままここで永遠の日々を過ごす事になるのか。苦悩から開放されたこの世界、ここで永遠の存在になるのも、嫌いではないが。
荒野の中、サラサラと流れる川がある。と言っても、ここは常世、現世のように物が動いているわけでは無い。現世の言葉を使ってあえて説明するとそういう詩的な表現が好ましく思えるだけだ。
遠くには、常世の民の大群が奇怪に周回している。
ここにいれば、常世の民達は、決められた仕事をするように、荒ぶる事も無く、ただただあてもなく群集で
「おい、俺もお前も、まだまだ現世に仕事を残して来ているようだぞ」
突然、足元から声がした。小人だ。
「よう。王学斗。元気か。よし、お前に協力してもらう為に、まずは2人でちょっくら現世の見物に行ってみよう」
小人が言うと、突然、地面に穴があいて2人は落ちていった。
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「ここは?」王が尋ねる。
「まぁ、見てみなよ」小人が指差す。
蒼、赤、紫、橙のかぶりものをした、どれも奇妙な出で立ちの4人が
そうこうしているうちに、
男のほうと言えば、どんどんと常世の民達に取り囲まれるが、手を下すまでも無いという威厳で黙っている。
一方的に男が座っていた辺りに常世の民達が集まり、粘土のようにどんどんとくっつき、男は見えなくなった。塊は際限なく巨大化していく。
「ここは日本だ。君がいた時よりはかなり昔だけどね。安土桃山時代と言えばいいのかな。戦国時代だよ。要は。
この国はかつて、大国主がいた。あの黒尽くめの男は大国主のポンカロイドを受け取る器を持っている」小人が言った。
「では、黒い男が黒鉄家、あの4人は、アラハバキを守る蒼磨家、赤猫家、紫雲家、橙花家、という事ですか」
4人を見ると、それぞれ蒼、赤、紫、橙の光に包まれ、その光は黒い常世の民と一体化した塊に一気に降り注いだ。
「これが
「あとの1つはどこに行ったんですか?」
「まあそう焦るな。大国主の力は強大だ。アラハバキに封じられてはいるが、それを持つ事で、あの4つの家は力を得ている。だが4つの家はその恩恵を受け取る代わりに、危険な宿命を負うこととなった。浮かばれない大国主のポンカロイドをこうやって120年に一度、元に戻し、現世に集まる常世のエネルギィの一掃をする。それがこの
爆発音が突然した。常世の民にまとわりつかれて塊と化していた男のほうだ。見ると、常世の民は全て消滅して、黒尽くめの男が1人で立ち上がった。
「なんだ?」
「あいつは、お前の言うとおり黒鉄家のものだ。黒鉄家では、何世代かに1度、5分割された大国主のポンカロイドの一つが宿ったものが生まれてくる。120年に一度、アラハバキにより封印された他のポンカロイドと融合して、黒鉄の中で大国主が再生されるんだよ」寂しそうに小人は言った。
「美しい。素晴らしい。」
「こうやって、120年分溜まった常世の民を潰す事によって、なんとか常世のもの達の暴走を防いできたと言うわけだ。そして終わればまた大国主は分断されてしまう。次の120年後までね。
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「あれは、大仏のようだな」ポンカロイドの転送後特有の
「そうだよ。奈良の東大寺に来た。そこで指揮してるのは
確かに、ひどい。ひどい死臭だ。死体を見ると、体が半分無くなっていたり、干からびていたり、死に方がひどい。汚い。どうやればああなるのか。
「これ見たら神の
「吉備真備が大仏建立に貢献したという史実は知ってましたが、現実は微妙に違うと」
「大仏を作る事で、大国主の祟りを封じようと
「そんな事を知っていたという事は、吉備真備のポンカロイドは大国主のポンカロイドの1/5という事ですね」
「ああ、鋭いね。さすが。大国主をアラハバキに封印している力の源泉は
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「今度はどこだ?ここは?現世には見えないですね。かといって常世でも無いようだ。」
「ここは2017年の現世だよ。壊滅の8月と後に言われた現世の崩壊後の世界だね。常世の民が人間の大半を喰ってしまったし、現世の一部は常世との融合もみられ、元の秩序が狂ってしまったのだ。」
「常世の民がまだうろついているようですね。現世にいる常世の民は見慣れているとは言え、
「そうかい。それもいいだろう。だが、私はこの崩壊の8月を食い止める為に、この小さい体と少ない知能を駆使して、果てしない旅を続けてきたんだ。君をこうやって誘ったのもその一環さ。悲しい事言わないでくれよな」
「あ、あれは見覚えのある男女ですが。随分と昔の事で、もはや記憶がぼやけている。私とは縁があった2人のようですが。死体を何体も埋葬しているようですね。」
「そうだよ。あの女の子は物部翠、男は小包香助と言う。王学斗さん。あなたに崩壊の8月を教えた事で、何かが変わるのか、俺も知らない。崩壊の8月は物部与四郎の試みが利用される形で、常世の暴走が始まる。これだけは定番の流れのようだ。さて、そろそろ戻るがいい。そうだね。戻る時は、丁度あのベトナムでの会食後にしておこうか。やれるだけやってみてくれよな」
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