第8.5話:Thought and plot

悠人がグリフィアと戦う前、宿屋


「.......」


残された3人(クラーリは寝落ち)はひじょ〜に微妙な空気感に苛まれていた。

悠人のことを心配していたシスルスも今ではすっかりこの空気感に耐えられない、といった感じであり、主人の強さも影響するのだろう、心配なんて"無駄"な思考はどこかへと消えていた。

アリアもアリアで悠人からこの場を引き受けた身ではあるが、かの『"元"緋髮の悪魔』を持ってしてもこの状況は耐え難いものがあるのだろう、先ほどから思案顔で黙り込んでいた。


そんな空気に耐えかねたのか、それとも単に空気が読めないのか、あるいは他に思うところがあったのか、この沈黙に対し終止符を打った。


「あ、あの....」


「ん?なんだ?ハピア」


「はい、えと...質問をよろしいでしょうか?」


「答えられるものならな」


「はい、えと少し前から気になっていたのですが....その十二将やユート様のことをお聞きしたく....」


「....そういえば説明してなかったな、そうだな....簡単に言えば....」


簡単に言えば十二将とは悠人を王と定めた家臣団の通称である。

十二将自体の名は他人からつけられた名だが、思いのほか言いやすくて気に入っている。

特徴としてはそれぞれが違う十二の種族で混成されている世界でも唯一の異種族チームであり、その強さは世界で敵がいないのでは、と思うほどだ。比較的戦闘が苦手な者もいるはいるのだが、一般兵や騎士程度なら倒し続けれる実力を有しているためさほど問題はない。

その成り立ちは悠人が勝負で勝ったり、助けたりと様々ではあるが全員が固い絆とユートへの絶対的な忠誠がある(と自負している)。

参考までに昔、悠人と対立した軍3万に対したったの13人(シスルスは刀剣として)で誰一人死者どころか負傷者すら出さず完膚なきまでに叩き潰したことがあるほどだ。


「....な、なんといいますか....果たしてユート様は....」


「人間か?だろう?ちなみに出会ったのは私が最初だったのだが....あの頃から化け物級だったな、何と言っても戦闘中に成長していっていたことが恐ろしかったな....」


「成長....ですか?」


「あぁ、前にスキルは説明したな?そのスキルをあいつ余すことなく使いこなしてな....初対面の印象は『化け物か!?』だった。これまで負け知らずだった私が初めて地にふし敗北の味を知ったよ」


ケラケラと笑うようにアリアは語るが当時は腸が煮えくりかえらんばかりの屈辱を覚えたいという。

それもそうだろう。アリアは前にも言ったが元魔王、人々から『緋髮の悪魔』なんて恐れられた当時最強の魔人種であり敗北なんて相手のみ、自分には関係がない、とおもっていたほどだ。

それがただの人間(この場合は不明)に八つ当たり気味に襲撃し最初こそ優勢だったものの最終的にはボコられる、という結果に終わったのだ。


「攻撃を全て躱されるわ最初使えなかった魔法、スキルをバンバン使うわで....恐怖もあの時初めて感じたな」


「.....で、では何故仲間に?」


「それか。私の生まれた場所ではな負けたらその者の伴侶になれ、強者こそ絶対との教えがあってな。まあ最初はその教えに渋々だったが....いつの日だったか、本気で惚れた、というとこだ」


そう語るアリアの目はどこか熱っぽく流石のハピアにもその言葉が偽りではない本心であることは簡単に理解することができた。


「そうでしたね、いつでしたっけ?夜這いに来たのは」


「よばっ!?」


「いつだったかは覚えていないが。たしか適当に言いくるめられて相手にもしてもらえんかったな」


そう言いながら自身の...どことは言わないがある女性的な部位を見てトホホと言った具合に肩を落とすアリア。


「ユート様は寛容で寛大な方ですが、なんというかあまり欲が無い方なんですよね。鈍感なのか女性に手を出す素振りすら見せ無いですし」


....シスルスの言い方だと誤解が生じかね無いので悠人の名誉のために補足しておくと悠人は別に男色の気があるとか不能とかではない。

ただ生物本来の種族保存の欲というものを無意識の内に理性で押さえ込んでいるだけであり別に無欲というわけでもない。

いや...それ以前にもともと自分も含めて生き物があまり好きでなかったのも影響するだろうし、十二将とは悠人にとって家族同然というのも理由の一つだろう。


英雄色を好む、とはいうが悠人には当てはまらなかった。


「えと...すみません、なんだか余計にユート様のことがわからなくなって....」


「そうだな....まあ、最初は難しいがユートは信頼できる。なにせ私たちの王だからな、まあそのうち嫌でもユートの優しさがわかる」


信頼、という言葉に胡散臭さを覚えるのはハピアにとって仕方がないことだろう。

いくらハピアが奴隷だとはいえ、生まれた時から、というわけではない。

まだ誰にも言ってはいないがハピアが奴隷になったのは親に、一族に売られたためだ。

詳しい事情は次の機会とするが、とにかくハピアはそう簡単に信頼しろ、と言われても少しならまだしも全幅は少し難しかった。


(あぁ...こんな時にクラーリが羨ましい...)


そんな呟きが聞こえた聞こえてないかはわからないが、クラーリは寝ながらえへへ〜と笑顔を浮かべていた。


「ふふ、こやつも可愛いものだな....」


そう言いつつアリアは起こさぬように優しくクラーリの頭を撫でる。

クラーリはいい意味で無邪気な子供だ。

奴隷になった今でも嫌な人には懐かず、どれだけ疲れていようとあまり弱みを見せたがらない。

だが裏を返せば好きな人、信頼できる人と判断できたならばそれが例え自分より遥かに強くても懐き現在のように眠ったりもする。

奴隷としてはいささか図太いとは思うが、ハピアにとってそれが何より羨ましかった。


「まあ....そんなに深く悩んでいても始まらんだろう。あいつは口下手だから代わりに言っておくが、信頼云々以前にあいつはお前を信頼している、それもあいつの中じゃ既に仲間、家族の域だろうな」


そう言いながらガシガシとその赤髪を乱暴に掻くアリア。

悠人にそういうことを一時的に任されてはいるもののやはり他人を導く言葉、というのは元魔王としてもアリア個人としても恥ずかしいものなのだろう。

その微かに赤く染まっている頬を見て思わずハピアは笑みをこぼした。


「な、なにがおかしい」


「いえ、その....私達が今どれだけ幸せなのか改めて実感したというか....奴隷に落とされた私が、私達がユート様やアリア様、シスルス様と巡り会えたのは運命なのかな、と思いまして」


そう言いながらクスッと笑うハピア。

それを見るアリアの目もシスルスの目もどこか穏やかで優しげであった。


「っと、今少しユートの魔力が膨れたな。そろそろ帰ってくるはずだ、迎える準備でもしておこうか」


「はい!」


その言葉にハピアは満面の笑みで応えた。





カリエント帝国 会議室


そこでは現在、各大臣と皇帝による会議が進められていた。


「兵務、勇者達の具合はどうだ」


「はっ!ただいま戦闘勇者は着実に成長しておりこのままの調子でいけば少なくとも半年後には単独で一個中隊に相当するかと、支援勇者も着実に成長しております。それと一月後には迷宮へと入り底上げを図る予定です」


「わかった、経理はどうだ」


「はっ!今後勇者達にかかる経費を考えますと....」


このように今回の会議の主な議題は勇者についてである。

勇者といえども年頃の少年少女でありやはり食費や諸々の雑費は結構かかる。

しかもそれが39名ともなると経費が凄まじくかさむのだ。


「そうか....では競争性にする。成績が良いものは厚遇するが悪いものは冷遇すると伝えよ」


「はっ!かしこまりました」


「それと兵務は訓練を強化、一月後には最低でも迷宮30層以上クリアできるようにしておけ」


「かしこまりました」


「では恐れながら最後の議題に移らせていただきます。最後の議題は勇者 ユート・カミヤの処遇についてです」


進行である国務大臣の声に皆が顔を顰める。

現在、城内において悠人の扱いは逃げ出した腰抜けと"脱走者"とされている。

無論公にそんなことは言わないが勇者達のほとんどが消えた悠人のことをそう思っているだろう。

では、その"腰抜けな脱走者"を国はどうしておくのか?


「うむ、今でこそ情報が統制されているがいつ勇者もしくは兵士達の口より民衆にバレるかはわからない。ましてやユート・カミヤ本人より告げられれば困りものだ」


「だが、果たして情報が漏れたところで民衆が信じるのか?勇者とはいえあいつは穀潰しと聞く。それに勇者達から疎まれていたそうじゃないか」


これまでで一番白熱したであろう。

それだけ勇者の外部流出は難しい問題であり、それぞれ連れ戻すべき、や放っておいても無害など意見が真っ二つ割れることとなった。

そのどちらの意見もメリットデメリットがあり、例えば前者の『連れ戻す』はメリットとして勇者の情報がこれ以上外部流出しない、や他国に渡る危険性がないなどだが、デメリットとして経費が増える、他の勇者との確執により士気の低下に繋がる恐れがあるのだ。

後者の『放っておく』というのも外部流出の恐れはあるが経費がかさまないなどのメリットデメリットが存在している。


そんな白熱した会議の中、皇帝が直々に発言した。


「.....いっそのこと殺す、というのはどうだ?」


「殺す...ですか」


「あぁ、ユート・カミヤのスキルは『見極め』それ故に不意打ちや闇討ちには弱いだろう。無論殺害が発覚した場合は民の支持も落ちるだろうが....どうだ」


どうだ、と言われて国の君主たる皇帝陛下の意見に意見する猛者はここにはいない。

そのため誰も反論はしなかった。


「反論はないか。経理、暗殺者を雇うとしていくらかかる?」


「そうですね....念を入れて中級以上を雇うとして、口止めと支援を含めると金貨数枚はくだらないかと...」


「ならば問題はないな。諜報部と連絡を取りすぐに決行せよ。暗殺者は達成後に黙らせても構わん」


その発言と同時に皇帝が会議終了を告げる。

結論としては勇者の成長をはやめるのと、悠人の暗殺となった。


が、ここから帝国にとって悪夢のような出来事が起こるのは誰一人知る由もなかった。





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