第6話:城塞都市アルン
城砦都市アルンは帝都と副都の間に存在し他にも様々な交易路が交差していることもあって堅固な城壁と精鋭とも言える兵が多数在中している
そのため帝国最大の防衛拠点といっても過言ではくらいだ。
実際、アルンは何度も戦火に晒されているが一度として占領されたことが無く全戦全勝、永劫無敗の壁とまで謳われている。
そんなアルンへ俺、シスルス、アリア、ハピア、クラーリの5人はつい先ほど到着し現在、街へ入るためのチェックの列に並んでいるところだ
それがまたやたらと長く、嫌がらせなのか、かれこれ1時間以上動いていない列にモヤモヤしていた。
「チェックが厳しいのはいつものことだけど....こんな長かった記憶はないんだが....」
「仕方がないだろう、今この国は各国との緊張状態、より厳しくなるというものだ、それがここならなおさらな」
かろうじて暑くもなく寒くもない春の陽気なので耐えれるがこれが暑いか寒いからしてたら絶対通り過ぎてるか無理やりにでも上から行く。
「暇だな.....ちょっと遊ぶか」
そう言って俺は自分の手に一振りの無骨な剣を出現させ、手元でクルクルと回す。
「む?そんなスキルはあったか?記憶にないんだが....」
「これは勇者の1人から貰ってきたスキル、効果は自分の魔力を使用して自由に剣を作り出すスキルなんだ、面白いスキルだろ?全力で作れば神剣くらいなら作れるかもしれん」
「そ...それは私の存在意義に影響が......」
横でがくりと沈むシスルスは置いといて悠人は次々と剣を形作る。
先ほどのように無骨な剣や美しく装飾された剣、波紋が美しい刀など悠人の前には一瞬にして数十の刀剣が出現した。
これを見て更に沈むシスルス、だが1人あきらかに違う反応を見せる人物がいた。
「あの...ユート様、これ持って見てもいいですか?」
「ん?あぁ、いいよ、気をつけろよ」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って目を輝かせるのはハピアだ
ハピアは俺が作った刀剣をまるで恋人を見るかのような目でじっくりと見ては恍惚とした表情を浮かべすぐに「実戦...」とか呟いてちょっと切なそうな表情をする。
「.....なあユート、もしかしてこいつお前さんと同類か?魂も若干似てる気がするんだが....」
「あー....うん、たぶんな。戦闘が得意って言ってたし」
アリアは若干遠い目気味にハピアを見つめ続いて俺を見つめため息を吐く。
俺とハピアの共通点、それはおそらく軽い戦闘狂という部分だろう。
自論だが戦闘狂は2種類存在する
徹底的に戦略を練り卑怯と呼ばれようが相手を完膚なきまでに叩き潰すのと、己の力と技術のみで対象を容赦なく撃滅する、この2種類だ
似たようなものだがアリア曰く俺は両者どちらともなのだがおそらくハピアは後者だ。
明確な違いとして、前者は軍団としての戦闘狂、後者は単独での戦闘狂である。
ちなみに先ほど言った魂がどうこうというのは純血の魔王としてのスキルで対象の魂を見ることができることに由来する。
アリア自体このスキルは好きではなく滅多に使わないが先ほど使ったところハピアの魂は戦闘向き、どちらかというと俺の嗜好に近い魂を持っていることが判明したらしい
「ハピア、残念ながらその武器俺から一定距離離れたら消滅するんだ、後で俺の手作りでよければ作ってやるよ」
「本当ですか!?..あ、いえ...えと、ありがとうございます」
思わず興奮してしまったのか手に持った剣をブンと振り上げて喜びを示す。
「まだ後少し時間はあることだし....どんな武器がいい?基本何でもいけるけど」
「そうですか.....では双剣は可能ですか?昔、双剣を愛用していたので」
「了解した、クラーリ....は寝てるか。じゃあアリア、俺しばらくデザインと性能練るから後よろしく」
そう言って俺は頭の中でハピアへの双剣を組み立ての構想を練る。
というのただの建前であり正確には時間つぶしのためにその昔誰からかは記憶していないがその誰かから獲得したスキル『
結局、起こされたのはたっぷり30分以上経ってからであった。
□
アルンの街は城塞都市の他に交易都市としての側面も持っている。
前述の通り様々な交易路が交差している場所に位置するためでありそのため都市内は多くの人でごった返している。
露天を開き大声で客を集めるもの、珍しいものが来たと謳っているもの、もちろん露天商ばかりではなく多くの店舗が軒を連ねておりここにいればほとんどなんでも揃うとも言われているほどだ。
「相変わらずの人の多さだな....吐きそうになる」
「私もそれに同意だ、うっかり吹き飛ばしたくなる」
「殺りますか?ユート様」
「やらないよ!?こんなとこでそんなことしたら世界中が敵に.....あ、敵だったか」
悠人は元大英雄にして元史上最強の魔王だ
つまり一度は人類側と敵対しておりその際に幾つかの軍隊を師団単位でいくつも吹き飛ばしたりしたこともあった。無論俺の仲間たちも同様にだ
その時は十二将改め地獄の眷属とか呼ばれてた覚えがある、俺は相変わらずの魔王だったけど。
だがまあ、今回はいきなりそんなことをやったらこの国が滅びかねんし他の街に入れなくなる可能性もあるので却下だ。
「とりあえず情報屋に行って、後は適当にぶらつくか」
情報屋とはその名の通り情報を売り物とする日本で言うところの探偵のようなものだ
お金を払い情報を買う、情報がない場合は追加料金を払い調査をしてもらうというものであり
比較的個人情報がどうでもいいこの世界だからこそ成り立っている職業とも言える。
ただしこの仕事は限りなく裏に近い稼業ということで利用はあまりせず緊急時のみの利用というのが暗黙のルールとなっている。
何故なら情報を買うということは同時に◯◯が△△の情報を買ったという新たな情報が生まれそれも売買されるからだ。
まあ、そんなことを言ってしまえば集めれる情報も集められなくなるので利用に躊躇などしない、それに襲われるのならある意味そっちの方が都合がいい。それにこの街の情報屋、というかかなりの街の情報屋は知り合いであり一緒に酒も飲み交わした中であり結構仲が良く信頼もできるので正直そこの利用に躊躇はない。
ということで俺らは早速人混みを分けて進み情報屋を兼ねている目的の酒場へと移動することにした。さっきも言った通り利用は憚られるためこういった他の仕事をしていることが多い、別にお酒が飲みたいとかではない。
10分もすれば目的の酒場【羽兎亭】が見えてくる。懐かしの木造酒場であり3年ぶりにもかかわらずほとんど変わっていない。
アメリカ西部開拓時代の酒場のような戸を開けて中へと入っていく。
「ただいま〜、マスター、お久」
「ん?誰だおm.....ユートか!?」
昼間だからなのか昔馴染みの常連客がポツポツといるだけの店内にマスターの叫び声が響いた。
歳は30ちょっとだと言うのに遺伝の影響なのか髪が無くスキンヘッド、少しいかつい顔面ながらも羽兎なんて可愛らしい名前をつけるマスター、エルサラン・ロキシードだ。
「久しぶりだなマスター、頭は相変わらずだが元気してた?」
「おうおうおう、あいも変わらずの辛辣さだな、まあ、座れ座れ、いつものでいいよな?」
そう言いながらエルサランは常連客&アリア達ガン無視して悠人をカウンター席へ案内、いつも飲んでいた果実酒を悠人へと差し出す。
ちなみに度数はほとんどない
「最後にお前さんが顔出してから....3年か?何してたんだ?今度は神でも従えてたのか?」
「んなわけあるか、冗談は顔だけにしてくれ。ちょっと訳あって遠いとこ行ってたんだよ、それより本題入っていいか?」
「んだよ、久しぶりの再会だっていうのに....まあいいけど、で?本題ってのは?」
渋々といった感じでエルサランは料理を作りつつそう問う。
「情報が欲しい。報酬は前金で金貨1枚、目的達成でプラス金貨1枚、どう?」
「金貨2枚か、内容は?」
通常、情報屋の報酬というのは最低でも大銅貨、高くても銀貨数枚というものが相場だ。
だが今回悠人が提示したのは相場を大きく超える金貨2枚、破格も破格、崩格レベルだ。
前々から俺はこういった破格の報酬を払うことが多かったがその時は大抵、前線近くの街の住民の情報とか危険なものが多かった。
そのためかエルサランはその報酬を聞いた際につい身構えてしまい、その後に続く言葉に力が抜けてしまった。
「簡単に言えば人探し、十二将って知ってるだろ?この街にいる十二将を探して欲しいだよ、それだけ」
「は?」
人探しといえば情報屋の仕事としては初歩中の初歩、価格だってせいぜい大銅貨数枚が妥当だろう。
そのためかエルサランは聞き間違いかと思ったのだろう、ぽけっとした顔になっていた。
「すまん、もう一度頼む」
「この街にいる十二将を探してくれ」
「.....わかったが、報酬高すぎやしないか?危ない匂いしかしないんだが」
「いや、たぶん危なくないと思うけど....何分あいつら気性荒いからな、あと前金は諸々の諸経費込みだから」
「あ、そいうことか、了解した。そうだな....一応長く見積もって3日後くらいに報告しよう」
了解したと返事をする。
正直もうちょっと話していたかったが表にいつまでもポカンとしたアリア達は放って置けないためとりあえず果実酒代とチップを払い『羽兎亭』を後にする。
「お待たせ、何もなかった?」
「数人にナンパされかけたが威圧したら去っていったぞ?全く....次来たら吹き飛ばしてくれよう」
「ん、了解した、が頼むから吹き飛ばすなよ?後は.....とりあえず俺が宿取ってくるからハピアとクラーリはこいつらのうち片方だけでもいいから日用品を買ってこい、待ち合わせは3時間後ここで」
そう言って金貨の入った袋を渡す
ずっしりとした袋の中には文字通り金貨のみしか入っておらず総額にして金貨30枚、日本円で300万の大金となる。
まあそれくらいの金ならお小遣い感覚にホイと出せる程度の経済的余裕はあるのだ。
「あと残れば適当に使っていいぞ、小遣いにしてもいいし、ただし皆で分けること。んじゃ3時間後に」
そういい悠人はハピア達が理解不能な大金に混乱しているとこから何か言われる前に脱出に成功した。
アリアはやれやれといった顔で悠人を見送りつつも脳内では余った金で何買おうか迷っている。
そのため混乱していたのはハピアとクラーリのみで2人はしばらくの間手に感じるずっしりとした袋にただただ呆然としていた。
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