第5話:新しい同行者
数時間後、俺はシスルス、アリアと共に帝都の出口に集合した
帝都の出口、城の門前というのはやはり門前街として賑わっており各所に商人の馬車が並んでおり中には貴族のものと思われる豪華な馬車もあった。
そこに俺たちは軽く武装をして集合する。
武装、と言っても本当に軽いものであり俺は好みの問題でダボめの服と片刃の剣を、シスルスは無手でアリアは杖を持つ。
これだけ見れば駆け出しかそこらの剣士、拳士、魔法師のパーティーに見えるが実質は違う、俺の服は魔法布と呼ばれる特殊な布の中でも最上級の魔法布を使い要所要所には白竜と呼ばれる古代竜の鱗が使ってある超一級品でありアリアの持つ杖も細いながら魔力伝導率が非常によく耐久性もあるため刺突用の武器にもなる俺作の刺突杖。
見るものが見たら大変な騒ぎになる危険性もある、そのため俺らはさっさと出発することにした。
「さて、たしか歩いて3日くらいだったよな、適当に食料は買い込んだし、なにか忘れ物は?」
「特にはないと思うが....シーの奴は何かあるか?」
シーというのはシスルスのことだ
何故か俺以外の仲間たちから呼ばれており俺が呼ぼうとしたらかなりの剣幕で禁止された。
「特にはないですね、食料も多めに1週間分は買いましたし武器の補充もいりませんし」
「あの....」
「ん?」
丁度荷物の確認を終えたところで背後から声がかかった。
振り向くとそこにいたのは高校から大学生くらいに見える高身長の羽毛が薄く生えている鳥人種の女性と小学生ほどの年齢とみられる犬人種の子供、服は互いにボロボロで首には首輪がかかっており周囲の状況から考えてて奴隷であることが確認できた。
「荷物持ちはいりませんか?」
どうやら誰かに買われるため、自分を売り込みに来ていたらしい、よく見れば何人かそういった子供が見られる。
どうやら奴隷商の何人かがここまで来ているようだ。
「荷物持ちは間に合ってる、他を当たってくれ」
「お願いします、殿方の夜伽も勤めますので....」
そういう鳥人種の女性はどこか切羽詰まってる感じがあり半分ヤケクソなような気もした。
「ユート様によ、よ、夜伽なんていりません!わ、私が勤めますので!」
「まてシスルス、なんでお前が俺の性事情に慌てるのかは知らんが、夜伽なんていらん。が....よければ話を聞かせてくれる?なんでそんなに必死なのか」
若干ヒステリック気味に叫ぶシスルスを制し俺は2人に事情を聞く。
予想だが、この2人は買い手がつかなかった場合処分されるか格安で兵士団とかに売り払われるのだろう、そうなったら最期、どうなるかは簡単に予想がつく。
「もし...本日中に買い手がつかなかった場合、私は兵士団に売られ、この子は処分されるのです....ですからどうか!どんなことでも致します!私たちを買ってくださいませか?お願いします!」
こういうのは売り文句などでよくあることだ、だがそう必死に懇願する姿はやはりどこか切羽詰まってる感じがありその瞳は半ば絶望に染まっているのに悠人は気付いた。
(昔の俺と同じ目か......)
「何か特技とかはある?」
「私は戦闘と家事を、この子はこう見えて狩りが得意です」
「ふむ....」
「あの...どうかこの子だけでもお願いできませんか?この歳で処分は....私は正気さえ保てば解放される可能性もありますので」
俺の考える態度が煮え切らないように見えたのか鳥人種の女性の瞳には絶望の他にそんなあるはずもない未来と希望を抱くような絶望的な光も宿っていた。
「いいよわかった、店主のところまで連れてってくれる?」
「ありがとうございました!こちらです」
そう言って鳥人種の女性は若干目に涙を浮かべながら店主のところまで案内する。
どうやら悟ったらしいシスルスとアリアは軽くため息をつきながら何も言わずについてくる。
店主のところまで着くと2人は直ぐにその店主の後ろに控える。
「これはこれは、若旦那様、どれをお求めでしょうか?この2人なら、そうですね....1人金貨2枚でどうでしょう?」
「ちょ、ちょっと待ってください!私達は2人で金貨1枚、1人銀貨5枚だったはずです!どういうことですか!」
背後からの値段訂正に店主はちっと少し舌打ちをして俺を見る。
やはり腐っても商人のため俺の装備がそこそこ高価だということに気づいたのだろう、醜い口がより醜く裂ける。
「これは申し訳ありません、この者たちは薄汚い獣人の連中でして、今言ったことが全て口から出まかせですので気にしないでください。1人金貨2枚です、買いになりますか?」
「そんな....」
本格的に鳥人種の女性の目に絶望の色が浮かんだ。どうやらこの商人はあまり売る気がないらしい、この年代の鳥人種の女性と犬人種の子供だったら鳥人種の女性が言った通り1人銀貨数枚が相場だ、考えるに兵士団かそこらにコネでも持ちたいのだろう
たしかに鳥人種の女性は美人でスタイルもいいため種族にこだわらない男にはウケそうだ。
だが....
「いいですよ、買います」
「え?」
そう言って俺は金貨を4枚渡す。
店主も2人も予想から大きく外れたことと簡単に金貨4枚、日本円にして40万の大金を出すことに驚愕し固まっていた。
「あと金貨もう1枚渡すから綺麗な服を見繕ってくれる?お釣りはいらないから」
「あの...えと....お、おい!お前ら!服を用意しろ!着るのは6番と7番だ!」
ハッと我に帰った店主は後ろの天幕にそう叫ぶ。
そこそこ大きい店だったらしく天幕の中で慌ただしく店員が動き回る。
すると店主はその顔を再び醜く欲に塗れたように笑みを浮かべごますりまで始めた。
「この度はお買い上げありがとうございます、もしよろしければ他の奴隷もご覧になりますか?我がテルド商店は多くの種類を扱っております、今回お買い求めになりましたものは仕込んではいませんが夜伽を仕込んだものも多数おります」
店主はここぞとばかりにそう勧めてくる。
というか何故男は夜伽、夜伽とうるさいのだろうか?同じ男だがイマイチ言ってることがわからない。
「いやいい、早く用意してくれる?俺たち急いでるんだわ」
「.....これはこれは申し訳ありません、もう準備が終わると思います。奴隷紋の契約に移らせていただくのでもうしばらくこのままでお願いします」
奴隷紋とはその名の通り奴隷に刻む紋章であり、制約を設けることにより奴隷の反逆を防ぐものである。
正直奴隷紋なんてものはいらないのだが、奴隷を買う際には必ずしないといけないのがこの国の法律のため、素直に従うしかない。
ちなみに契約はスキルの一つである『奴隷契約』というスキルを使用して行われる。
手順は簡単でスキル持ちの人物が主人となる人物の血を奴隷へと垂らすだけでできる。
見ててあまり気持ちの良いものではないためこれ以上の説明は省くとしよう。
「はい、ではこれでこいつらは正式に貴方様の所有物となりました。では良い旅を」
「あぁ、じゃあな」
ちゃんとした服を着せられた2人の少女は契約時の副作用により気絶しているため担いで天幕外へと運ぶ。何やらシスルスとアリアが気持ち機嫌が悪くなってる気もするが今は放っといてもいいだろう
「さて行こうか」
「そうですね、早く行きましょう。群がられたら困ります」
そう言ってオーラっぽい何かを放つシスルス、その不機嫌オーラのせい(おかげ?)なのか誰にも絡まれることなくそのままスムーズに帝都の外へと出ることができようやく二度目の旅が始まった。
□
「ん....」
「お?目が覚めたか、じゃあ一旦ここで休憩」
俺の休憩の合図とともに都合よく近くにあった木陰に入り負ぶっていた2人を下ろす。
下ろしてすぐに鳥人種の女性は気がついたがイマイチ状況がわかってないらしく目をパチクリとして辺りを見渡す。そしてちょうど横で寝ている犬人種の子供が目に入ったところでようやく思い出したのか目に涙を浮かべながら俺たち3人がいる方へとゆっくり振り向いた。
「こ、この度はありがとうございました!なんと言ってお礼を申し上げたらいいか....もし何かご用がおありでしたら何なりとお申し付けください!貴方様になら命すらも投げだす覚悟です!」
それは染み付いた奴隷根性なのか鳥人種の女性は少し緊張しながらも自然に傅き頭を垂れてそういった。
「いいよいいよ、こう見えて俺らはそこらの貴族よりか金持ってるし」
「あー...たぶん王族超えとるぞユートは。というか国をも超えるだろ」
「そう?まあいいけど、とりあえず名前教えてくれるかな?そっちの子供も起きたみたいだし」
見やると半分寝ぼけた感じでまだ目の焦点が合っていないのか鳥人種の女性同様にあたりをキョロキョロと見渡す犬人種の子供がいた。
それを見て鳥人種の女性はより安堵したのか先ほどよりも柔らかな声で自己紹介を始めた。
「私は鳥人種のハピアです。この子は犬人種のクラーリと言います。この度は本当にありがとうございました。クラーリはまだわかっていないようですが誠心誠意仕事を致しますので、よろしくお願いします」
「ハピアにクラーリね、よろしく。俺はユート・カミヤ、そこにいる銀髪がシスルスで赤髪がアリアだ」
軽く紹介してから少し早めの昼食に入る。
ちなみに料理は俺の仲間たち、十二将の連中は一部を除いて壊滅的なため基本的には俺が料理を行う。
というかうちの連中は基本、王族や特殊な出が多いため家事全般が苦手であり大概の連中が料理をやればダークマターが生成されかねないレベルなのだ。俺としてはどうして材料の質量を越えれるのかが知りたい、もしかしたら新種のスキルでもあるのだろうか、と考えてしまうほどだ。
「あ、手伝います」
「いいよいいよ、これは俺の仕事だから、それにハピアとクラーリには早く回復してもらいたいし」
そう言って俺はハピアの提案をなるだけやんわりと断る。するとハピアは若干落ち込んだような表情の跡に小さな声で「わかりました...」と先ほどまでの場所に戻ってしまった
やはり家事好きな奴としてはやれないと不安というか不満なのだろうか?俺もティファにやらせた時はこんな感じだったのかもしれない
他の奴?そんなもん即逃亡に決まっている。
10分もすれば簡単な料理はできる、今回は5人のため日本からそれはもう大量に持ち込んだ米を使用しての炒飯と
戦闘は遊ぶが料理はマジでやるのが俺のポリシーだし
「出来たぞ!そこに並んでくれ」
「「「はーい」」」
驚いたことに最初に飛んできたのはあのアリアでもシスルスでもなくクラーリだった
クラーリは犬人種特有のフサフサ尻尾を千切れんばかりに振り口からは若干涎が垂れていた。
相当お腹が減っていたのだろう、作った側としては嬉しいものだ。
「ほい、熱いからきーつけろよ」
「うん!これなあに?」
「こ、これクラーリ、ユート様になんて口を!」
「ははは、ユートはそんなことで怒らんよ、たしかチャアハンと言ったな。ほれさっさと食うぞ、ユートの飯は美味いんだ」
「は、はぁ...」
とりあえずクラーリに何かを説明し少し多めによそう、ハピアは何か腑に落ちないといった感じの表情をしていたがクラーリの笑顔と空腹感に負け席に着く。
「さて、じゃあいただきます」
「「「いただきます」」」
「え?え?、それなんですか?」
「これは食前の挨拶、俺の国だとこれが普通なんだよ、気にせずどうぞ」
そう言うとハピアは俺たちを真似して小さな声だが「いただきます」と言いご飯を食べ始めた
クラーリは直感で合わせたのか今ではシスルス達とそろって既に頬張っている。
「お、美味しい....凄いですこれ」
「そうですよ、ユート様は凄いんです!なんでも美味しくしちゃうんですから」
何故か誇らしげなシスルスはその慎ましやかな胸を張る凄いだろアピールをする
だがすぐにハピアのそれに目がいき地獄を見たような表情をこちらにしてくるのでとりあえず無視しよう
一方、早くもクラーリとアリアの皿は既に無くなりかけていた。
「おかわりはいつでも言ってくれ、まだまだあるかr」
「「おかわり!!」」
「おかわり...おねがいします....」
「お、おう...了解した」
いつのまにか皿から料理が消えていたハピアも顔を赤くしながらおかわりを頼んできたため3人とも思わずかなりの量をよそってしまった。
シスルスは未だ絶望から覚めないのか何かブツブツと呪詛のようなことを呟いていたためやはり無視した。
「「ごちそうさまでした」」
「ご、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
食事はたっぷり1時間以上かけて行われ、少し多めに(7人前ほど)作った料理は完食となり軽いデザートと飲み物を出し食後の余韻に浸る時間となった。クラーリは無邪気さと元気の良さですでにアリアと仲が良くなっており出会って間もないのにも関わらず楽しく談笑している。
だが一方のハピアは奴隷という身分が嫌という程染みついているのかどこか壁がある。やはり年齢的な問題なのだろうか?
ふむ...どうしたものか
そう俺にしては珍しく真剣に悩んでいると思わぬところから助っ人?みたいなのが入った。
「ハピアって言いましたっけ?そんな辛気臭い表情はダメです、ほらユート様まで珍しく悩んでいらっしゃる。だから笑ってください、ここにいる限りユート様は貴女を奴隷扱いするどころか持ち前の優しさで覆ってくれるんですから、もっとクラーリを見習いなさい!」
訂正、助っ人じゃなかったわ。
「.....もしかして俺のこと馬鹿にしてるのシスルス?俺だってたまには真剣に悩む時があるぞ」
「ないない、ユートに限ってそれはないだろ、今までろくに悩まず思いつきで行動してるユートには真剣に悩むなんて似合わんぞ」
「アリアまで....割とショックなんだけど?なんならここでやりあうか?あ?もう一回ぶっ飛ばしてやろうか?」
「やってやろうか?お主が元の世界でぬくぬくと生活してる間だって何回か魔物の群れ相手に戦ってきた私だぞ?はたして今のユートで勝てるかな」
徐々に魔力を高めていく。
今にも戦闘が始まりそうな一触即発の空気の中、小さく上品な笑みが溢れた。
そちらを見ると先ほどまで何か悩んだような表情をしていたハピアが今では口元を押さえ必死に笑いを漏らすまいとしていた。
「はぁ....やっと笑ったか」
「え?」
「さっきまでお前笑っていなかったろ?シスルスが言ったようにずっと辛気臭い顔してたからいい加減鬱陶しくなってたところだ。そうだな....主人として最初の命令をする、自分のこと、クラーリのことを奴隷と思うな、OK?」
奴隷というのは下手をしたらその身分に誇りを持ち出す者がいる。確かに自分自身に対し誇りを持つことはいいことだが、奴隷とは本来生き物として最低の扱いしか受けない、そんなものに誇りを感じたりするようになったらダメだと俺は思う。
逆に奴隷の身分に中途半端な絶望を抱く人はダメになるものだ、どうせ、や奴隷だからなんて言い出したら軽く殺意が湧いてくるレベル。
どうせ絶望するならとことんまでして欲しいものだがそこまで行く間に大抵の人は精神が逝く。
だから俺はハピアに"命令"をした、暗に絶望するな、と。
「......」
「なんだ、まだ命令されたいのか案外Mなんだな。仕方ない....重ねてお前に命じよう、自分たちのことに対して誇りに思い奴隷ということを忘れろ、そしてクラーリと共に笑っておけ。そっちのがよく似合う」
どうも辛気臭い顔は苦手だ、そんな顔をするのは俺だけで十分だし周りの奴らには笑っていて貰いたい。
「.....はい、その..命令、承り.....ました.....」
「ならいい、ほれさっさとそれ食べちまえ、もう少し行ったら夜営の準備するから」
「ふふふ、ユート様はこう言った雰囲気苦手ですもんね、あとは私が務めますのであちらで準備でもしておいてください」
「はいはい、じゃああとよろしく」
なんだかシスルスが頼もしくなったのか気を使えるようになったのかわからないが俺はその言葉に従い料理道具等を片付け始める。
その後何があったかは知らないがハピアはシスルスと仲良く(?)なり万事解決となった。
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