第4話:元魔王 アリアンナ・アラストール
翌朝、見送りが来るのを防ぐためかなり早めに部屋を後にし城の出口へと向かう。
その甲斐あってか見送りイベントどころか見張りの兵以外には誰とも会わずかなり楽に城外へと出ることができた。
『あの...ユート様?この後はどこへ向かうのですか?』
「とりあえず旅をしながら仲間をサルベージしてあとは....そうだな、国でも作るか〜前作れなかったし」
国とか簡単に言っちゃってるがそれはユートは以前、その功績が認められて特等爵、特爵と呼ばれるこの世界特有の爵位を叙爵したのだ。
階級的には侯爵と同等程度である。
ただし政治的な権力はほとんどなく与えられる権利は領地自治権と貴族主催のパーティー参加権などその程度、そのためユートはユート特等爵領を持っているはずなのだがもらう前に元の世界へと行ってしまったため領地はまだない。
つまり何が言いたいかと言うとユートにとって国を持つのは一つの夢みたいなものだったため貰えなかったのは悔しく今回で絶対作ってやろう、ということだ。
「あーあとさシスルス、俺は別にお前らを裏切って戻ったわけじゃないからな?あれは"戻らされたんだ"」
『あ、いえ、わかっております....それよりも戻らされた?とはどういうことでしょうか?』
「わからん...あの時出現した魔法陣が特殊だったのと一瞬すぎて一部しか記憶理解できなかった、その謎解明も重要だな...あとエルとかフレミラとかキレてなかった?」
『あー....それは私以外の全員が戻ってきたらボコるとかなんとか...』
悠人はやっちまったと言わんばかりに顔を振る
昔の仲間、通称:十二将と呼ばれる12人の仲間達は全員が例外無く強いためボコられるのは少しばかりやばいかもしれない
「はぁ...今から憂鬱だが...まあいい、とりあえずしばらくは2人旅だろう、またよろしくな俺の愛刀さん」
『え、あ、えと...あの...は、はい!よろしくお願いします!』
ちょっと声が弾むシスルス
「さて、まずは手始めに副都でも向かうか、たしか歩いて5日間くらいだったか」
『あ、歩いていくのですか!?』
「もちろん、さすがに腕も鈍ってるだろうし道中戦えるのは楽しい」
それなら訓練したらいいじゃないですか、とシスルスは内心少しだけ思ったがそれを口に出すほどシスルスは無粋ではない
「じゃあまずは腹ごしらえだな、近くに酒場があったはずだ、シスルス、人化していいよ」
『ありがとうございます、では少し拝借いたしますね』
そう言うと刀が消え、いつのまにかそこには銀髪美少女のシスルスが立っていた。
少女から武器に、武器から少女に変化するシスルスは『
原因は不明だがこの世界には武器が意思を持ち所有者と定めた人物が魔力を与えることによって人化することができる武器が幾つか存在している
それの1つがシスルスなのだ。
「あーあと、髪色同じになったから街中では兄妹で通すから」
「....はい、では行きましょう兄様」
「ノリノリだな...まあいいけど」
思ったよりノリノリなシスルスに若干戸惑いながらもシスルスと横に並び街中に入っていく。
ちなみにさきほど悠人が言った髪色が同じなったというのだが、それは悠人が元々黒髪だったのだが元の世界への強制転移か何かの影響で遺伝子欠陥となり銀髪になったということだ。
そのおかげで今誰がどう見てもこの2人は珍しい銀髪を蓄えた兄妹に見える。
□
大型犬に懐かれるとこんな感じなんだろう
悠人は帝都に降りた途端に赤い何かにものすごい勢いで腹部へと突進されたのだ。
悠人自身犬を飼ったことはないためあくまで懐かれたような、なのだが目の前のこの赤いのはもう犬としか言えない行動をしている。
頭を腹に押し付け匂いを嗅ぐという。
かろうじて腹部を強烈に圧迫されるのと肋骨が軋む程度のダメージなので敵対行動とはとらないが痛覚は人並みなので結構痛い。
「だぁぁぁあ!離れろバカ!いい加減にしろアリア!」
アリアと呼ばれたその少女は悠人に名前を呼ばれるやいなや残像付きで離れた。
「待ちわびたぞユート!今までどこにいたのかはあとで聞くとして......よかった、戻ってきてくれて....」
再びアリアは悠人に抱きつきその頭を埋める
ただし今度は優しく、生き別れた兄弟のように熱く。
「....そうだな、お待たせ、ただいまアリア」
その抱擁に俺も抱擁で返し優しく撫でながら囁いた。
アリア
本名をアリアンナ・アラステールと言う。
見た目は赤髪の美少女だが、アリアはかつて『緋髪の悪魔』などと呼ばれ恐れられた魔人種であり"元"魔王である。
さすがに恐れられているだけで人前に姿は表さなかったため一部を除き身バレはしていない。
そして、アリアはユートの強力な家臣団、通称:十二将のうちの1人であり、ユートが探しに行くとしていた昔の仲間の1人なのだ。
幸先が良いスタートだ。
しばらくそんな抱擁&撫でが続いたがさすがに周囲の目が痛くなってきたので離れる。
「っと、そういやアリア、どうして俺だとわかった?髪色とかも違うわけだし」
「匂いで」
一瞬の迷いもなく即答したアリアにこいつまさか獣人とのハーフなのか!?と疑ってしまう。
だがよくよく思い返してみれば過去にも目隠しされた状態で何の迷いもなく迫ってきた覚えがある。
アリア曰く「ユートの魔力は独特のいい匂いを放っているからたぶん
「お前らって時折世界の理を無視するよな?俺今魔力極限まで抑えてた筈だし、それ以前に魔質も若干変わってるんだけど...」
というか魔力自体に色はあるものの基本、無味無臭だ。
「ユートのためならば理など紙屑同然だ」
そう至極真面目に答えるアリア
そこで悠人は改めて我が家臣団の連中は揃いも揃ってこうだったな、と思い出しため息をつく。
ユート自身、何故、どうして俺はこんなに懐かれているかはわからんが再開のたびに突撃とかされてたら5、6人目くらいで死ぬか新たな扉が開かれる自信さえある。
頼もしくはあるが同時に意味不明だ。
考えても見てくれ、さっきアリアは恐らく瞬間的に秒速何十mぐらいの速度で飛んできたのだ
そしてこれは悲報なのだが...アリアは決して速度特化ではなくむしろこういうのは遅い方だということ
今からでも自分の身が心配で王宮に帰りたくなってきました。
「そこまで言ってくれるのはありがたいが....ほどほどにしとけよ?」
「ユートが言うならばそうしよう、してユート、今までどこに?」
「あー...うん、それな、それはまた後で話すわ、長くなりそうだし。まずは飯だ飯」
その後俺とシスルスとアリアは近くにある酒場には入り簡単なものを注文する。
ちなみに酒場、と言っても現代のように酒メインの酒場ではなく基本的には酒も出すがメインは料理、という場所だ。
それにこの世界での成人は15歳程であり飲酒も特に年齢制限があるわけではない。
「なあ、まず質問なんだが俺がいなくなってどのくらいだ?」
「そうだな...およそ3年と言ったところだ、その間に色々あったぞ....」
そう言うアリアはどこか寂しげで悠人は後悔の気持ちで一杯だった。
まさか自分が異世界に送還されて3年も経っていようとは思わなかったし1000年とかでないから良かったものの、やはり心配かけていたことには申し訳ない気持ちがまさる。
次の瞬間までは。
「アデルは泣きじゃくるしエリスとヒスイは暴れるしミーナは自害しようとするし....本当大変だった...」
「あ、うん、なんかごめん」
別の意味でいたたまれない感じになり沈黙。
だがすぐにその雰囲気を払拭するかのように美味しそうな匂いの料理が運ばれてきて会話は一時中断となった。
「そういえばユート、さっきの話の続きなんだが...なぜあの時消えたのだ?」
見た目に反して大食らいのアリアがジョッキ(ジュース)を飲み干しながら聞く。
とりあえず俺はシスルスに説明したように突然魔法陣が現れ元の世界に戻された、と説明した
今は本当これくらいしか情報がないのだがいずれ解明して首謀者をとっちめるつもりだ。
「ふむ、ユートでも記憶できなかったか...してどうしてまたこっちに?」
「勇者召喚、最近行われたこと知ってるだろ?あれに学校のクラスごと巻き込まれてな、鬱陶しいから勇者やめてきた」
そう言うとアリアはケラケラと笑いだしユートらしいと言い再びジョッキ(ジュース)を呷る。
「さすがユートだな、型破りにもほどがある。して、この後の予定は?」
「前回と同じように少し先から行商やりつつ十二将のサルベージと転移の謎究明、犯人断罪後、領地受け取ってさっさと国でもつくり、安泰に楽しく暮らす。向こうの世界はつまらなくて飽きた」
前回と同じように、というのは俺がこっちに初めて喚ばれた時に行った行商のことだ。
そんでもって散り散りになったらしい十二将を回収しつつ俺を送還した魔法陣の謎を究明、犯人をとっとと追い詰めて報いを受けさせたのち、手持ちにまだあった特爵の印をかがげて領地をふんだくり、国を作る。
これが今回の旅の目的であり夢でもある。
それに元の世界が嫌なのも事実だ。
あんな腐った世界で住むよりから血みどろのこっちで暮らした方がかなりいいしなにより大切な仲間たちがいるのだ、帰る理由なんてない。
「ふむ...じゃあ次はアルンの街に行った方がいい、ただの勘だが、あの街なら誰か居そうだ」
と、言うことでアリアの意見を受け入れ、副都へは行かずアルンの街に予定変更となった。
と言ってもアルンの街は帝都と副都の中間に位置する重要な城砦都市のため少し寄り道することになった程度の問題でしかない。
歩きという点は変わらないし
それからは久しぶりのこっちの世界の料理に舌鼓を打つつつこの3年間で変わったことを聞いた。
「大きな点でいうと各国の王が変わりあらたに魔王と勇者が誕生した。魔王は誕生したとの知らせを受けただけで現在瞑想中のため視認不可、勇者はエルラインとかいうスカした坊主だ、生意気に大英雄まで名乗っとる」
また出てきたよエルライン
俺の戦果を掠め取り相手の数十倍の圧倒的な戦力を持って挑んだ北方討伐を果たした俺に続く第二の勇者にして大英雄(記録上のため民には初とされているらしい)
これといってこいつに対しての個人的な恨みは無いがいつかぶっ飛ばそうリストへと追記しておこう。
ちなみにいつかぶっ飛ばそうリストにはクラスメイトの名前が数人いるけど気にしないでくれ。
「さて、それじゃあ準備を整えて出発するか」
「「はい(あぁ)」」
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