第53話:戦争準備!

「まあだいたいそんな所だろうとは思ってたけど....なんで誰がどう見ても自殺の格好で死ぬかな....せめて他殺に見えるように工夫しようぜ」


目の前で死んでいる使者は実況見分をした所、死因は喉元をナイフで一突きした時の外傷性ショック死。自殺である。

どうやら来る前から暗示か洗脳かで失敗した場合は自死を選べ、との命令があったのだろう。残留思念からよくわからない強固な自殺衝動を感じられる。


正確にはこの問題。一番重要なのは向こうがこの報告を待たずして既に進軍している、という事だ。

正直もう少し伸ばせるかと思ったのだが、残念だった。

ただまあ準備自体は死んだ瞬間から既に全力で行なっているため問題はない。ただ、割と面倒くさいのが使者についてきた2人の扱いである。


勇者2人。最善策を言えばどうにか説得して味方に引き入れる或いは殺す、だろうが、そのどちらも取れない理由がある。

まず仲間にする方は相手側に勇者、つまりクラスメイトたちがいる時点で戦力とはならない。だからと言って殺す、なんてしたら教会側が何を言ってくるかわからない。

正直無視すれば問題はないが信者の反乱程面倒くさいのはない。日本における織田軍対一向一揆衆の戦や海外における宗教絡みの戦争を見たらわかるだろう。それに生活や地域に根付いた宗教を敵に回しては後の領地運営にも支障をきたす。


「....いっそのこと奴隷化して送り返すか?」


「いやそれこそダメだろ....ユートってたまに発想が物騒になるよな」


「む...和ませようと思ったんだが、意外と落ち着いてるな」


それを聞いて苦笑いを浮かべるトゥール。どうやら若干緊張していたようだがそれ以上に君主としての使命感があるのだろう。もう後には引き返せない。あるのは生か死か、二者択一だ。


「よし。俺は現場に行くけどトゥールはどうする?」


「本当はそっちに行った方がいいんだけど、任せた。おれは勇者達をどうにかするよ」


「ん、そうか。んじゃこれ一応防御用の魔法道具だ。持っておいてくれ」


さすがにスキル封印は遠距離になるとデメリットが悲惨な事になるので切らざるを得ない。なのでトゥールに精神干渉防御と物理的な防御用の魔法道具を渡し、俺は陣へと向かう。


陣の設営には土木部隊と兵士達を中心に傭兵部隊を加え、更にはアデルを加えた形で全力で取り組んでいる。

他にはリグリットとミーナを中心とした周辺警戒部隊を編成、斥候がいないかを探しつつ森の中などには罠を仕掛けている。加えてエレメンタリアによる周囲の村々へと避難指示、その他の十二将達は基本的に食料の調達に行ってもらっている(狩とか売買とか)。あいつらは容姿は整っているから色々とお得に集められるだろうからね。


さて、俺がこちら側へ来た理由はルークを筆頭にする精鋭部隊。騎兵とそれについていく足止め歩兵部隊へと完成した武器を届けにいくためだ。

騎兵と歩兵合わせて1500。途方も無い数だが元からあったものとスキルによるブーストを受ければ2日くらいでできのでまあ問題はなかった。


「ルーク殿ー?」


大きめの天幕へとそう尋ねながら入る。

すると試合の時と同様に精神統一でもしていたらしく部屋のど真ん中で瞑想をしていた。どうやら何を言っても無駄なようである。


「存在感がやばいな....しゃあない副官はいるか?」


「はい。私が騎兵隊副官を仰せつかりましたローです。以後お見知り置きください」


「ん?南部の出か。なら騎兵隊はバッチリだろう。10分以内に全員集めてくれ。装備を支給する。後歩兵隊の副官はどうした?」


「かしこまりました。歩兵隊でしたらあちらに...リーリスさん!」


どこかで聞き覚えのある名だと思ったら準決勝で戦った冷光炎姫、リーリスであった。


「ローさんどうしたの?あら、貴方は.....あぁ」


どうやら俺の正体を看破したようだ。いや、正確にはミヤの素顔を看破した、と言った具合だろう。


「言いたいことはわかるけど後にしてくれ。10分以内に歩兵隊を全員を召集。装備を支給する」


「はいよ。了解」


ふふっと意味ありげに笑うリーリス。何がそんなに面白いのかは不明だが、まあ良いだろう。


5分ほどしたところでようやくルークが動き出した。


「おや、ユート殿ですか。いかがされました?」


「装備の支給に来たんですよ。副官の方々に頼みましたけどね」


「それは失礼を致しました。なにぶん戦争前ですからね。数日先と言っても備えておくべきかと思いまして」


そう言うルークの存在感は先ほどの比ではない。

その力の増え方はおそらく自己暗示に近い思い込みによるものだろう。俗にフローと呼ばれる精神状態を半分意図的に行う事の出来るのに加え、重ねがけによる持続時間の延長及び強化ができる稀有で特異な体質を持っていると思われる。

おそらく戦闘分野以外でもかなり活躍できる者だ。


「良い心がけです。今なら私も負けそうですよ」


「ははは、何をおっしゃる。あの時は半分も出していないでしょうに。さて、私も集合するとします」


お世辞を軽く返されてしまった。ただまあ、おそらく極限までルークがフローを重ねがけしたならば十二将といい勝負をするだろう。もしかしたら勝つかもしれないレベルだ。

本当に末恐ろしいよ。


その後、10分きっかりに騎兵隊及び歩兵隊の列がずらりとできた。総勢1500名。戦ではそこまでに数ではないがこうやって並ぶとかなり壮観である。


さて、今回俺が作った所謂精霊の鍛えた武具は防具2種類武器3種類だ。一部を除き士気を向上させて敵兵を威圧する色は黒の統一装備となっている。


まず防具だが、騎兵隊用は軽く速度補正が掛かる金属製の軽装を用意した。ただ量産品と言っても質は普通のとは比べ物にならない。参考までにスペックは風の加護により殆どの矢を弾き、かつ鎧があるところならば刺さらない。

速度上昇は25%増加くらいだ。

見た目は日本の甲冑もどきにしてみたがこれは機能性があることとただの趣味である。


一方の歩兵隊は足止め部隊ということもあり金属製重装備とした。ただ重装備と言っても頑丈で軽量な金属を主に使っているため、全部で10kg行かない程となっている。

軽量重装備とかいうちょっと謎な感じだが、こちらには筋力補正と衝撃吸収。それと装着者登録と呼ばれる装着者の体格に合わせて変化する性質を持つ。

こちらも騎兵に合わせて日本の甲冑もどにしてみた。無論趣味だ。


これらが防具。

続いて武器だがこれもちょっと興が乗りすぎた部分がある。


まず騎兵隊に渡す装備は日本式の槍を採用した。

理由は好みの部分も多々あるが、西洋のいわゆるランスは突く他に叩くしかできず切り裂く能力が無いためである。

そして今回用意した槍はその切り裂く面を大いに発揮すべく、触れれば切れるように鋭くしつつ鎧の風の加護によって真空の刃を纏うようになっている。

これは切り裂く為でもあるが誤って自分や仲間を切らないようにする為である。


続いて歩兵隊の武器はご察しの通り刀である。

但し小烏丸太刀。所謂鋒両刃造で片刃ではなく先端のみ両刃となっているものとした。本来これは切るよりも突くことに特化していると言われているが、今回作った刀は切ることと突くことどちらにも向いているようにした。まあ、単純に切れ味を上げただけだが。

付与してある効果は斬りつけた相手の出血を誘うもので傷が凝固しづらくなる他、斬った傷が自動で開くえげつない効果をつけてみた。興が乗りすぎたと思っていうけれど反省も後悔もしていない。


又、歩兵隊はこの刀とは別に少量だがかなり大きめの盾を用意した。敵の進行を食い止め仲間を守る盾だ。

これは防具なんじゃ無いか?と思うかもしれないが防具としておくには中々にえげつないので武器とした。

長方形の壁盾で足先と顔以外は持っていても守ることができる。これも騎兵隊の防具同様に軽い作りとなっている。

さて、肝心の付与効果だが、まず周囲への防御範囲拡張、そして自動反撃となっている。防御範囲拡張は魔力を込めることで非実体の仮装防御領域を展開、それに相手が触れると風の厚い膜となって攻撃を止めることができる。もう一方の自動反撃は攻撃してきた際その相手に向かって雷撃を放つもので運が悪ければ即死するもの。故に防具というより反撃前提の武器とした。


さて最後はわざわざルーク用に作った大剣だ。

ルークの要望により大きさは身の丈並みにありながら重さは片手剣より少し重い程度とした。

単純に頑丈で切れ味が良く、扱いやすい。付与効果は筋力増加と間合いの延長程度であまり特筆すべきものはないが、これをルークが使うとまあ鬼となることは読めている。


「こんなところだな。ああ後副官達も別であったものを用意しよう。それと...この戦で生き残ったものはそれらを無償で与える。無論報酬とは別物だ!」


その言葉に兵士たちが湧く。

この時代、支給される剣はあくまで支給品で気に入ったのならば自分で買わなければならない。鎧も然りだ。

そしてそれらは必然的に金属を多く使っている為高価であり滅多に手を出せるものでは無い。故の湧き上がりだ。

まあ割と痛い出費だがこうやって士気をあげつつ死傷者をへらすにはある意味餌が必要な為、これは必要なことだと割り切る。


「よし、全員装着!指揮官殿にその勇姿を見せてやれ!」


ルークのその言葉に全員がおぉ!と声をあげその場で支給した装備をつけて行く。

10分もすれば全員が装着を済ませ、ズラリと整列する。

先ほどのただ集まっただけの光景から一気に統率力があり、迫力があるように見える。規模こそ変わらないもののこれだけしっかりと揃っているとかなり存在自体が大きく感じられる。


「よし、予測時刻は今より5日後だ。敵さんはそれから陣の設営を始めるだろう。その間は少数部隊で奇襲をかける。残念ながら一番槍の名誉はあげられないが、武勲章はいくらでも用意しておいてやる。頑張ってくれ」


あちらにも先発隊がいるようにこちらにも先発隊はいる。

先発隊は総勢50名。幻獣種のユラ、翼獣種のフィア、海王種のステラ達3人が率いた奇襲部隊だ。

何故この3人なのかと言うと、ユラは軍隊の管理や指揮に長けていること、フィアは接近戦において十二将中最速であること、ステラは慎重な性格でいざとなればあらゆるものを押し流せる規模の波を出せることに加えて速いことが挙げられる。

そこにミーナでも加えれば遠距離からの支援も含めれてよかったのだがあいにくとそんな事をやれば戦う前に勝負が完全に決する。それにミーナはミーナで斥候部隊での罠設置等で忙しい。

現状、割と最適解だと思う。


ちなみに先発隊は既に出発している。

そろそろ作戦開始くらいだと思われるが...後で誰かに連絡を取ろうと思うが今はこちら側だ。

マジノ線まではいかないもののアデルもいる事だしそれなりのものを作る予定である。


防衛側は地獄の様相を見せることも多いが、防衛側の一番楽しいところは準備ができる事だ。

要塞を建設し罠を設置し陣を設営し戦場を設定できるのが防衛側である。ガチガチに守りを整えてから戦うのと急ごしらえの陣で多少なりとも疲れがある攻撃側では終盤は兎も角序盤は快勝できることが多い。

まあ、迂回されてしまったらそれまでなのでここにおびき出すために先発隊があるのだが。


「さて、もう一つ策を授けときますか...」


もう一つのとある部隊を編成するために。

それはこの戦いを確実な勝利へと導き、その後の戦争を大きく変革させるかもしれないもの。

これまでも結構変えて来たかもしれないとかいう指摘はおいておいて、俺にとってもある意味なロマン部隊の設置である。


そう、その名は!


「航空魔法師部隊構想!」

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