第54話:航空魔法師部隊
この世界においてはいつかも説明した通り魔法使い、魔法師と呼ばれる存在はポピュラーというわけではない。故に完全に戦争に組み込むほどではないのだが、俺はそれを戦争に組み込む。それも純粋な魔法師だけの部隊として。
それが今回俺が提案した航空魔法師部隊構想だ。
その名の通り選抜した魔法師を部隊として編成、補助具を使いつつ空を飛び、相手の上空にて投擲や魔法攻撃を行う部隊を編成する計画である。
この部隊のメリットはかなりある。
第一に大きく迂回して飛べば音も無く上空を取れる可能性が高い。そしてそれなりの高度を保てば反撃の恐れがない。
これらは戦場において一方的に相手を屠ることと共に相手に対して強い恐怖を与えることができる。
逆にデメリットはまず部隊が必然的に小さくなる。
魔法師の絶対数も少ないというのに飛行までできるとなると一気に少なくなる。他にも保有魔力数の問題や連携等の問題もあるが、これらは補助具を用いることで負担が少なくなるだろうとの見込みだ。
さて、今から俺が行おうとしているのは魔法師の訓練....というより半分調教に近い。理由は簡単。
概念を一つ増やして認識を改めさせるのだから。
「よく集まってくれた精鋭諸君。まずはここにいることを誇りに思うといい。君たちは選ばれた者。そして今後の戦争を大きく変える先駆けなのだから」
規則正しく並び、特注の黒い制服を着込んだ者達の前で訓示を送る。集めた人数は47名。小隊規模となるが理論上うまく戦果をあげられれば47名だけで軍単位の撃滅が可能だ。
だが、問題はここから。
ここにいる47名は例外なくそのポテンシャルは優秀なものだ。今後上手く自分の得意分野として開花することができれば一騎当千の将になるだろう。但し、できれば、の話だ。
「さて、今から行うことを説明しよう。そうだな...すごく端的に言うならば、君達に空を飛んでもらう。これで」
そう言って取り出したのは箒。何の変哲も無い竹箒である。
ある意味奇想天外な行動をしたために47名全員が首をかしげた。中にはこいつアホじゃね?みたいな顔をしてくるものもいた。だが至って真面目である。
俺はその箒に横乗りをする格好で座り、手を離す。
普通ならばここで箒は落下して空気椅子状態になるのだが、今この場では箒は地へと落ちることはない。
その光景に次第に皆の目が丸くなっていった。
「馬鹿らしいと思ったかもしれないが、この時展開している魔法は姿勢制御、上下左右前後からの風を発動してるから属性は単一だけど常時7つの魔法を並列起動かな」
その報告にざわめく。
魔法を並列起動させるには簡単に説明すると頭の中で部屋を7つ作り、各部屋の扉を開けっぱにしながら違うことを考える、というものだ。つまりは並列思考。
だいたいに人は無意識にうちに行なっており、例えば歌を口ずさみながら何かを運転する、などはそれにあたる。
今回はそれの7つバージョン。それだけの話だが、おそらく7つの並列起動は余程の人物じゃなければ不可能だ。
この難易度は聖徳太子がやった10人の話を同時に聞いて適切な答えを別々に出す、くらいのレベルはある。
それが面倒な魔法の詠唱となればこの世界の人達でもその異常さがわかる。故の反応だ。
「はい。いい反応をありがとう。まあ、さすがにこれをやれとは言わないけど....これで空は飛んでもらう。まあ見ておけ」
横乗りした状態のまま、魔法を再度活性化させてその場から移動する。ゆっくりと斜め上に進みつつ徐々に速度と高度を上げていく。
それからは曲芸飛行と同じだ。
高速で空中を飛び回りながら縦回転。錐揉み回転。急上昇急降下などを繰り返した。気分はサーカスの曲芸師かな。
ただし初めて見る光景に皆が皆、アホの子のように口を開けてただ立ち尽くしてはこちらを目で追っていた。
「そう呆けてる場合じゃないぞ。これくらい君らにもやってもらわなねばならんからな!」
「なっ...い、いくらなんでも無理です!七つ同時起動なんて一体どうなってるのかさえ想像つきません!」
くるくると空中で回りながらそう言うとようやく硬直が解けたらしく、うち1人が口を開いた。
まあ、もちろんだがこんな事をやれるとは思っていない。それにもしできるのならば箒なんて使わない。
「それくらいはわかる。だから、ほれ!」
そう言って空中から皆の目の前に箒を転送してやる。
ただしただの箒ではない。金属製のもので乗り手が乗りやすいように太くなっており、座椅子に加えて収納箱も設置。
箒後部。つまりは掃く場所には補助具としての中核をなす飛行支援装置、姿勢制御装置、加減速装置等を積んである(装置とは言うものの機械ではなく効果を
装置自体がかなり高価な作りなぶんその効力は確かで、乗って魔力を流しさえすれば飛ぶことができる。
ただし、機構が細かい分流す作業には若干コツがいるかもしれない。
「さて、今から行ってもらうことはそれに魔力を通して飛ぶこと。そうだな....俺のところまで高度を上げて第一段階クリアだ」
俺の今いる高さはブクスト区を囲む城壁程度。
高層ビルとまではいかないがそれでもそれなりの高さはある、が、そんなもの少し操作を覚えれば来られるはずの位置だ。それも選抜した精鋭ともなれば尚更である。
「と言うことでよーいスタート。ワースト5位から下のやつはアリアとエレメンタリアの地獄特訓なー」
「「「「じょ、上達するのは罰ゲームじゃないけれどあの2人の教官のだけは嫌だぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
と、言うことで47名全員が必死にあれこれ試行錯誤し始めた。果たしてあいつらは何をやらかしたのか。
初めは俺と同じように横乗りで安定しない状態でなんとか飛ぼうとしていたが、案の定手を離せば箒は落ち、足を離せば尻から落ちた。
だが次第に箒のみを浮かべることができ始め、開始1時間で全員が地上1mくらいまでならプルプルと震えてはいるが浮かぶことができ始めていた。
さあ、ここからだ。
「一応落ちても大丈夫なようにはしてあるけど、それが発動するのは3mからな。それ以下は自力で頑張れ。1mからでも落ち方ミスったら軽く死ぬぞ」
上で逆さになりながら一応警告しておいてやる。
箒で空を飛ぶのはそれなりに楽しさがあるのでさっきから結構遊んでいるのだが、それがまた挑発にでも見えたのか精鋭達はペースを上げ始めた。
開始から2時間が経った。
俺は既に飽きてきていたので適当にスキルや魔法で遊んでいたのだが、1人。ゆっくりだが近づいてくる気配に気づき下を見やると1人だけ。群を抜いて上昇しているものがいた。
相当頑張っているようで顔は疲れと苦しさに歪んでいたが、5分もした時にはここまで登って来た。
「はっ...よう...やく.....」
息も絶え絶え、といった感じで登ってきたのはまだ若い17、8歳ほどの青年であった。その身体から感じられる魔力は決して桁外れに多いわけではないが、どうやらコツを見つけたらしい。だいぶ消耗はしているがここまで登ってきたのは評価できることだ。
「ふむ、君、名前は?」
「ハッ!ベイ・ローストニ等兵です!」
ちなみにこの兵の階級は大体旧日本軍とかのものを採用した。全16階級がある。俺は便宜上元帥だが、仕事的には偉い軍曹みたいな感じである。それとトゥールも一応君主として元帥。十二将は大将扱いとなっている。ただし実際に階級によって職務が明確に分かれている、というわけではない。
ただ、これを作ったのは分かりやすくするためである。
後には意味を付与しようと思うが、現状ただ偉いですよ、くらいの意味しかない。
「よし、この時を持ってベイニ等兵を一等兵に昇進。今から10分程休憩にするから皆にコツを教えてやれ。皆も若いからと舐めないように!そんなことをする奴がいたら俺がしめあげるから覚悟しておけ」
さすがに魔力欠乏の状態でやらすと命にかかわるので訓練を一時中断。その間俺は自身の魔力を適当に放出して回復を促す。無論そんなことをすれば普通ならば一瞬で魔力欠乏によって意識を失うか死ぬかのニ択だ。どのみち上空からなので死ぬの一択ではあるが。
ではなぜ俺がそんな非常識な事をやれるかと言うと.....実はよくわかっていない。
一応言っておくが、基本的に俺の身体は一般人と同じ。切れば血は出るし普通に死ぬ。それを魔力やスキル、技術等によって切られないように、切られても瞬時に回復するようにしているのだが、それにはもちろん魔力を消費する。
この魔力とはいわゆる血液のようなもので無くてはならないし、使う度に減っていく。無論放っておけば回復はする。
そして魔力の量は基本的に人それぞれである(ちなみにそれぞれに血液型のように属性が色としてついており、俺のは銀色。属性は無に近い)。
つまり現在俺は無差別且つ同時に輸血を行なっている状態。
少し人より魔力量が多くとも47名に対して同時に魔力供給を行えば、何が起こるかは猿でもわかる。
のだが、俺はどういうわけかそれが可能なのだ。
いや、大まかな原因はわかっている....はずだ。
これにもまた説明が必要だが、ものすごく簡単に表すと精霊がくれ。魔力を。しかも無制限且つ瞬間的に。
んでもって、本来はスキルによってみることはできる精霊を何故か見ることができる。こっちは本当に謎。
あるいはまだ未知のスキルがあるのかもしれないが、不都合はないため別に構わない。
さて、そうこうしているうちに休憩時間が終わったようだ。
「よし、休憩終了!練習再開!ベイ一等兵は皆が上がってくるまで俺と同じ高度で待機!」
号令に皆元気に声を張る。どうやら仲は悪くないようだ。
そしてベイ一等兵は飲み込みが早いらしく、先程までとは比べ物にならない速度で上昇し、ピタリと止まった。
「教官殿はさすがですね。こんな複雑な事を....」
「んー?まあ、俺は半分反則だからね」
飛行魔法自体は構想が元から存在した。
ただしその為には補助具を抜きに考えると複雑怪奇極まる。
故に今の今まで飛行魔法師部隊、と言うものがなかったし、そもそも飛べる者も数える程度しかいなかった。
だが、あいにくと俺の固有スキルはそれらを軽くクリアしてしまう。そこから異世界人という知識面での圧倒的アドバンテージを駆使していけば、まあ空を飛ぶくらい造作もない。
「それに複雑と言ってもその補助具は基本的なシステムは整ってるから、魔力流して体重移動して空飛ぶ意思を示すだけだからな。本音を言えばそんなん無しで飛んで欲しいところだ」
どうしても魔力を流す時点で無駄は出てくるため、生身で飛んだほうが大体1.5倍くらい飛行距離と到達速度が違うのだ。
「ははは...それは...幾ら何でも」
「知ってる。ただ本格的な戦争が始まるまでにはこれを完璧に乗りこなせるように突貫的な訓練をするからな。そうだな...目標としてはここから途中1回の補給で帝都を爆撃する、くらいまではやってもらう。本当に爆撃はたぶんしないけど」
「.....ど、努力します」
完全に顔が引きつっているがやる気はあるようだった。
下の連中も徐々にではあるが順調に高度を上げているのでこの調子でいけば本格的な開戦までには十分余裕を持って間に合うだろう。
さて、がんばろうか!
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