第47話:新たな世界への道


「こ...れは....もしやかの十二将.....」


驚愕の声を上げるのはトゥール。

それもそのはずで、現在トゥールの前にはフル武装(本気時のみの専用武具)までさせているのだから。それはもう威圧感はやばい。特にトゥールやその護衛のマルティナ(と言う近衛らしい)あたりはなまじ知識がある分顔から血の気が引いていた。


「事情があってバラバラになっていたんですが...つい先ほど揃いました。これでよりあの話に現実味が出たと思います」


「そう...ですね....はい。丁度良かったです。少し早いですが結論を伝えましょう。どうぞお座りください」


どこか決意した、といった感じでトゥールがそう勧める。

エスコバル獣国とドマ帝国の事もあるため内心割と不安だったのだが、交渉の場でそれはマイナスでしかない。それに仲間の前でもそんな表情を浮かべてはいけないだろう。

なので俺は余裕を持って笑みを崩さずに向かいの席へと腰掛ける。十二将の皆は俺の背後に並んだ。


「前口上は大丈夫ですので、単刀直入にお聞かせください。帝国を裏切りますか?」


「はい」


それは力強い返事だった。


「ただ勘違いして頂きたくないのですが、私は領主という以前に学者です。学者は合理的で理性的な判断が出来なければなりません。ですので...もしユート殿あなたが従うに値しない、と私...いえ、わたしたちがそう判断をしたのならば貴方を切り捨てます」


その顔に浮かんでいるのは脂汗。ただその目には決死の、確固たる決意が現れていた。

....まだ若いのだろう。ここで汗を流せば足元を見られかねないし不甲斐無ければ裏切る宣言は思い切りが良すぎる。

点数をつけるならば減点の方が多いのだが...


嫌いではなかった。


「ええ。貴方が守ってきたこの街、そして民は私が守りましょう。貴方と手を取れることはとても光栄だ。トゥール殿、いや、トゥール。貴方は尊敬に値する人物だ」


俺は立ち上がり、腰のシスルスを抜き放ち空へと掲げる。

一瞬トゥール達がビクッと震えたが、お構いなく今度は魔力をシスルス全体へと付与。それが目視できるレベルにまでになったら自分の顔の前で立て、そして斜め下に振って戻し、鞘へと納めた。今のは騎士が同格の味方にする最高礼のもので今では行われておらず、昔行われていたものだ。

故にマルティナはイマイチわかっていなかったが、トゥールは理解したらしくえらく感動した様子だった。


「私もだユート。貴方と手を取れることが光栄です。やはり貴方はどこまでも王の器であった」


そうして今度はトゥールが片膝をつき、手を胸の前においてこうべを垂れた。これは今風の騎士の最高礼だ。

意趣返しというわけではなく純粋に身体が動いたのだろう。


それから俺らは固く握手を交わした。

この時のトゥールの目は、どこか子供のような感じだった。


「さて、トゥール。突然ですまないがここの軍事経済福祉などの資料を読ませてもらえないか?とりあえず知っておきたい。あぁそれと敬語は無しにしてくれ。あくまで今の俺らは対等な相手、砕けた感じで行こう」


「ふむ...わかりました、いや、わかったすぐに持って来させよう。他には何かあるか?」


「なら1時間後に会議をしたい。大臣達との顔合わせ件今後の方針の話し合いだ。っと、それとリグリット」


そう呼びかけるとどこからともなくリグリットが俺の前に現れた。その唐突な出現にトゥール側はかなり驚いていた。

まあ、確かに隠密等は相当な腕前にあがった。

もうすっかりと気配を消せる、悟らせずに近づく等はお手の物となっている。そのため、薬師とも言ったが副業として(と言うかは専属で)裏仕事をやってもらうことにしてみた。

んで、少し表現がおかしいかもしれないが、今回は正式に裏仕事を頼むことにしたのだ。


「トゥール。文官にレンザとか言う40代の男はいないか?」


「あぁ。たしか内務の次官だったはずだけど...?」


「ああやっぱ内務か...うん。とりあえずこれ渡しておく」


トゥールに渡したのは例の兵士が置いて行った紙。

つまり『ムレン伯爵を殺せ』と言う偽の指令書だ。

スキルによる鑑定等によってこの文字からはその名が浮かび上がったのだ。残留思念とでもいうのだろうか、まあなんでもいい。つまりはそういうことなのだから。


「....つまりその次官が手を引いていると?」


「話が早いのは助かる。あぁ別に暗殺しようとじゃないからな。それをしたら意味がない。きっちりと黒幕まで案内してもらわないとな...」


目の前の犯人を殺すのは誰でもできるし簡単だ。

だがそれをやってしまうとトカゲの尻尾切りを誘発して意味がなくなってしまう。迷宮入りだ。

正直な話、とっとと黒幕もろとも帝国の腐敗連中を吹き飛ばすなりしたら早いのだが、残念ながらそれをやると蛮族だ。

帝国を滅ぼすつもりはないのでそんなことはできない。


「と言うことだ。リグリット、頼めるか?」


「手当次第だな」


おっと、リグリットも言うようになった。


「常識の範囲内なら何か1個、あるいは1回限りの俺への命令権でもいい。無論常識の範囲内だが」


「ふむ....まあいいか。それで、詳しい期限と目的を....ちょっと待って。すごい視線が痛いんだけど、今にも殺されそうなんだけど」


「ん?あー...お前らストップ。ストレスで胃に穴が空くから」


見やるとどう言うわけか不機嫌そうな顔で十二将の一部がピンポイントで殺気まではいかないものの、なんだか怒気のようなものを飛ばしていた。

と言っても飛ばしてるのは真面目勢(俺のことを様付けする連中)に限られているので単純に俺への態度が気になったのだろう。ただこのまま放っておいてもギスギスしてしまうだろうから一応釘を刺しておく。


「リグリットは仲間だけど同時に雇用主と雇われの関係だからな気にすんな。というか気にするのやめろ。意外と貴重なんだからこういうの」


馴れ馴れしい奴やアホみたいな奴は多いがリグリットのように友人のようなものは少ない。いないことはないのだが、やはり客観的に見ても規格外すぎる諸々の影響で相手が畏るか逆に調子に乗るかしてしまうのでリグリットのような実力をある程度見せた状態で悪友みたいなのは貴重なのだ。

どうやたその事を納得してくれたらしく、真面目勢からの視線は消えた。


「じゃあ頼む。期限はとりあえず1週間。目的は情報収集で面会、密会その全てを監視してほしい。話の内容も確認してくれ」


十分危険な事でとりあえずで頼むには些か無礼ではあるのだが、リグリットはいつもの調子でわかったと頷き、瞬く間にその場から消えた。

と言っても俺や十二将には居場所がわかっているため焦る必要はないのだが、トゥール側はもう驚愕を通り越して呆れの色が浮かんでいた。


その後流石に十二将+αをぞろぞろと連れて会議に行くわけにもいかないので部屋へと帰らせた(一部ヒスイやアデル&エリスは外に向かった)。

俺は俺で(生活兼戦闘服なので)着替えるべく、一緒に部屋へと戻りフォーマル(と言っても少し楽なゆったりとしたもの)に着替え、威厳を示すための宝飾品をつけた。

トゥールにもらった資料はザッと目を通して全て記憶した。


「では、行きましょうか」


トゥールのやや緊張した声音と共にマルティナがドアを開ける。俺はトゥールと並んでの入場だ。

これが何を意味するかはお察しの通りだ。


案の定会場の各重役の皆様方は顔を顰める者、こちらを値踏みするような顔、何が何だかわかっていない顔など様々なものがあった。

だがそんなことにいちいち突っかかっていては進まないので俺とトゥールはそれぞれ左右から一番奥の位置、つまり上座へと向かう。後に続くのは護衛役としてのマルティナとフィアだ。


「さて、これより会議を始める」


軽くざわついていたが、トゥールのその一言に糸を張ったような緊張感が生まれ、ざわつきが収まる。

そこはさすが重要拠点であり危険地帯でもあるブクスト区を治めるだけある。ただこちらへの視線は止んでいないが。


「ユート殿」


そう促されたので席から立ち上がる。

それにより視線はより一層こちらへと集まった。


「このお方はかの英雄にして魔王と呼ばれるユート・カミヤ殿だ。先日、一部の者を集めた緊急の会議にて私の独断で決めさせてもらった。我々はユート殿を対等な同盟相手とし、手を組むこと、それと制限付きではあるが一部の権限を与え、内政等に迎え入れることとした」


「なっ....お待ちください!同盟相手と言うことは理解することができます。ですがまつりごとに組み込むと言うのはどう言うことですか!?」


一番に反応を示したのは内務を司る長官。ザイン・ローファンと言い、とても優秀な人材だそうだ。

そして長官の中のまとめ役のような立ち位置でもあるらしく、ザインの言葉に他の長官が次々とザインの言葉に賛成を示す。


まあ、当たり前だわな。

確かに帝国を裏切った後は俺が作る国に組み込み的なことを約束したが、まさかそれが現在の政まで干渉することまでは俺だって予想だにしていなかったことだ。

一部の権限と言うのも権限によるがそれは半ば客分である見ず知らず者に与えるなど正気の沙汰ではない。

与えられる俺からすればやりやすいのだが、同時に反発は避けられない。


「ならばここで領主権限を発動させ、特例を持って迎えることになるが....それは私とて本意ではない。なので、ユート殿、我々を納得させる具体的な案などを出して頂けますか?」


「トゥール殿....はぁ、わかりました」


実はトゥールは俺の事をいじめてるのでは、と思う。

この場で具体的な案を出せ、と言うのは「全員を納得させられる案が無ければ認めない」と同時に「もし裏切ったらその対策案はすぐに出る」と言うもの。

なんと言うか...逞しいと言うより小賢しいな。


「では、私の方からいくつか、経済、農林水産業についての政策案を出させて頂きます。内政に組み込む、と言う事でしたので軍事関係よりも良いかと思います。よろしいですよねトゥール殿?」


「....ええ。構いませんが...」


なので俺も嫌がらせとして軍事関係については今は言わないでおいてやろう。どのみちすぐに話さなければいけなくなるだろうが、それまでに目一杯俺の価値をあげといてやろう。


「ではまず経済について、これは主に内務の方の担当だと思いますが...簡単なブクスト区における経済状況をお教え願いませんか?」


先ほど真っ先に異を唱えたザイン内務長官へと顔を向ける。


「...ブクスト区の主要な産業は主に魔法道具。これが歳入の3割を占めている。後は遺跡の副産物としての鉱石や遺物の類、それと知識の提供で合計すれば遺跡関連だけで5割は賄われている。後は貿易や租税によるもので借款はないが最近は緊急軍備拡張予算として国から上納命令が出ていてその対応に追われている。後は....」


本能的に俺への恐怖を感じているのだろう。これだけ国の重要な情報についてペラペラと話しているのは前にハピアに使用した【真実の精神】が作用している。

その後もザインは違和感を感じさせる表情を偶にしつつも口が勝手に動くようにしてブクスト区の経済状況について細かく説明していった。


ザッと聞いたところ、資料と相違の点は無し。

だがやはり問題は多く存在していた。

大まかに分けて問題点を整理すると、合計で3つある。

①歳入が遺跡に頼りすぎていること

②主要な産業が無いこと

③年中行事の少なさ

特に致命的なのが①だ。

遺跡は有限な資産であり、いくら数が多いとはいえ魔法具はその性能を選べるわけでは無いので用途を指定できない。

いわばギャンブルのようなものだ。

当選確率は高いが使えば使うほどその確率は落ちていく。だがそのれに頼りきってしまっている。


それと③にあげた年中行事の少なさは領民の意識の問題もあるかもしれないがそれ以上にトゥール達にその意思がまったくなかった。研究者体質と言えばいいのかバカ騒ぎをするくらいならば謎を解いていた方が良い、との考え方なのだ。

だがそうなると領民の不満のはけ口が限られてくる。現状犯罪率は多くはないが、それでも近年は増加傾向にあるらしい。


それらを踏まえてブクスト区は可及的速やかな改革を必要としていた。


「ではまず遺跡以外の主要な産業を作りましょう。幸いにしてここは智慧の都。知識提供以外にその知識を応用して特産物を作るのです。例えば紡績業、製糸業などの織物類など...あぁそれから知識提供の際は一度の支払い計画ではなくてあくまで知識の貸与という形にし、月極めとした方がいいでしょう」


ここの連中は上に行けばいくほどその知識を応用するのではなく深める方向に走りがちだ。

故に実質的に産業は領民任せになってしまっている。そして遺跡が多いという関係上、あまりそっち方面に目がいかないのだ。


故に俺が最初にやるべきことだと思ったのは特産品を作り上げること。内容はその本人達が決めてもらって構わないが、なるべく作りやすく他所ではあまりないのが好ましい。

なので、少しここを俺好みに改造するのも兼ねて提案してやっても罰は当たらんだろう。


「例えばですが...こういう衣服など」


別に用意していたわけではないが、虚空に手を突っ込んで取り出したのは懸衣かけぎぬ、和服だ。

色は黒で紋付羽織袴。所謂「五つ紋の黒紋付羽織袴」だ。

正直着る機会は一切ないのだが、それでも和服を好む以上用意しておかねばと用意しておいたものだ。こんなところで役に立つとは思わなかった。


「それは...服ですか?それにしては薄くただ纏うだけのように見えるのですが...?」


反応したにはザインではなく技術長官アシエル・ローレンスという女性長官の1人だ。

余談だがこのブクスト区には通常あまり聞かない役職がある。この技術長官というのは言い換えれば技術士官のような存在で開発を請け負っている。


「ええまあ羽織というのはそういった意味合いがありますから。ですが、これは男性の着る最も格式高い正装にあたるものです。一見アシエル殿の言った通りただの上着のようですがこれは外行きの服ですよ」


他にも俺が持っている和装は多数ある。

今でこそ戦闘衣も兼ねた少し大きめの服を愛用しているものの、自室を持ったり僅かでも根を張る場所ができたら普段着はそっちにするつもりだ。

ちなみにあの最初の頃に着ていた練習着を改造した和装はとってはあるが着るつもりはない。動きやすくはあるが防御面が微妙なのだ。


「この他にも女性用はこのような振袖と呼ばれるものもあります」


取り出したのは女性用の着物である振袖だ。

色こそあまり派手ではないがそれでもどこか眼を惹きつけるものがあるようでトゥール含め全員の目が注目していた。

特に女性はその繊細な柄に完全に眼を奪われていた。


「こほん....えー柄は卓越した技術が必要となりますが、服自体はあまり苦労することはないでしょう。特に最先端技術が集まっているであろうブクスト区の技術者ならば....容易いと思います」


「....確かに簡単とまではいかないと思いますが、できるでしょう。ですが機能面はどうするのですか?現在一般に普及している服はそれなりに機能性デザイン性があるからこそ普及しているのです。そこに異なる衣服が入り込めるでしょうか?」


「ええ。ですからあくまで例えです。他にも製紙業、畜産、薬剤なんてのもいいですね。人材を育成する、と言った線で」


それからこう続ける。


「他にも租税の見直し、各公的機関の費用削減...と、年中行事について忘れてました」


年中行事とは特定の時期を定めて催すもので大きく分けて2種類ある。地域や個人などの小さい規模のやつと国や世界といった大きい規模のものだ。

今回提案するのは後者、国規模(この場合ブクスト区のみ)での年中行事の整理と制定だ。


「ええと...これはザイン殿でよかったですか?」


「祭祀に関しては一応私の管轄ですが....現在ブクスト区において祭祀と言えるのはありません。年に一度、研究成果を発表する場は設けてますが...」


「.....」


まさかそこまで酷いとは思わなかった。

トゥールに貰った資料には書いてなかったので分からなかったが、さすがに予想以上だ。


この年中行事、祭祀はその日を祝う事や感謝することの他にも無視できないメリットが存在している。

その中でも顕著なのが意識の問題だ。

祭祀を行うことでこの国、この地域は自分の地域だ、と再認識させて結託を促す事もできる。更には例えば収穫祭などだとその日を目標に頑張る事も可能だ。

特にこの世界の人々はファンタジー世界であるが故にそういった意識は地球の人々よりも強い傾向があるため、効果覿面なのだ。例として村単位ではほぼ確実に収穫祭が行われる傾向がある。


「その他にもメリットとして観光資源としても使うことができます。警備さえきちんとしていれば敵国に見られても国力があるとしか思われません。なので、まずは3つ。収穫祭、精霊祭、夏至祭の制定を提案します」


収穫祭は簡単に言えば大規模な飲み会。

精霊祭はこの世界特有のもので地球で言うところのクリスマスに近いものかもしれない。内容は名前のまま精霊に感謝する祭。これもいわゆる飲み会だ。

夏至祭は特にヨーロッパのものを採用し、占いも兼ねて一晩中踊り続ける。これもまあ飲み会のようなものだ。

飲み会ばかりだが飲み会は仲を深める効果があるため構わない。それにその方がやる気が出る人も多いのだ。


「うむ...少しこちらでも考えて見ましょう」


「ええ。お願いします」


聡明な人でよかった。すぐに案を受け入れ納得してくれたようだ。

さて次は農林水産業についてだ。


.....なんだかゲーム感覚になってきた。


「次は農林水産業について、です。先ほどトゥール殿に頂いた資料によると、ブクスト区の主要農産物は麦。水産業は近場の川からの魚が主ですが、ブクスト区の規模に対して収穫量、農耕地面積が少ないと思われます」


一応領内消費量の殆どが輸入と言う日本状態ではないが、それでも比較的輸入等に頼っている感じがデータとしてある。

食料問題こそ起きていないが、データによると数年に一度の割合で麦が凶作の時にインフレが起こっているため、まずはそれ自体を起こさないような改革をしておかなければブクスト区の発展はないし場合によっては即滅ぶことになる。


....と、言ったがこの改革は簡単だ。

だって農耕地面積を増やせばいいのだから。


「これは手っ取り早く農村を増やすか与えられた領地内に直属の農地を作るかで補いましょう。技術的なものでも増やせますがそれよりもまずは母数を増やすべきかと。幸いにしてブクスト区周辺は山からの栄養がある土が流れつく場所は多くありますので探し出すくらいは簡単でしょう。私の意見としましては、城壁を延長してしまえばいいと思います。籠城もできますし」


「城壁を延長ですか...?それは提案することは簡単ですが、つくるまでに多額の資金と期間が必要となります。それでは本末転倒なのではありませんか?」


「その意見は当然のことです。アルダナ殿。しかし今回の場合は問題ありません。アルダナ殿は十二将の面々をご存知ですか?」


アルダナとは補給担当の女性長官だ。

アルダナは俺の物言いに少しムッとしながらもしばらく考え込み、そして思い出したように手を打った。


「地人種の方がおられたかと思いますが....あってますか?」


「ええ。アデル・アデラードと言います。彼女の力を持ってすれば仮の土壁程度朝飯前でしょうね。ただ城壁自体はここの大工に発注します。これは雇用を生み出す、というのと自分らの手で作ったという記録を残したいからです。もちろんこれも政策の一環です」


モニュメントと同じように自らの手で大きなものや象徴的なものを作ればそれだけ土地に愛着がわくというもの。

狙いすぎな気もしないではないがまあ、統治なんてそういうものだろう。


「以上です。あまりお時間を取らせるのも申し訳ないので、より詳細については後に提出させていただきます。その時は軍事関連についても....それで、ご納得頂けましたか?」


そう聞くとトゥールは顔をニヤニヤとさせつつ各長官の反応を見る。

各々、特に俺が説明したものに関連のある内務、技術、補給の長官達は感心したような色を目に浮かべていた。

他の長官達もそんな長官達の様子を見て納得した様子であった。


「決まりだな。ではこれよりユート・カミヤを特別大使として迎え入れる。そうとなれば宴だ。ユート殿も言っていたようにこれは祭祀として扱おう」


そう言うとトゥールは突然立ち上がり、彼方の空を見つめながら、こう言った。


「これよりこの世界は新しい展開を迎えるのだから」

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