第46話:十二将
十二将はその名の通り俺の仲間12人の呼称だ。
おそらくだが世界で有数、少なくとも12人で戦えば敵がないレベルにまで強く、様々な能力を持っている。中でも最も異質で特徴とするべきものはその構成員の種族が皆違うことにある。例えばアリアは魔人、ティファは人(クオーター)でフィアは翼獣種(獣人とは別)、ミーナはエルフと全員が違う。他のメンバーもそれぞれハピア達と同じ獣人、金属の扱いにたける地人(ドワーフあるいはノーム)、東の果ての島に多く住んでいる鬼など皆それぞれ違う種族なのだ。
そして、その中でも珍しいと言うかありえないレベルの種族が残りの5人。
類稀なる美貌と長大な寿命を要し人の天敵とまで言われる吸血種。吸血鬼。
天災と並び称され外との交流の殆どを断ち生活している竜種。ドラゴン。
全ての海を統べる王の種族。その意思一つで船を転覆させ街を飲み込み国を崩す力を持つ海王種。海王。
万人の一生のうちに1回でも見ることができれば幸運と呼ばれ、神の使いとも崇められる幻獣種。幻獣。
魔法の母であり、すべての精霊を束ねる女王にして最強の魔法師、精霊種。精霊。
と、名前等は後で紹介するとして、およそ歴史上後にも先にもこの種族が集まることはないだろう。
最終的には認められはしたものの、中には「連れて行くなら私たちを倒してからにしなさい」とか言うのもいた。
ちなみに竜種である。
さて、説明はここまでとしよう。
即席ではあるが木の下に席を設け、皆座らせる。
さすがに12人が横並びだと紹介しづらいので円形に座らせての紹介だ。
「さて、誰から紹介しようか?」
「んじゃあ私からさせてもらおう」
そう言って俺の右前に座る長身の女性。赤い髪を後ろで一つに結んだ鬼種のヒスイが立ち上がった。と同時にビクッと身体を震わすのはハピア。
理由はあの悲鳴(?)にあった。
実を言うとあの時ハピアとクラーリは見事にミーナ以外の十二将とばったり遭遇してしまい、そこからどう言う経緯かヒスイにがっしりと抱えられて来たのだ。
長身でツノがあってその片方が折れているお伽話でしか聞いたことがない鬼と出会い、そして捕らえられた(?)のだ苦手意識を持つのも仕方ないと言える。
「ハピアとクラーリにリグリットだったか。私はヒスイ。鬼種だ。角が2本あるとか1本欠けているとかは気にしないでくれ。十二将の突撃隊長だな」
そんなことを決めた覚えはない。
それと一応補足説明。
鬼種は名を尊び皆その額に角を持つ種族だ。角自体は飾りなのだが、その角が立派であればあるほど力が強い傾向があり、ヒスイのように稀に2本持つ鬼もいるが、その者は例外なく強い。純粋な戦闘力だけでなく、鬼道と呼ばれる独自の魔法も使いこなすことから単独での総合戦闘力が高く一騎当千の種族として有名だ。
そして一番の特徴として名を失うと力を失うことz
詳しいことはわからないが、鬼種は生まれた時に長により名をを授けられ、初めて角が生える。
そして長によって名を剥奪される、つまり名無しになるとその力が一気に弱まり、最悪の場合は死に至る。
「あぁ、私のこの名はユートにもらったものだ。少し違和感はあるかもしれないが気にせずにヒスイとでも呼んでくれ」
名付けのきっかけなどはまたの機会にしよう。ここから先9人も待っているのだ。
「じゃあ次ドラキュリア、隣だから頼む」
面倒だったのでヒスイの隣に座っている少女。ドラキュリアに声をかける。すると渋々といった感じで腰を上げた。
金髪と金眼で吸血鬼のようにマントは着ていないが黒を基調にした服はそれなりに雰囲気を出している。
「私の名はドラキュリア。ドラキュリア・ローズマリー。吸血種よ。一応吸血姫なんて呼ばれてたけど気にしなくていいわ。馴れ馴れしくするつもりはないけれどよろしく」
補足説明しよう。
吸血種とはその通りの吸血鬼の種族なのだが、もうほとんど絶滅している。理由は人による吸血鬼狩りだ。
その美貌と強力な力、そして何より人とほとんど変わらないと言うのに、という理由で、つまり嫉妬で狩り尽くされた。
その中で特に力が強かった故に生き残ったのがドラキュリアなのだ。まあ他にも理由はあるのだが、大体はその理由故に少し人見知りなのだ。なので決して悪意があっての厳しい言い方になってしまった、と言うわけで実際は結構子供っぽくて無邪気。指摘すると怒るのだが、最後によろしくと言う時点でわかるだろう。
「はいじゃあ次はミラ」
そう呼びかけて立ったのは長い黒髪とゴスロリ風の黒いドレスを着た竜種の少女。ミラことフレミラだ。
ちなみに魔力と知性があれば大抵の異形種(人と大きく違う種)は人化ができるので現在そうなっているのだ。
「私は主人殿の騎竜。竜種のフレミラ・バーハム・ドラコーンと言います。具体的な種族は黒銀竜と呼ばれるもので、お恥ずかしながら跡目争いに負けたところを主人殿に拾われた次第です。ですのであまり気負わず、気軽にミラと呼んでください」
補足しよう。
この黒銀龍とは竜種の中の種類。人で言うところの人種に近く、有名どころは四大竜と呼ばれる火竜や水竜などがいる。
そしてこの黒銀竜なのだが、現状確認できただけで両手の数に収まるほどしかいない超貴重種だ。
本人はあまり気にしていないが、下手に見つかれば狙われかねない危険性をはらんでいる。ただ気絶や討伐でもできれば、の話なので力量差の関係上気にしていないだけなのかもしれない。一応うちの空中戦トップクラスだしな。
「ちなみに騎竜にした覚えはないんだけどな。はいじゃあ次ステラ」
立ち上がったのは水色の長髪に簡素なワンピースを身にまとっている少女。ステラことアルステラだ。
見た目は完全な少女なのだが、所謂ロリ○○アだ。
「ユート.....まあいい再開したばかりなので許そう。儂の名はアルステラ・リヴァル。海を統べる海王種の巫女であったものじゃ。まだ初対面じゃが、これからは共に戦う仲間。よろしく頼む」
補足。
海王種とはその種の存在自体が疑問視されているレア度だけなら1位2位を争う希少な種族だ。正式な観測記録は2体のみ。俺はもう少し多く見たことがあるのだが、ステラはその中で長年巫女と呼ばれる神殿を守護し管理する仕事をしていた人物だ。海辺ならば無制限に海水を操ることができ、攻防共にこなせるオールラウンダーだ。
無論陸地だろうと魔力を消費すれば水は生み出せるし目視か自身の血が混じれば地下水を操ることもできる。
「ユラ。次頼む」
次に立ったのは白い長髪を後ろで縛った長身の女性。
ユラことユラーミだ。余談だがたぶん十二将で一番メガネが似合いそう。
「初めまして。私の名前はユラーミ・マキアーティアと言います。幻獣種なので定まった形は持っていないのですが、基本は人型でいますので何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてください。それとユート様。お久しぶりです」
こちらを向いて丁寧に一礼するユラ。
言動からすでにガッチガチの硬さなのだが、これがユラの正確なので仕方がない。
ユラの種族。幻獣種とは天馬や一角獣と言われる存在と同じ存在だ。幻獣種は幻獣と呼ばれているだけあって幻のように姿を自由に変えることができる。大抵は一つの定まった形を選ぶと滅多に変化させないために天馬や一角獣が別の存在として幻獣種とされているのだが、ユラは人型を定まった形としたため8割は人でいる。稀に変化させているのだが、なんでも俺と同じが良いと人型から変えるときは進んでやらずに指示された時のみだ。
まあ人形だろうとほぼ同じ力を発揮できるため、変化する必要はないのだがな。
「はい次。エレメンタリア」
立った(というより浮かんだ)のは前にも紹介した精霊を束ねる女王にして十二将のハチャメチャ筆頭。エレメンタリアだ。
「精霊種。エレメンタリアです。私は特に何か、と言うのは無いので、短めにしますね。ハピア、クラーリ、リグリット。これからよろしく」
珍しく空気を読んで簡潔にしめたエレメンタリアがふふっと微笑む。エレメンタリアは前に説明したので補足はいらないだろう。というか補足する理由があまり無い。
ハピアとクラーリはこれまであまちピンと来ずにポカンとしていたがエレメンタリアの名前を聞くや否や驚愕に目を見開いていた。ちなみにリグリットは最初から割とあきれ返っている。
「あと3人か。じゃあミーナ。頼む」
立ち上がったのは一足先に再開したミーナ。
無表情というか眠たそうな顔だ。
「ミーナ。エルフ。よろしく」
そう言って腰を戻した。
.....うん。すごく簡潔でいいと思います。
「アデル...この後はある意味きついかもしれんが頼んだ」
「はい!」
元気よく返事をして立ち上がったのは十二将の子供組(と言っても年一緒)の片割れ、茶色がかったお下げのアデルだ。
「名前はアデル・アデラード。地人種です!仲良くできたらいいなと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
ちょっとした補足。
地人種は先に説明したように金属の扱いに長けた種族だ。
そのためアデルは十二将の中でも戦闘は不得手で主に武器作成などの後方支援を行なっている。ただ別に弱いというわけではなく、ハピア、クラーリ、リグリットが束になっても勝てないだけの実力はある。加えるならば特に防衛戦はめっぽう強く、アデルが本気で守ろうと決めたならば村でも堅牢で不沈の砦に様変わりする。
「さて最後、エリス。頼むぞ」
「任せて!」
またも元気よく立ち上がったのは十二将子供組のもう片割れ、獣人のエリスだ。
「名前はエリス。エリス・ヴァリアント・"カミヤ"!」
瞬間突き刺さる幾千にも錯覚する視線の槍。
なんかものすごい規模の爆弾落としやがったぞこいつ!
「ちょっと待て!なんだカミヤって、お前はエリス・ヴァリアント・グロックだろ!?勝手に改名すんな!」
「えー...ケチ。まあいいか。改めて...エリス・ヴァリアント・グロック(カミヤ)。気軽にエリスって呼んでアデルと一緒に遊んでね」
.....補足しよう。
エリスは獣人の中でも珍しいというか異常な神獣の獣人だ。
所謂九尾で今はモフモフな尻尾は3本だけだが出せば9本まで増える。そして最も特徴的なのが獣人にしては異常な魔力量。獣人とは元来より魔力量が少ないのだが、エリスはそれが人並みどころかそれ以上の魔力量を誇る。
それもこれも神獣とのハーフが原因だが、本人は強いので構わないと気にしておらず、今では完全にその力をものにしている。余談だが特技は瞬殺と破壊だ。見事にこの場の空気を破壊しやがった。
「.....言っとくが誤解だからな。さっきも言った通りカミヤの姓を与えた覚えはない。絶対にない。なのでお鎮まりください。この場を更地にしたくないです」
「それはまあ...ユートの誠意次第だな」
アリアのその言葉に皆が頷く。
....まあいいか。時間がどうにするだろう。
「さて、全員揃ったことだし...エレメンタリア、報告頼む」
「はい。かしこまりました...と言いたいのですが、残念ながら悪い報告しかありません」
「ん?いや、俺は協力要請しか頼んでいないんだが」
俺が頼んだのは獣人の国エスコバル獣国と魔人の国ドマ帝国への協力要請のみなのだが...嫌な予感が背筋を走った。
「いや悪い。聞かせてくれ」
「はい。エスコバル獣国、ドマ帝国への協力要請ですが...どちらも拒否。王に合わせてすら頂けませんでした」
「.....そうか」
エレメンタリアですら王と会うことができない、となるとそれは相当な緊急事態だろう。
エレメンタリアが現れれば激戦地だろうと戦いの手を一時的とは言え止める事を考えればその異常さがわかるだろう。
正直計画の破綻だ。元々カリエント帝国を弱体化させて三国の均衡を保つために協力してもらおうと思ったのだが、この両国が抜けるとなると帝国を弱体化させた途端に条約等によって縛れなくなる。その結果、エスコバル獣国とドマ帝国の両国が強大化していき、最終的には世界大戦まで発達する可能性があるのだ。
「仕方がない...か....」
こうなってしまってはもう仕方がない。
均衡を保つ事ができるのは何も三国だけではないのだ。
強大な一国と多他国とで均衡を保てばいい。
そして、国がないのならば作ればいい。
「現在帝国は勇者39人を抱え、戦力の差が他国と大きく開いた。まだ完全な戦力とは言えないだろうが数もまた力だ。おそらく近いうちに他国へと戦争を仕掛けるだろう。そうなれば村は潰され街は壊滅する。人も大勢死ぬだろう。正直言えばお前ら以外割とどうでもいいんだけど...縁を結んだ人もいるからな」
どうでもいい。だけど例えば情報屋エルサラン。例えば宿屋カイラにその義理の娘アリサ。例えば孤児院の元盗賊兄妹ケールとシルフィ。例えばニークスやカルデラ。もちろん他にも何人もいる。
そのどれもが偶然の或いは気まぐれで結んだ縁だが、それでも少なからず迷惑をかけている者達ばかりだ。
ならば報いなければならない。
「してユート。儂らは何をしたらええんじゃ?」
「戦争だよ。これから戦争を始める」
そう言うとヒスイがニヤリと牙を出して笑った。
「ほぉ....つまり私らは暴れればいいのか?どこの国だ?」
「三国あるので一国につき4人ですね。兵は皆殺して貴族と君主は捕らえましょう。国の崩壊までは半日もあれば終わります。後は掃討戦になりますがそれも1日あれば終わるかと」
「ヒスイ....落ち着け。ユラはどうした?ストレス溜まってんのか?」
なんだか物騒な事を言い出し始めたので早々に止める。
たぶん放っておいたら知らん間に何もかも終わってる可能性すらあるので油断できないものだ。
まあやろうと思えば誰1人殺さずに君主だけ捕らえて国をひっくり返すこともできるのだが、今回はちょっと回りくどいやり方をする。
「ムレン伯爵の裏切りが前提になるが、今回はブクスト区にて軍備を増強しつつ戦争が始まった時に独立勢力として宣戦布告、お前らには将として兵を率いてもらう予定だ。そこからは近場の戦地に介入しつつ勢力範囲を拡大。頃合いを見て和平会議を要請して戦争を終結させる。まだ大雑把だが後々詳しい事まで話し合おう」
「....難しいことはわからんが、つまり私らは暴れればいいのか?」
「それを自重して兵を使え、と言うことじゃな。儂らが暴れたら兵が育たぬ。特にヒスイ。
「むっ...そう言うことか。だがユート、少なくとも私は軍を率いたことなどないぞ?」
「ちゃんと後で教えるから大丈夫だ。まあ...かく言う俺も軍と言えるほどの人数を指揮したことはないんだけどな。知識はあるけど」
古今東西地球異世界の戦争において記録に残っているものは記憶している。だが記憶しているのと実際の経験ではやはり違うものが出てくるのだ。
俺のスキルを使えば記憶も理解もできるのだがそこに伴う筈の感情はついて来ない。
まるで映画でも見ている感じ、と言えばわかるだろうか?
記憶からどれだけ悲惨な事を理解しようともそこに生まれる感情は後付けのもので本物の感情はないのだ。
そして、経験において感情は重要なものだと俺は経験上理解している。
「さて、最後に久しぶりのアレでしめようか。更新も必要だろうからな」
そう言うと十二将は皆立ち上がった。
残念なことにはハピア達はわからなくておどおどしているのだが、今回は我慢してほしい。
俺はポケットから一つの指輪を取り出して指に嵌める。
そこに彫られている意匠は月と太陽。貴族の紋と同じものだ。
一方、十二将の方も同じように指輪を取り出して指に嵌める。こちらの柄は皆違い、それぞれには黄道十二星座の意匠が彫ってある。
「ここに誓おう」
指輪を掲げてそう呟く。
途端に俺の指輪は淡い光を輝き始めた。
それがそれぞれの指輪へと伝わり、同じように輝き始める。
「魔の王として」「緑の賢人として」「森の防人として」「空と地の獣として」「神を宿す者として」「金神の寵愛者として」「双角の鬼として」「吸血鬼の姫として」「天翔ける竜として」「海を統べる巫女として」「全ての化身として」「精霊の女王として」
「全てを統べる者として」
皆真面目な顔をしてそれぞれそう呟く。
すると手に嵌めた指輪はそれぞれより一層輝き出し、その光が俺の指輪に向かい、そして弾けた。
周囲に光の粒子が舞い、程なくして消える。
そんな光景をハピア達は不思議そうな目で見ていたが、すぐにその光に目を奪われ、消えた時にはハッとしていた。
.....やはり人前でこれをやるのは小っ恥ずかしいな。
ちなみに言うとこれを考えたのは俺ではない。
指輪を作ったのは俺だがこの儀式めいたものを言い出したのはエレメンタリアとステラ。口上を考えたのはアリアとドラキュリアだ。なので勘違いして欲しくないのだが、これは別に厨二心の暴走だとかではない。これやると周囲の士気も上がるし仕方なく、だ。気に入っているのは否定しないが。
「今のは指輪の更新だから気にすんな。そのうちお前らのも作ってやるよ。そんなことよる、行くか」
正直な話もう少し旧交を温めたいのだが、こうして十二将が揃ったとなればムレン伯爵への圧力的なものにも使える。
それに軍備増強を目指すならば今のうちから様々な準備をしていかなければならないのだ。
そのため、少々名残遅さを感じつつ、ムレン伯爵の屋敷へと戻っていった。ゾロゾロと1人+12人+3人+1振で。
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