第36話:昔馴染みとの再会

魔法協会の会議室というのは流石に帝国公認なだけあって、基本的には外から破壊されない限りドアが開かない、防音と対魔力感知の結界が(一般的に)高価な魔法具によりいくつも展開されていた。

故に防諜やプライバシーの保護は完璧....と思いきや実はこれ結構ガバガバだったりする。


「まったく....いつから協会はこんな事をするようになったのか....すまんが頼めるか?」


ニークスは呆れ顔でやれやれと首を振る。

すぐに俺は魔力をこの部屋のみに拡大させ、魔力の急激な活性化による魔力感知結界が反応しないように徐々に結界自体を強化、改変していく。

これはある意味自衛行為にあたるものだ。

端的に言うならばここに置かれている防諜用の魔法道具達は協会側に都合がいい様に改造されている。

内容は内部の声を任意の場所に届けること、つまり表向きは誰にも聞こえないがその実特定の人物には聞こえている、という盗聴のようなものだ。

そしてその犯人はおそらく、


「現会長のナンダジェ、だっけか?」


うざったかったお嬢様口調をやめ、ハァっとソファにもたれかかりながらそう問うとニークスは頷いた。


「あいつはよく言えばお主みたいに知識欲が強い奴だが、その情報で強請ったり己が利益のみに利用する性格でな、腕が立つだけあってタチが悪い」


なんでも現在の会長 ナンダジェという男は魔道具の扱いに長け、それでいて宮廷魔法師になれる可能性もあった優秀な魔法師であったらしい。

身分こそ貴族ではないが土地持ちで殆ど同じ扱いを受けていた故に自身を貴族と同一視しながらも劣等感に苛まれ、宮廷魔法師にもなれなかった結果、今の血統主義且つ嫌な意味での弱肉強食の人格が形成されたらしい。


「特に儂なんてなまじ"英雄・・様"に教えた功績があるぶん目の敵にされていてな。"魔王・・"に教えた逆賊として突き出されそうにもなったわい」


「それは悪いな。だけど俺が教わったのって初級だけじゃなかったっけ?」


「そらあ!お主は1教えたら10も100も勝手に覚えていくからだろう!あれほど教えがいのない弟子もそうはおらんだろうな」


それはまあ正直初級を教えて貰えばそこから現代知識を応用して発展させることもできるし見せてもらえれば使えるようになる固有スキル持ちだ。仕方ないだろう。

そんな少し昔の話をニークスとしていると、ふと袖が引っ張られていることに気づいた。

見やるとそこにいたのは蚊帳の外だったのが気に障ったのか膨れっ面のアリアがこちらを怒りと寂しさと、どこか羨望が混ざった眼差しでこちらを見ていた。


「いやまあ放ってたのは謝るけど....どした?」


「いや....ユートに師がいたのに驚いているだけだが?そんな私の紹介もせずに私の知らない昔話をされて困ってるとか怒ってるとか無いから安心して話を続けてくれ?」


「痛い痛い、いい笑顔のまま抓るな。悪かったって、ええとこの目の前の爺さんが俺が一時的に魔法とか教わってたニークス・バーっていう、まあ腕の立つ魔法師で、今回あのガキの家庭教師を頼む人物だ」


「一時的に、と言ってもほんの1週間程度だがな、正直逆に教わったことの方が多いという始末でな、それで?そっちの別嬪さんは?お主のコレか?」


そう言って小指をたてるニークス。


「ちげえよ。こいつはアリア、アリアンナ・アラストルって言う俺の仲間の1人だ。噂くらい聞いたことあるだろ?魔人種の緋髪の悪魔」


「緋髪....あぁ!あの魔王か!相変わらず型破りな事を.....」


うちの仲間の中でも特に知名度が高く、それでいて比較的悪名高いのが緋髪の悪魔、名前こそ伝わってないものの普通ならここで笑い話で流されるか通報或いは剣を向けてくるかなんだが、こういうことで驚かないのは何というか俺と関わった人の特徴な気がしなくもない。

ただ、少し下世話な所がいかん。

ニークスが小指を立ててくれたおかげでアリアさん、すっかり自己妄想モードに入って妄想の中で俺と絡んでやがる。

微妙に耳年増な部分がある点たちが悪いのだが....まあ今は放っておこう。


「本題に入ってもいいか?」


その問いにニークスが髭を弄びながら頷く。

真剣に考えるときの癖だ。


「まず依頼したいことが2つ。1つ目はとある村の少年を魔法師に育ててもらいたい。"視た"所素質はあるが、問題なのはまだガキだから教えるのが難しいことだ」


「お主と比べれば全ての人物に教えるのが大変という結果が当てはまるではないか....まあいい。丁度研究もひと段落ついたところだしな、どうせ住み込みだろう?ここは居心地が悪くてな、丁度よかった。その依頼引き受けよう」


「即承諾どうも。ただ一応詳細は後で纏めるからそっちを見てから決めてくれ。それと一応口頭で伝えておくが、そのガキは『魔法師殺し』とも呼べる絶対的な魔法に対するスキルを持っている。これは正直外部に漏れたら大変だから今口で伝えておこう」


スキル【魔法干渉】は前にも説明したように相当な能力であり、おそらくその有用度は世界でも五指には入るであろうものだ。

ただでさえ発動してからの防御が難しい魔法という攻撃を簡単に滅し弾く事ができるなど外部に漏れるなんてなれば各国がこぞって囲いたがるだろう。

両親は金の卵を生んだ親として"繁殖"を強制され、ロック本人は軍に入るにしろ逃げるにしろ悲惨な結末は目に見えている。

俺の能力がパッと見、或いは単体ではそんなに強くないのに比べて【魔法干渉】はそれ単体で十全な意味を成す。


「つまりそのスキルを使いこなしたとなると、魔法師が純粋な魔力量或いは近接戦闘で片をつけなければどうにもならない、というわけだ」


「それは....また問題児だな...だがまあお主程ではないだろう。それよりも、さっきは受けると言ったが、儂なんかでいいんか?お主に教えた、と言っても1週間程度だぞ?」


「俺がさっき受付に出した条件が『魔法は上級以上、初級は短縮詠唱か無詠唱』だからな、それに守秘義務を守ってくれて、できれば扱いや...話しやすい人物となると爺さんしかいなくなるわけだ」


無論優秀なのは他にもいるだろうが、そういう者の殆どが国と強く関わりがある者が多い。

一応権力と関係が無く条件を満たす存在として賢者と呼ばれる3人の男女がいるのだが、何分隠遁しているせいで連絡がつかないしコネもない。というか全員ちょっと異常だし正直顔すら見た事がない。それ以前に生きているかさえ不明なのだ。

という理由から、ぶっちぎりでニークスが選ばれた、と言うわけである。


「そこまで言うならば....わかった。儂が責任を持って一人前に育ててやろう」


「ありがとう。それで2つ目だが、これはまあそのついでに頼む程度の事で、その村を守護してほしい」


依頼というか頼み事の2つ目は村の守護である。

念のために魔力を込めればある程度動いてくれるゴーレムを2、3体ばかし置いておくのだが、そうなるとどうしても対処が遅れてしまう。かと言って俺らが常駐するわけにもいかず、正直村長カルデラの戦闘力には期待できない。

警備隊を作れ、とは言っておいたがやはり若者の絶対数が少ない。

そこでニークスについでにやってもらおう、と言うことだ。


「もちろんその分は別途で報酬は払うから安心してくれ」


「ふむ...いや、それくらいなら依頼という形はいらん。それくらいならついででやってやれるくらいの実力はあるつもりだ。それにお主の頼みとあれば無償で引き受けることもやぶさかでは無いぞ?」


「そうツンデレはいらないから....まあ、じゃあ頼むよ。報酬は....っと、気づいたか」


不意にこちらへと近づいてくる気配が3つ。

あくまで推測だがいつも通り盗聴しようと待ち構えていたがいつまで経っても話し声が聞こえて来ず、今ようやく異変に気付いた、と言うところだろう。

その証拠に気配はそこそこ速い速度でこちらへと移動してくる。

そして、扉がノックされた。


「コホン....どうぞ」


雰囲気と話し方を改めてお嬢様モードへと変更させ、ついでに改変した結界等を元に戻しつつ闖入者を招く。


「失礼します。相談は済みましたかな?」


入ってきたのは3人の男達。

その中で特に目立ついでたちをしているのがこの魔法協会が長、ナンダジェの特徴と合致する。

全身を貴族の如く金銀で塗り固めた30代後半あたりの男性。

その目はニコニコと細めているがその実、常に見下すように顎が突き出されており、座っているとより冷ややかな威圧感を感じることができる。

その取り巻きもナンダジェの恩恵でも受けているのだろうか、服装が明らかに豪華なものである。


「この部屋に時間制限はなかったはずだが?」


「ニークスさん。貴方には聞いていないのですよ?そちらのお嬢様方に聞いているので口を挟まないでもらいたい」


「貴様....」


「ニークスさん、大丈夫ですよ」


ニコッとニークスに目配せしつつ立ち上がりナンダジェに向きなおる。ちょうど身長差が頭一個分あるため、大柄なナンダジェがより大きく見える。心なしかナンダジェの目がちょっと想像したくない方向の熱を帯び始めてはいるが.....ここでちょっと嫌がらせを思いついてしまった。


「それで会長さん自ら、どうされましたか?」


「いえいえ、協会に来る方全員に目をかけるのは会長として当たり前のことですよ。まあそんなことより、優秀な魔法師をお探しだとお聞きしましたが?」


ナンダジェの目が俺の足元から徐々に上へと登っていく。


「そうですね。その点ニークスさんは条件を満たしているので」


「でしたら!私などは如何ですかな?私ならばその"教師"という仕事を全うしましょう。それに私ならば貴女方に"良い思い"をさせてあげることもできます」


......何を高らかに宣言するのかと思えば下ネタかよ。

どうりでさっきから視線が下半身から胸の辺りを行き来していると思った....なに?こいつはぺったんこが好きなんですか?俺は貧乳微乳どころか男なんで無乳ですよ?

できることならこの場で正体でもバラして男に欲情ざまあ、とか言いたいのだができないので、思いついた嫌がらせでも決行しよう。


コホン、と一息いれると俺は一歩下がり、ナンダジェと同じように高らかにうたってやった。


「残念なことに既に私は契約してしまったのです。なので少し前を失礼しますね?ではニークスさん。これが前金です」


演技っぽく身振り手振りを入れながら、ニークスの前にあるテーブルに金貨の袋を1つ叩きつけるように置く。

更に


「そして月の生活費として一月に金貨5枚、2年分として締めて120枚、超過分は1日あたり金貨1枚を追加でお支払いします」


机の上に金貨を積み上げる。

もはやニークスまで固まってしまっているが、それ以前にナンダジェの目が面白いぐらい見開かれており、後ろの取り巻きはもはや腰を抜かしかけている。

それもそのはず、俺が今提示したというかニークスに渡そうとしている金額は机の上だけでこの魔法協会ごと買い取れるであろう金額を優に超えているのだ。

参考までに平均的な4人家族が金貨2枚で一月普通に食べていけるため、今渡した金額は単純計算で平均的4人家族が135組、超過分を含めると2日で1組増える計算だ。

更にここに達成報酬で金貨150枚が加わるのだから、もはやその金額は独身男性が持てる金額どころの騒ぎではない。


「なっ...なんだこの金額は!ふざけるな!お前ら何者だ!」


途端に騒ぎ出す辺りナンダジェはやはり金持ちとかが嫌いらしい。


「さてニークスさん。何やら金の蝿が煩いので私達は帰らせてもらってもよろしいですか?」


「貴様ぁ!私を愚弄するか!小娘風情が、調子にのるなよ!」


ついにはその場で得物である杖を取り出すナンダジェ。

ちなみに金の蝿とは金に集り自身の体を金で染めた蝿、つまりは貴族や豪商などに近づく汚い者を表し、それはここいらの庶民の間では魔法協会の魔法師を表す隠語となっている。

どうやらナンダジェは知っていたらしい。意外と勤勉で若干は感心するが....得物を抜くのは愚策だ。


「おや、こんなところで抜いても大丈夫なのですか?私は一向に構いませんが.....魔法協会が吹っ飛びますよ?」


「貴様何を言って.....」


思いがけず帰ってきた言葉にナンダジェが若干動揺するが、すぐにその口の開閉は止まり、目が見開かれていった。


「.....」


俺の背後、かなり濃密な魔力を活性化させ、ご丁寧に殺気まで混ぜている元魔王様。

およそここいらでは持つ者すら居ないであろう禍々しくも洗練されたその美しい魔力の塊は、確実にこの場をその支配下においている。

ただし影響を受けるのは3人、明白な敵対行動を取ったナンダジェとその取り巻きたちのみがその魔力による精神に直接働きかけるような威圧を感じ、その行動を止めている。

人間、本当に恐ろしい時は逃げるのではなく自己防衛に固まるものだ。


おそらくナンダジェ達にはこの一瞬1秒が1時間にも等しく感じられるだろう。事実、3人の額からは汗が噴き出しナンダジェはかろうじて杖を持っている、と言った状況だ。

なまじ優秀であるが故に敏感に感じ取ってしまう。その魔力が示す意味と逆らった未来が。


「さて、では私達はこれで失礼させていただきます。また明日、同じ時間に」


「あぁ、ではな」


とりあえずキャラを戻した上でニークスに優雅(?)に一礼し、この場から去るべく出口へと歩を進める。お嬢様口調に自信がないのかただ怒って無口かはわからないが、アリアは立ち竦む3人を鼻で笑うように一瞥し、無言で俺の後についた。

魔法協会を出てすぐ、アリアの魔力による威圧支配が終わったのか一斉に人が倒れる音が響いた。





その後、手近な食堂一体型宿の2人部屋を借り、自由時間ということで各々別行動をすることになった。

なんでもアリアは服を見て回ったあとに勝負何ちゃらを買うらしく、いつもなら服を見てくれとうるさいアリアには珍しく単独行動をする、と言い出したのだ。

そういうことなら久しぶりの1人を満喫するべく、俺は1人で気の赴くままにぶらぶらすることにしたのだ。

適当に散策することにかけて帝都は飽きることはないだろう。

ちなみに女装はもう必要がないのでやめ、代わりに目深いローブに杖という魔法使いスタイルに着替えた。


「んー...根本的には変わってないけど3年でやっぱ少しずつ変わるもんだな....」


歩き回って目につくのはやはり記憶とは違う場所。俺の記憶の中において帝都は3年前から全く更新されていなかったため、割と違う場所は違う。

例えば商店街において店の配置は大店舗を除き文字どおり軒並み変わっており、前まで防具店だった場所が武器店になっていたり、鉱石専門の店だった場所はすっかりと宿屋に変貌していたほどだ。

俺がいなくなったたった3年の間でどれほど街が移り変わり、発展或いは退廃していったかを思うと感慨深くなるものだ。


だが。


「それでもここは....変わってないか」


中央通りより離れた東城門近く、まるで牢獄のように周囲を金属製の柵で囲まれた地区がある。そこには異様に建造物が密集しており、まるで迷路のように入り組んだ地形に昼でも薄暗い地域、そこは通称:退廃特区と呼ばれる所謂スラム街が存在していた。

この通称は言い得て妙であり、ここにおいて犯罪とは日常茶飯事であり、強盗、殺人、暴行、禁止物の売買などの犯罪行為がまるで"許されている"かのようにまかり通っている。

故に『退廃する事を許された地区』である。


ではどうしてそんな場所が無くならないのか、それはどこの世にもある複雑で高度な政治的問題などが絡まってくる。

簡単に言ってしまえば退廃特区が犯罪の掃き溜めとされるため、貴族や豪商達における裏取引の現場でもある為に撤去しようとすると都合が悪いものが出てきてしまうのだ。

それに退廃特区を事実上治めている武装集団による地形を生かした攻撃が強力であり、一度正規兵を100人ほど送り込んだところ帰ってきたのは100人分の首だけだったという。

その際に指揮をとっていた宰相は責任をとって辞職し、それ以降退廃特区は干渉禁止アンタッチャブルとして長年最低限度の干渉しかしていないという。


「相も変わらずだな....」


そんな退廃特区の中を進む。

狭い道で衛生状態も良くないが、それでもそこには人の営みというものが確かに存在している。


「おや見ない顔だね....ここに何の用だい?」


声をかけてきたのは煤に汚れた服を纏う老婆だ。

薄汚れてはいるが、別に今にも死にそうだとか目がギラギラしているということはない、見かけない外者を警戒する普通の老婆だ。


「こんちわ。この先の孤児院に用があってね。別にここに悪意を持っては来てないよ」


両手を上げて無罪をアピールする。


「なんだい、それならばちょうどこの婆も同じ目的だ。一緒に行っても良いかね?」


よく見ると手に持つカゴには石灰や木の板などの所謂勉強道具を持っていた。察するに目的地の孤児院の教師か何かをボランティアでやっているのだろう。

あちらもこの退廃特区で暮らしているため、悪意には敏感だっただろう。すぐにこちらに悪意が無いことに気づいたようであった。

こちらも老婆から悪意ある雰囲気等は感じられなかったため、同行することにした。


「それにしてお嬢さん?がこんなところに1人で来るのは感心できぬぞ?」


「俺は男だ。それに、まあここはよく知ってる場所だからな」


「おや、ここの出かい?」


「いんや。俺は...まあ遠い場所の生まれ。ちょっとここの孤児院に縁があってね。もうかれこれ3年以上も顔出してないけどね」


しばらくそんな世間話をしつつ退廃特区の入り組んだ道を右へ左へと進んでいき、やがて少し開けた場所に出た。

そこはまるで砂漠のオアシスの如く二重の意味で日の当たらない退廃特区で唯一日の光が当たる明るい場所である。


「ここも....相変わらず変わっていない」


差し込む陽の光が照らすのは木製の柵に囲まれた庭、そこには退廃特区ではあり得ないほど賑やかであり、汚れてはいるが元気いっぱいな子供達が笑顔で遊んでいる。

その様子は国に見捨てられた退廃特区とは思えない光景だ。


「あっ!先生!」


遊んでいるうちの1人の子供がこちらに気づいて声を上げた。その声に続くように口々に先生という単語が繰り返され、こちらへと駆けてきた。もう俺のことガン無視である。


「これこれ、そう慌てちゃいけないよ。えっと...お嬢さん?はどうするんだい?」


先生こと老婆は子供達に群がれて喜び半分の困り顔でこちらへと問うてきた。


「俺は男だ。先に少し挨拶してくるよ」


そう言って老婆と子供達の下から離れ、庭に隣接するように建っている元教会の建物の方へと向かう。

そこはある程度修繕されているもののやはり退廃特区の建物とわかるくらいにはボロい建物だが、構わず両開きの扉をゆっくりと開けて中へと入っていく。

するとそこには。


「兄さん!そんなドカドカ歩いたら床が抜けるでしょ!?もっとゆっくりと歩いて!」


「す、すまねえって....そう怒るなシル、皺が増えブベッ!?」


「ぶっとばすぞクソ兄」


「殴ってから...言うなよ....」


そんなやり取りが繰り広げられていた。

シスター服で拳を振り抜いた少女にガタイが良いのに吹っ飛ばされる男、とはたから見たら立場逆だろ!と突っ込みたくなるものだ。


「懐かしいな...相変わらずの仲良し兄妹」


「違うわ!って誰.....カミ...兄?」


「いやいや....ユートがこんなところに現れるわきゃねえだろ」


こちらを見て完全に停止するシスター服の女にハハハとどこか空虚な笑いを浮かべる大柄の男。

こういうところも非常に懐かしいものだ。

スキルでの記憶を使わずとも自然と浮かんでくる昔の記憶と今の2人の姿を合わせる。

どちらも少しずつ変わっていた。

だから、俺はこう声をかけた。


「久しぶりだな、見ない間に随分立派になったもんだ」


瞬間、帝都では2度目となる衝撃が俺の体を襲った。

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