第36.5:Diary

side:Karient Empire


とある騎士の日記



私は今日、見てはいけないものをみてしまった。


異世界より降臨された勇者40人の中で唯一、真の勇者の証である聖剣をもった勇者。名をシュン・ハセガワと言う。

顔がよく、運動神経も良い。これまでの勇者の伝承通り頭もよく、多くの仲間がいた。

正直、同じ男としては嫉妬してしまうものだ。


対する相手は勇者の内、上官の間で臆病者の裏切り者として嘲られていた元勇者。名をユート・カミヤと言う。

まるで女性のような顔立ちと華奢な体躯、それなりの格好をしたらおそらくわからないほどの美人になるだろう。特に町娘や、それこそ男装の令嬢などよく似合うだろう。そういえば一部の勇者が侍女の事をメイドと言って興奮していたようだが彼にも似合いそうな気が.......話を戻そう。

とにかくそんな元勇者が勇者ハセガワと対峙した。


事の始まりは勇者育成の一環である迷宮攻略だ。

勇者召喚の歴史上初めてである多数召喚に上官は手っ取り早く経験を積ませるとして勇者39名を3グループに分け、リューター大洞窟にて行う予定であった。

少し前に騒動があったようだが無事収まったようなので私たち勇者護衛の任を得た騎士長エジット以下15人は勇者を護衛しつつ目的地へと向かった。

そこにおいて、出会ったのがあの臆病者で裏切り者である元勇者、ユート・カミヤと出会った。


元勇者ユート・カミヤは側に6人も女性、しかも美人を侍らせていた。背が高くスラリとした美人に赤い髪が特徴的な美少女、兄妹なのかユート・カミヤと同じ白銀の髪を持つ美少女に黒髪を切りそろえた小柄な少女、亜人の中で鳥人種と呼ばれる女性に犬人種の子供、と書いてて疲れるほどには特徴的な美女美少女がいた。なんてうらやま...じゃなくて壮観な....不埒な。


そのことには同じ男としてはさすがに我慢ならなかったのか勇者シュン・ハセガワがつっかかっていった。

いいぞ言ってやれ、と思ったのだが何を思ったのか勇者シュン・ハセガワがやったのは異議ではなくナンパであった。

しかも盛大に拒否られ更には散々に言われる始末であり、私の心には可哀想と思う気持ちとざま....残念と思う気持ちが溢れていた。


だが次の瞬間、具体的には鳥人種と犬人種の2人が奴隷だとわかるやいなや勇者シュン・ハセガワは声を荒げ、勇者たちの中からユート・カミヤに向ける視線に侮蔑の割合が多くなった。

あとで聞いた話なのだが、どうやら勇者達のいた国では奴隷制度自体がなく、人権を第一としているらしい。

つまりは奴隷は禁止され、もし人を奴隷のように扱おうなら国からも民からも罰を受けるとのことだ。

そういう事情のため、私にはわからなかったがユート・カミヤ本人が奴隷をどう扱っていようが勇者達からしたら悪だという。


実際、奴隷自身が良くしてもらっていると自分の意思で言っているならば何の問題もないと私は思う。

奴隷とは所有物ではあるがそれなりの生活をさせてもらっていれば退廃特区の子供やそれこそ戦争孤児よりもよほど良い生活をしているし身の安全も保証されている。

無論、他者を所有物にするのに対して何の抵抗も無い訳では無い。騎士団にも偶に"そういった"用途で運ばれてくることはあるが、その辺りは私も反対だ。


話を戻そう。

その後勇者シュン・ハセガワはユート・カミヤに対し決闘を挑んだ。いや、決闘とは対等に戦うことなのでこれは勇者による一方的な虐待とでも言うべきだろう。

勇者シュン・ハセガワは光り輝く聖剣を抜き、対するユート・カミヤはただの市販の剣だ。対人戦の訓練を積んでいるのに加え聖剣による身体能力向上を含めるともはや戦いにすらならない可能性の方が高かった。


後になって思うとあのユート・カミヤは初期段階とはいえ訓練を行なった勇者、それこそ今の状況と同じ圧倒的な差があるであろう人物を倒していた。

あの時私は現場にいなかったのだが友人から聞いた話によるとユート・カミヤはスキルで作り出された大剣を全て訓練用の木刀でいなし、どういう方法か複数放たれた魔法でさえ消したという。当時はそんなことは与太話の類だと思っていたが...今回の戦闘を見て真実だとわかった。


戦闘は信じられないことに終始ユート・カミヤが圧倒。

通常、私達騎士が教えられている通常武器による聖剣や魔剣に類する上等武具への対処は簡単に言ってしまえば先手必勝。当たらなければなんとかなる、というものだったがユート・カミヤのそれはその考えを破壊していた。

最初の構えは片手剣を両手で持ち、右脇の方へ切っ先を下ろし構える防御のもの。不壊性を持つ聖剣には下策に極まるがユート・カミヤはその絶技神業とも言える剣捌きで聖剣の攻撃を全ていなし続けた。

そしておそらく勇者シュン・ハセガワの意識が緩んだ瞬間を狙って一歩踏み出した攻撃は本気で同郷の者を殺しにかかっている剣であった。


その後は見るに堪えず、勇者シュン・ハセガワは錯乱、破れかぶれの突撃かました後、謎の衝撃により失禁して気を失うという勇者にあるまじき醜態を晒した。

更にはユート・カミヤも逃し、騎士団と勇者一行はたった6人に完全敗北を喫したのだ。

記録に残っているものでおそらく初めてのことだ。


私は、もしかしたら後に語られる神話の一端を目にしたのかもしれない。

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