第26話:襲われている村①

一夜明け、少し早めに出発した俺らは小一時間ほど馬車に揺られていた。


「あぁ.....ユート....暇だ」


しなだれかかるようにして俺の右肩に頭を乗せつつそんな事を吐き出すように言うのは無論アリアだ。

出発して15分までは良かったのだがやはり何も起きず、客どころかすれ違う人すらいないこの現状に耐えきれなくなり、20分を過ぎたあたりからこんな調子である。


「魔力操作の訓練でもしていたらどうだ?それと少しはティファを見習え、魔力操作の訓練をしつつ書類確認までやっとるんだぞ?」


そう言いつつ隣で黙々と資料に目を通しているティファを見やる。

ティファは俺の左側に座っており、アリアとは対照的に開始直後から10分間隔で魔力操作の訓練をしつつ、俺が作成した行商に関する資料を頭に入れてもらっている。

更に言ってしまえば後ろの居住用の馬車にはフィア、ハピア、クラーリ、リグリット、シスルスの5人がそれぞれ親睦を深めており、女三人寄れば姦しいと言うようにさっきから後ろで盛り上がっている。


「対してお前は.....元魔王なんだからもうちょっと頑張れよ....」


「その元魔王なんだから、というのは理解できんが.....仕方ないだろ?暇なものは暇なのだし。逆に聞くがユートは何故にそんな暇そうじゃないんだ?」


「俺は自然風景が好きなの。陽光と風の心地良い日に野原と森見れるなんて俺のとこじゃ貴重だったんだよ」


日本で代わりに見えるのは夏には放射熱でクソ暑いコンクリとそびえ立つ文明の塊....自然に癒しを求めるのはごく自然な事だと俺は思う。


「そんなものいつでも見れるだろうに.....あっ、そうだユート!お前の故郷の話を聞かせてくれ!」


「また唐突な.....まあいいけど、話してなかった?」


「はい。ユート様はご自分の故郷については殆ど何も」


アリアに問うた筈が答えはティファから帰ってきた。

そう言われれ見るとそうな気もしてきた。

残念ながら俺の完全記憶能力である『記憶』は受動的発動ではなく例外ありきの能動的発動なため、こういった記憶しようと思っていないものは正直覚えていない。


「ふむ....丁度良い時だしいいよ。ただし、理解できない事とかつまらない事とか多いからな?」


「ユートを生んだ場所だろ?だったらつまらないわけがないだろう!存分に語ってくれ!」


どうしようハードルを凄まじく上げられた。

いや、正直言って説明しようにも説明下手だしどこから手をつけていいのかがてんでわからない。

....2人とも目をキラキラさせてる.....


「はぁ......そうだな、まずこの世界のように魔法は発達していない。というか存在していない」


「....は?」


惚けたようにポカンと口を開けるアリア。

まあその気持ちはわからんでもない。

この世界において魔法とは地球で言う所の電力のようなものであり、ある所には当たり前にあるものだ。

そんな魔法がない、というのは考えられないことだろう。電気がない生活を想像すればどのくらいか考えられないことかわかる。


「昔はあったとか言われてるけどな。残念ながら今日のその世界においてそういう現象は超常現象として信じられないものの象徴になってる」


日本や中国で言う呪術や陰陽道、西洋で言う黒魔術や白魔術がこの世界の魔法と同義だろう。


「ではユート。どうやって人々は生活しているんだ?まさか火おこしとかでやってるわけではないんだろ?」


「いい質問だな。さて、魔法はなくアリアの言う原始的方法は卒業している。ティファ、前に言ったこと覚えてるか?」


「魔法でもなく原始的でもない........科学、だった気がします」


「よく覚えてたな。そう俺らの世界は魔法がない代わりに科学と呼ばれる学問があってな。それらを学んで生活に生かしてるんだ。その結果、今や俺の国ではほとんどの人間が遠距離通信とかができる」


「....通信コネクトの魔法が皆使えると?」


「魔法じゃなくて科学技術発展の産物な。月にいくらかお金を払うことで遠距離との会話、文章のやり取り、最近では一生かかっても読みきれない量の情報へのアクセスとか、まあこの世界では考えられないほど便利な道具だよ」


「それは....にわかには信じがたい....いえユート様のことなので信じますが。なんと言うか....理解の範疇を超えています」


ティファでも理解の範疇を超えるらしい。

ただ、ティファの瞳には魔法とは違う未知の何かへの興味が写っていた。

その時、ふと昔のティファ、まだ奴隷として買われた当初の死んでいた瞳を思い出しついアリサと同じ娘を見る気持ちになってくる。


「今は無理に理解しなくていい。そのうち頭が痛くなるほど教えてやるからな」


「....私は勘弁だぞユート」


「元から期待してないから安心しろ。それでだ、そんな世界はすごく便利だよ。生活は安定し命の危険はほとんどない。遠くへも気軽に行けるし娯楽も充実だ。戦争すらない」


「.....ではユート様は帰りたいのですか?」


「まさか、逆だよ逆。帰りたくない」


この世界の住人からしたら理想郷のような場所だが、個人的にはあそこは理想郷ではあるがそれはあくまで住めば都精神であって、実際はディストピア、閉鎖された楽園だ。


「なんと言うかな....便利なんだけど人間本来の生き方が変容しすぎていてこことは違う意味で殺伐としている。本気で感情を露わにするのは子供だけ、あらゆる行動が監視されているようで息苦しい.....俺にとってはそんな場所だ」


「....では、親や兄弟はいないのですか?」


「残念ながらな。俺は孤児院の出でな。前回の転移の際にも貰い手はいなかったし、送還された時はずっと1人で学校だけ通っていたという現状.....なんで俺学校通ってたんだ?」


ふと自分で言っておいて疑問が湧いた。

俺のスキルは一度こちらの世界に来た影響で開花し、送還した地球でも何の問題もなく使えていた。

ならば義務教育ではない高校に通ったのはなぜだ?

中卒でも公務員にはなれたはずだし、手持ちの金貨とかを売れば何もせずとも生活できたにも関わらず通っていたとなると、当時の俺の正気を疑う。


「まあ....なんでもいいか、こうして帰ってこれたわけだし」


「そう言ってもらえると嬉しいものだな。っと、そうだユート、話は変わるが今私らが向かっている場所はどこだ?」


「また唐突な.....目的地はいくつかの村とか集落を中継してムレン伯爵領のブクスト区だ。ティファの占いでそこがいいって出てな」


ブクスト区とはカリエント帝国において小さいが比較的重要な地域の総称だ。

理由としてはその地域には古い遺跡等が密集しておりそれに伴って知識人も多い。遺跡からは魔道具が発掘される可能性があるから余計にだろう。

そこを治めるムレン伯爵もそう言った関係の権威だったと記憶している。


「っと、そうこうしてるうちに村が見え.....ん?」


小さな村が視界に入ったと思ったらそこから灰色の煙が登り始めた。

狼煙にしては広いし焚き火にしてはでかい....


「なんだ?ユート、わかるか?」


「これは....ちっ、総員武装!あの村襲われてやがる!」


咄嗟に視力と聴力を魔力でブーストするとその全容が見えてきた。

どうやらあの村は現在進行形で山賊だか盗賊だかに襲われている真っ最中らしい。

いくつかの悲鳴と剣戟の音が耳に入る。


「敵は....10人!指示はするがその後は各々自由にやれ!ハッ!」


さすがに積荷を置いておくわけにはいかないため、馬を叩きスキルの恩恵も兼ねて加速させる。

間に合うか!?あの村の住人は見た所若い男があまりおらず、魔法が使えるような者もいない。

数人は抵抗している者もいるがその武器は粗末な剣や槍、農具などで防具もつけていない。

対する賊は幾分マシな剣と盾で武装し、身体の各所に金属片をつけて防具化していた。


どちらが有利か、火を見るより明らかだ。


「フィア!クロとシロを連れて先行しろ!ハピア達も付いて行きたいならついていってよし!アリアはすぐに襲われてる人に結界を、ティファは医療具の準備!」


そう指示するとフィアはクロとシロ、それにハピア達+シスルスの4人を連れて飛び出していった。

アリアはすぐに杖を構え狙いをつける。

ティファは積荷へと向かい包帯や回復系の薬を選別し救急箱に詰めていく。

俺も村の比較的近くの木に馬を結び、念のため結界を張って村の中へと向かう。


ざっと見た所村側は既に死んでるのが3人、重症2人、対する敵は軽症が2人だけ、リーダーらしき奴はピンピンしている。


「ひゃははは!お前も死ねえ!」


俺に気づいた賊の1人が勇ましく卑しく斬りかかってきたが、剣筋ブレブレ身体の使い方もなっていないド素人、どうやら傭兵崩れや敗残兵の類ではないらしい。


「ふっ!」


「がっ!?」


剣をくぐり懐に入り鋭く息を吐き掌底を腹に当てて勁で吹き飛ばす。無論かなり手は抜いたが、肋骨数本は折ったためまず動くことは叶わないだろう。

ちなみに、賊は捕らえるのが基本のため力の加減が面倒くさい剣ではなく、微妙な調整ができる武術、拳だ。


まあ、力加減によっては拳で殺せるが....


「さて、村のリーダーはどこかな」


何はともあれまずは村長に会ってどういう状況か聞きたいのだが.....かなりの乱戦だ。場合によっては味方から攻撃を受けるかも知れないのだが....


「やぁぁぁぁぁ!」


「ほら来た...って、子供?」


粗末な棍棒、たぶん少し太い薪か何かを持って殴りかかって来たのは1人の少年だった。

歳は恐らく10歳〜12歳程、服装や武器を見てもわかるが、味方だ。大方村人以外の見覚えのない人物を攻撃しているのだろう。だけどそれは勇気じゃなくて蛮勇だ。

小一時間説教をしてやりたい気がしなくもないのだが、今は何より時間がない。


「ちょっと待った待った、おっと」


「ちょこまかと!逃げるな!」


ブンブンと大きく薪を振るい続ける少年、これは頭に血が上って話を聞かないパターンだろう。

早いとこ村長に会って事情とか知らせねばならないというのに.....ええい、面倒くさい!


「ごめん!」


無詠唱で闇魔法の睡眠系を発動させて少年を強制的に眠らせる。一応危険がないように近くの陰に運んで置いて、俺は村の奥へと走る。

途中、女だと調子に乗ってフィアとかハピア、リグリットに襲いかかっていた連中が半殺しになっているのが目に入った。ドンマイだな。


とりあえず人の集まっている場所、位置的には村の最奥で少し大きめの建物、村長の家だろうか?

村側の人数は....30人弱で迫ってる賊は2人+リーダー格1人、まあパフォーマンスも兼ねて派手にやるか!


「ふぅ....はぁっ!!」


ドン!と土煙が立つように盗賊の前へと一足に跳ぶ。


「なっ!....だ、誰だてめぇ!」


突然の闖入者に声を荒げたのは意外なことに村人側だった。賊側はそもそも反応できていないところを見ると、どうやら声を荒げた男性がこの村でそこそこ強い、おそらく殆ど唯一のまともに抵抗できる者だろう。

手にしている槍はそこそこ年季が入っている。

だがその身体には細かい傷が無数についており、満身創痍と言った感じだ。


「味方だ。何か言うのは後にして右の奴を頼む、俺は左の2人をやる。できるよな?」


「味方....わかった、だが後で全部話せ」


どうやら物分かりと状況への適応性は高いらしい。

あまり疑う素振りが見えないのは少々いただけないが、今の状況ではそれがいい方に転がった。

まあ、今の状況は猫の手も借りたい、見知らぬ者の力も借りたいと言った具合だろう。

男は満身創痍の身体を押して言った通り右の賊へと走った。


「さて、俺もやるか.....ふっ!」


「がっ!?」


腰を低く構え、武術的な縮地を利用してまずは中央にいる賊を勁にて弾き飛ばしすぐさまもう1人へと向く。

残る1人、つまりリーダーはそこらの賊とは違い、粗末ながら腕や足、それに胸を覆う金属製の鎧と大剣を持っている巨漢だ。


「なんだ?勇者気取りのバカか?」


「おうおう、仲間やられて余裕だな賊さんや」


「ガハハハ!威勢がいいガキだな。ふむ、お前は売れそうだから生かしておいてやる。仲間1人やったぐらいで調子に乗らないことだな....」


「これはこれは悪党のセリフをどうも。そうだな....じゃあ言葉を返してやろう.....お前は首が高く売れそうだから生かしておいてやる」


ニヤッと口角を上げて笑い、リーダー格を煽ると....


「クソガキが....望み通りぶっ殺してやる!」


見事に乗ってきた。


「死ねやクソガキ!」


リーダー格は大剣を振り上げドシドシと突っ込んでくるが、たぶんこれまで力任せにその大剣で叩き斬ってきたのだろう。その自身が顔にも剣にも溢れている。

なら、いっそのことその鼻っ柱を折ってやろう。

俺は背中から剣を抜く振りをしながら虚空から片刃の片手剣を取り出す。

それを取り出した際、リーダー格はニヤッと笑ったのは今まで通り叩き斬れると踏んだからだろう。


「叩き斬ってやるよっ!!!」


よく喋る奴だな、いい加減舌噛むぞ?

と、そう思いながら振り下ろされる大剣に対し片手剣を斜めに構える。


ガンッ!と激しく金属同士がぶつかり合う。だが、剣が折れる音はいつまでたってもすることはなかった。


「なっ!...どうして折れな」


「さあねっ!」


セリフを全部言わせる義理は無いため驚いているところ申し訳ないがすぐに峰の部分で後頭部を殴打、母なる大地へと強制的にヘッドバットさせ気絶させる。

その後一応念のため武装を解除させ縄でしっかりと縛る。


「さて、終わった」


「まだだ」


皆ももう終わっているだろうし一件落着、と思った矢先、村側の男が槍を向けてきた。


「....なんの真似だ?」


「俺は言ったはずだ、後で全部話せ、と。残念ながら俺はお前を信用できない。こうやって頭を殺して自分が賊の頭になろうとする輩はわんさかいるんでな」


どうやら盗賊社会においても下克上はあるらしい。

だけどこれは少しまずい。いや別にこの男程度ならば何人来ようが瞬殺できると断言できるのだが、この状況であいつらが来てみろ、下手を打てばこいつ消えるぞ。そうなればもうこの村だけでなく周辺の村まで入れなくなり、それを阻止するには村を滅ぼす、賊と同じことをせねばならなくなる。


「わかったわかった、答えるから槍降ろせ?もうすぐあいつらが来て」


「おーい!こっちは終わったぞユートー!」


フラグだったのか.....


「早く槍をを降ろせ馬鹿!死ぬぞ!」


「あぁ!?やっぱてめえ賊の一味か?」


そしてこっちはこっちで死亡フラグがビンビンだ!

かろうじてまだアリア達が賊を運ぶのを嫌がって気付いていないのが幸いなのだが....たぶん風前の灯という言葉がよく似合う。もちろん目の前の男にだ。


「あー.....よし少し向こうで話し合おう。な?俺武器置いてくからそれでいいよな!」


「ざけんな!なんだてめえ....何が狙いだ!」


「叫ぶな馬鹿!気づかれたらお前が....すまん、遅かった」


スッと目を伏せついでに合唱をしておく。

男は顔にハテナが浮かんでいたが次の瞬間、その顔から血の気とかやる気とかいろいろ引いた。


「....貴様、今すぐ死ぬか?」


そんな地獄の大王さまも恐れるであろう冷たく威圧てきな声の主は、無論アリアだ。

既に周囲に無数の魔法による弾丸等を展開している。


「.....」


さながら鋭利な刃物を思わせる眼光で男を睨むのは、言わずもがなフィアだ。

蛇腹剣を器用に駆動させて男を覆っている。


「クラーリ、動いたらやりますよ?」


「うん!」


氷を思わせる冷静な指示と陽を思わせる明るい返事をしたのはもちろんハピアとクラーリだ。

ハピアは腕に双剣を、クラーリは足に片手剣をつけている。


「あいつにやられるよりかはマシだろうな....これ」


そう常識振りながらもしっかりと短剣を男の首に突きつけているのはやはりリグリットだ。

毒の機構剣では無いにしろ人間の急所を知っているために即死できる位置に短剣を持って行っている。


『ユート様!私も準備は万端です!』


テレパシーのように響く声はそう、シスルスだ。

既に刀と化し俺の前に突き立っている。


「な...んだ...よ...これ...」


「あー...ははは....すまん...」


四方八方からの殺気とか剣気とかそういった類のものを受け続ける男には本当謝罪の言葉しか浮かんでこない。

下手をすればこの尋常じゃない死の恐怖で狂ったりするのだけど....幸いにも狂いはしなかった。

ただ、助け舟は必要だろうな....


「はい皆ストップだ。その人は敵じゃなくて味方だから」


「だがユート。こいつはお前に対し槍を向けて少なからず敵意を向けていたが?」


「それはこの状況を見れば必然だろう。ティファ、お前も何か言ってやれ」


生存者の介抱をしていたため、この状況に巻き込まれずにすんだ(ただし参加の意思があるか否かは不明)唯一の仲間にして(最近ちょっとはっちゃけているような気がしなくもない)真面目枠のティファにそう問う。


「そうですね.....確かにこの状況においてその方のやったことは仕方のないことかもしれません.....が」


「が?」


「少なくとも礼も言わず頭を下げる代わりに槍を上げるのは笑止千万、あとこの状態を2時間くらいキープしたらいいと思います」


......訂正しよう。真面目枠なんて存在していなかった。


「だぁ!もう!期待した俺が馬鹿だった!村長か誰か、ここのリーダーはいないか!?」


もうこの際放っておくのが一番だろう。触らぬ神に祟りなしと言うし。

それにちょうど呼びかけに応じて村長らしきご老人が人垣から出てきた。


「私がこの村の村長だが....貴方方は?」


「こほん....私は行商をしておりますミヤ、と言う者です。この先のブクスト区に行く途中、焚き火でも狼煙でもない広い煙が見えたのでもしや、と思い急いで駆けつけた次第です。よかった、皆さんがご無事で」


前の世界の反省と元の性格故かスラスラと嘘八百が出てきたが、特に罪悪感とかはない。

ただ、どうやらここの村長は年の割に鋭いらしい。


「ほぉ....それにしてはお強いですな。まるで兵士...いや、冒険者のようなお方だ。それにそんな商人様がこんな村をお救いくださるとは」


「はははは!私はまだまだ若輩故に多くの所に伝が欲しいのですよ。それに、私達は少し腕に自信があるだけですよ」


「伝、と言いましてもここは寂れた小さな村、賊の人数や強さを鑑みると....リスクとリターンが見合わないと思いますが?」


「それは大丈夫ですよ。なんでもここらの村にはカラメルハニーという特産品があるとか、私はそういった伝が欲しいのですよ」


「ほぉ....」


思い切り腹の探り合いだが、村長の腹を探るような発言はなかなかに大胆なものだ。もし俺が兵士や冒険者、ましてや賊などだったら身の危険すらあるだろうに。

それでもまあ、早めに終わらせないと男がかわいそうだな。


「さて、村長さん。恩着せがましく恐縮なのですが、私はここに来た以上商売の話をしたいのです....よろしいですか?」


「.....いいでしょう。あー...ですが、まずはあの者達をどうにかしてもらえませぬか?そろそろ限界そうなので」


「そのつもりですよ。おーい、そろそろやめてやれ?」


そろそろ男の方が限界だろう。

必死に平静を保っているのだろうが顔なんてもう死人のように青くなっていたり足が尋常じゃないくらい震えている。

もはや威厳などは命があったから良かった、という事で許してもらおう。


「まあ...ユ...お前がいうなら仕方ないか。が、次にこんな事があれば容赦はせんが、いいよな?」


この経験でそんな無謀な事はやってこないだろう。

もはやそれは勇気や義務じゃなくて蛮勇....あっ


「ちょっと待っててもらえますか?生存者を思い出しましたんで」


「?構いませんが....大半の村人はここにいると思いますが?」


「子供ですよ。歳は10歳くらいの男の子。知りませんか?」


「....っ!ローソのとこの倅か...身内が迷惑を...」


どうやらローソという人の子供らしい。

それに村長の反応を見る限りいつも活発というかやんちゃな部分があった子なのだろう。

とりあえず賊は倒すあるいは行動不能にしたはずなので大丈夫だろう。魔法もほかって置いてもあと数時間は保つだろうし、早めに救出してやろう。


「この後の話は商売の話も兼ねて落ち着いたらしましょうか、では」


さっき急かしたわけではあるがよく考えたら商売なんて二の次の状況だったな。


とりあえず俺は男の子を救出兼、村全体の把握等を行うべくその場を村長に任せて向かうことにした。


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