第21話:冒険者達

その夜、念には念を入れて索敵結界と扉に普通の結界を張って眠りについたのだが、案の定めんどくさい事が起こった。

索敵結界内に入ったのは武装した男4人、範囲を広げてみたところ武装集団がこの宿屋を囲むようにして10人。

他にも遠巻きで武装する者が17人。


夜這いには多すぎる。


「いやはや、こんなのに迫られても嬉しくないんだが」


「私らが迫っても嬉しくはないだろうに。まあ、その事は後だな、して、どうする?ハピア達は寝ているが私もフィアも準備万端だが」


そこはさすが十二将だけあって俺が気づいた時には目を覚まし武装を始めていた。

ただしシスルスは久しぶりで疲れたのだろうか未だ熟睡中。


「そうだな、じゃあ3人を起こしてこの街を出ようか。ティファも来るだろうから....近くの森あるいは洞窟で野宿だな。合図次第行くから起こしといてくれ」


「了解した」


とりあえずリューターで大暴れする気は無いため、穏便に済ませられるのなら穏便に済ませたいものだが、たぶん先方はその気ではないだろう。殺気がすごい。

その時、夜中にも関わらずドンドンと扉が乱暴に叩かれた。


「じゃあ....こほん、どちら様でしょうか?」


「....自警団の者だ」


(....嘘をつくならマシな嘘をつけよ)


まずこの街に自警団なんていないではないか。

第一冒険者の一番嫌うのが権力であって冒険者が回していると言っても過言ではないこの街において特に貴族以外が運営している自警団なんてあれば一夜で夜襲に会い壊滅だ。

扉の先にいるのは十中八九冒険者、恐らく昼間の騎士長っぽい奴が俺にそこそこの懸賞金でもかけたのだろう。


まあ、だがあくまでこちらの敵意を悟らせず、穏便に事を進める体というのには変わりないが。


「そうですか〜....して、こんな夜更けに何用で?」


「....いいから開けろ」


自称自警団の声が荒くなり、結界の張ってある扉がより強く、今度はぶち破りそうな勢いで叩かれた。

どうやら意外と扉が固くて苛立ってるらしい、せっかちな性格が扉越しにもわかる。


「おやおやこれはこれは穏やかならざるご様子。何があったのかお聞かせ願えますか?」


「いいから開けろ!さもなくばぶち破るぞ!」


「....そうですか、では今開けます故....前方にご注意を!」


ガン!と内側から思い切り蹴破ってやる。

すると案の定冒険者は(結界により硬質化された)扉により吹き飛ばされ壁に激突していた。まさか他3人とも巻き添えに出来るとは思わなかったが。


まあ何はともあれ結果オーライだろう。

夜中に眠りを妨げるレベルの騒音を響かせるのは些か近所迷惑だとは思うが、どうせ周囲は敵だらけなので構わんだろう。この際子供がいても仕方がない我慢してほしい。

とりあえず吹っ飛んだ冒険者等を【変幻自在の剣製】で作成した返し付き重量小剣等で壁と床に縫い付けておく。一定距離離れれば消えるが、丁度良い時間稼ぎにはなるだろう。


「アリア!」


「全員準備万端だ」


「よろしい。極力誰も殺さずに行きたいけど、相手は仮にも冒険者だ、腕の1、2本やっても構わん!行くぞ!」


クラーリはまだ状況が微妙に飲み込めていないのかフィアに負ぶわれ寝ぼけ眼だがハピアとリグリットはもう戦闘する目に変わっていた。

シスルスに至っては寝起きというのがわからないほどであり、既に抜き身の刀を構えてる。ここのところは愛刀としても相棒としても誇れる部分だ。

ちなみに武器は念には念を入れて俺作の武器をもたせてあるので相当な手練れがいない限り大丈夫だろう。

俺を先頭にハピア、シスルス、フィアとクラーリ、リグリット、アリアの順で部屋を飛び出る。


「ちっ、これ宿屋の連中も協力してやがるな....めんどい、解呪ディスペル!」


廊下には冒険者の魔法師勢が多数の条件発動型の魔法、つまり罠魔法を設置しており、軽い迷宮と化していた。

ここまでして俺らを狙うってことは相当懸賞金がかかっているのだろうか、少し気になりつつ解呪ディスペルの魔法で罠を消していく。


数秒もすれば宿屋の出口が見えてきたため一気に外へと駆け出す。


「.......おいおいおい、俺らにいったいいくら懸賞金かかってんだよ....冒険者同士が協力してるって」


冒険者はパーティーと呼ばれる3〜6人の集団やそれ以下のペア、それ以上のレギオンと呼ばれ、基本的に仲間内以外とは滅多に協力関係を結ぼうとしない。

無論、フリーというものは即席パーティーに入ったりもするが基本的には同じ仲間同士で組むのが常識だ。

理由としてはライバル関係である事、連携等がやりやすくなり生存率、戦闘効率があがることの他に報酬の取り分の明確な設定というものがある。

即席パーティーではこれらが出来ず、最悪連携ミスで自爆、それどころか報酬の取り分を巡って殺し合いを始めることになる可能性もあるし、実際に過去多くのパーティーやレギオンがそんな争いで壊滅している。


だが、相当懸賞金がいいのか俺の目の前には冒険者の集団が陣形を組んでいるのが写っていた。


「目標が出てきた!魔法部隊は詠唱開始!弓部隊は準備出来次第放て!前衛は守りを固めろ!」


その集団の中の1人がそのように指示を飛ばし他の冒険者が「おぉ!」と答えた。

どうやら陣形は盾持ちを前衛とし、その背後に構える近接武器持ち、指揮官が中衛で後衛に弓隊と魔法隊を配置した対魔物用の陣形らしい。

魔王とは称されたが魔物と定められたのは初めてだし、なかなか体験できるものではないだろう。

ただし、いい気はこれっぽっちもしない。


うん、もういいよね?十分我慢した。


「皆はアリアを筆頭に街の外、森へと急いで、ちょっと誰に手を出したかしらしめてくる」


「.....ほどほどにな」


「ユート様、ご武運を」


「皆はお任せください」


「森でお待ちしております」


順にアリア、フィア、シスルス、ハピアがそう言い駆けていった。

それと同時にピュッと黒塗りで見えにくくされた矢が俺の前方を覆い尽くす。


「やれやれ、準備が良いことだ.....風よ」


一言で詠唱を済ませ目の前に風の壁を形成、それにより矢は防がれたが、流石は弓使いの冒険者、すぐに二の矢、三の矢を番え上空と直接の2方向から狙い放ち始める。

しかも今度はタイミングをずらす、という息のバッチリあった連携技まで見せてくれた。


「風よ、集い束ねて、槌を成せ『ウインドブロウ』」


が、所詮はただの矢であり人力の威力だ。

初級の攻撃系風魔法で矢ごと弓使いの冒険者達を吹き飛ばす。

ちなみにわざわざ詠唱しているのは実力の隠蔽と偽造故であり、それ以上の深い意味合いはない。


「弓隊は態勢を立て直せ!魔法部隊はまだか!」


「もう少し.......完了です!」


「魔法部隊、デカイのをぶつけてやれ!」


実力差を見せつけるためにわざわざ待ってやったんだ、せめていいもの見せてくれと思いながら念のために虚空から魔法剣の類を引っ張り出して構える。

すると暗闇がパァっと明るくなった。


「「「『ファイアトルネード』!」」」


「はぁ?!」


ゴウッと俺の正面に巨大な炎の竜巻が出現する。

確かにわざわざ待ちはしたがこれは予想外だった。

詠唱こそ長かったがこれはれっきとした中級の火魔法、しかも同時詠唱で複合してるから威力は格段に上、だけどもこれは本来草原等で使うものであって間違っても街中で使うものではない。

範囲が広く火力も強いため下手をすれば周囲の建物ごと人も燃やし灰にしかねないものだ。


なんだろう、なんでこんなにも俺に突っかかってくる者たちは馬鹿が多いのか。


「本当、馬鹿しかいねえのかここには」


放っておいたらここら一帯の建物が燃えかねない。

別に俺としてはいいんだが、それで死人でも出たら寝覚めが悪いのなんの.....

そんな未来はごめんなだが、対抗属性である水魔法で術者ごと押し流すとそれで街を破壊してしまいかねない

なので代わりに俺は手に魔力を集中させ柏手を打った。

パン!と音が響くと同時に炎の竜巻は掻き消える。


「な....う、狼狽えるな!魔法部隊は再度詠唱、前衛は突撃をかけろ!」


一番狼狽えてんのお前じゃん。

ちなみに今のは俺が編み出した魔法無効化法で簡単に言えば両手の魔力を共鳴増幅させて対象の魔法に干渉させる....まあ、魔力操作による魔法殺しみたいなものだ。

欠点は音に乗せているので制御が利かず、効果範囲が広いので味方の魔法師などにも影響が出ることだが、今となっては関係がない。

宿に廊下の時に使わなかったのは単に気分によるもの。


さて、時間もかけてられないし早めに終わらせようか。


「殺しはしないが....腕の1、2本貰う!」


ヒュっと様々なスキルの恩恵を受けて風を切る速度で集団の中に突っ込む。

いくら壁を固めようと陣形を組もうと、それを超えてしまえば壁も掘りも石垣も意味がない。


「え?あ...ぎゃあぁぁっあぁあ!!」


ズバン!ととりあえず指揮官っぽい冒険者の左腕を肘の部分から斬りとばす。

わざわざ利き腕ではない左腕を狙ったのはせめてもの情け、ただしこれ以上の情けをかけるつもりはないし逆らえば問答無用で斬り殺す。


「......まだやるか?」


魔法剣に目視できるレベルの風を纏わせそう告げる。

正直言って左腕斬りとばしたのも魔法剣に風を纏わせたのもただのパフォーマンスなのだが、時としてパフォーマンスやブラフは大きな武器となる。

実際に今は先ほどの魔法を消したのに加え派手なパフォーマンスをしたおかげで冒険者達全員がまるで化け物と相対するかのように動きや魔法の詠唱の声などが止まった。


「お前らが何を聞いていくら貰ったかは知らないが....よく相手を見極めろ、さもなくば....死ぬぞ」


少しばかりの親切心と多分の警告。

それを聞いて理解したものからそれぞれ武器を置き両手を挙げ始めたため、戦闘はこれで終了となった。

意外と素直でいいやつらではないか、さすが仮にも世渡りする冒険者である。


「す、すまなかった....お前を殺せば白金貨5枚と言われて....ぐっ!」


そう説明してくれたのは俺が腕を斬りとばした指揮官っぽい冒険者。

失った左腕の断面を血に濡らしつつもきちんと説明してくれるあたり渋々この作戦に参加したのだろう。

というか白金貨5枚は驚きだ。白金貨5枚となると豪邸がたつくらいだ。

冒険者は成功している人物達以外はフリーターに近いため白金貨5枚はかなり大きかったのだろう。


ならばまあ、仕方がないか。


「はぁ....ならいい。.....聖なる光よ、ここに集い清浄なる光もってかの者の傷を癒し戻し快せよ『ライフヒール』」


「なっ....お前何を....」


「黙ってろ、あとで恨まれても寝覚めが悪いんだよ.....っと、終了。腕も普通に動くだろう、じゃあ俺はこれで」


斬りとばした腕を指揮官にくっつけ直し、このあといざこざが起きかねないためすぐさまこの場を離れる。

本当は野宿になってしまった小言を言おうとも思ったのだが、指揮官やられたのに黙っている冒険者というのも少ないだろうしあの指揮官、たぶんパーティー組んでるやつがいるっぽいのでこれ以上戦うのは勘弁だ。

案の定、後で何か騒いでいるし.....やはり厄介ごとには早々な離脱に限る。

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