第23話:訓練!

その後、俺は無事アリア達と合流、どうやらリグリットとアリアが野宿できる場所を探していてくれたらしくその晩は森の奥、切り立った岩の壁に空いた洞窟で寝る羽目となった。

今度は邪魔が入らないように洞窟の入り口を土魔法で塞ぎ、さらに隠蔽、遮音、物理結界の三重に結界を張ることにした。

やはり森の中、と言うだけあって魔物や夜行性の動物が多く、たぶん索敵結界も追加してたら寝れなかったと思われる。


「ふぁ〜.....飯作るか」


壁と結界を解き、外に出て顔を洗ってから胸いっぱいに森の朝の空気を吸い込む。

気温は寒くもなく暑くも無い涼しい程度のちょうどいい気候で本日は快晴、ちょっと気分がよかった。

とりあえず台所が無いため土魔法と火魔法、水魔法を利用し即興で台所を森に設置、料理を開始した。

いつも通り調理の手順をなぞっていると程なくして周囲には食欲をそそる匂いが漂い始め、作っている俺の腹も情けない音でくぅっと小さく鳴った。


「さて....完成っと」


本日の献立は現代日本でよくある和洋折衷の朝食。

ほかほかご飯に味噌汁、お漬物と鶏肉サラダ、鮭の塩焼きと少々和食に偏っているが気にし無いでほしい。

それと多いように感じるが個々の量を調節しているため問題はなし、栄養もバッチリだ。

どうせティファが来るまでしばらく野宿だ、1日目は張り切っていきたい。


「そろそろ起きてくるだろ....アリアとシスルスらへんが」


そう思った矢先、案の定2人同時に髪ボサボサで欠伸をしながら起きてきた。


「おはよ、とりあえず顔洗いな?水用意したから」


「「.....」」


この2人は朝弱い組だ。

そしてそれに続くようにして続々と皆が起きてくる。


「おはようございますユート様。今日も朝食は美味しそうですね」


「おはよ、それはそうと涎拭け、いろいろ台無し。皆もおはよ」


ちなみにフィアは朝は強いが若干抜けている。


「おはようございますユート様!朝からお手を煩わせてしない申し訳ありません」


「おはよ、ございます!!」


「.....はよ」


朝からまあいつも通りのハピア、クラーリは非常に元気が良く対照的にリグリットは朝は機嫌が悪そうだった。

近くに流れている小川で顔を洗ってからそれぞれ朝食の並べてある席に座り、各々朝食を開始する。

ちなみに席はどうやら俺以外毎日ローテーションらしく、今日はアリアとフィアが俺の隣らしい。

少し前に1時間くらい話し合ってたが....そんなに時間いらなかったと思う。


20分ほどで食事を終え、英国というわけでは無いが朝食後のティータイムとなっていた。

余談だが英国に朝食後のティータイムという習慣は無く、強いて言うならばブレックファーストティーの延長だ。


「さて、何度目かわから無いけど、今後の予定を話し合おう」


もはや異動先の朝定番の台詞になってきた気がする。

はたしてこれを忙しいというのか充実している、というのかは謎だが、とりあえずめんどくさいのは確かだ。

もうそろそろゲン◯ウの真似も飽きてきた。


「うむ、まあ話し合うのはいいのだが.....どうせティファが来るまで野宿だろ?国の連中もしばらく居座るだろうし」


1人目、アリアの発言でさっそく話し合いの意義が消えた気がしなくも無い。

だがまあ全く議題が無いというわけでも無いのでこの朝の微妙な時間を使用していこう。


「さて、今アリアが言ったようにティファが来るまで野宿は確定だしティファが来るのはもう少し先だ。そうだな....多めに見積もって7日から8日はかかるだろう。そこでだ、この時間をハピア達の特訓に使おうと思う」


本当はリューター大洞窟でのボス戦で戦闘方法などを見せようかと思ったのだが、残念ながらそんな時間はなかったし、入って割とすぐに離れ離れになってしまったので教える時間がなかった。


「私は別に賛成だが.....真剣でやるのか?いくら魔物がいるとしても危ない気がするのだが」


「それなら安心しろ、木刀なんて作ればいい。周囲は森だろ?」


狙ったわけではないが運良く近くには樹齢何百年レベルの大木が無数に生えており、切り倒して木材にするならこれ以上のものはないだろう。


「そういうことか、だがどうやるのだ?」


「模擬戦でもやろうかな、と。やっぱり戦闘を教えるのには直接戦闘が一番だろ?」


習うより慣れろ、が俺の教育方針でもある。

というかそれが一番早いのだ。

まあ、戦闘に限ってはスパルタになってしまうのだが....それはまあ、この殺伐とした世界の常ということで。

ハピア達の顔が青くなったのは見ないふりをしよう。


「じゃあ手早く準備するから皆も準備よろしく」


と、言うことで戦闘訓練をすることにした。

具体的なやり方は1対1での戦闘とし、武器は切り出した木からつくった木製の武具を使用。

勝敗は特に気にはしないが、試合の終了はどちらかが降参を認めるか審判が判断することとし、万が一のために俺は常に近くで見守ることにした。

それと試合する者たち以外は狩りに行ってもらうことにした。森の中でしか味わえないキャンプ飯というのも士気とかの為に大切だ。


程なくして試合準備が整った。


「じゃあまずはハピア対リグリット」


クジの結果1回戦はハピア対リグリット、2回戦はクラーリ対アリア、昼食後3回戦はリグリット対クラーリ、今日最終戦がハピア対アリアとなった。


総当たりだが、1回戦目から面白いカードだろう。

経験や速度ではリグリットが有利だが、種族と戦い方としてはハピアの方が有利、と単純な相性だけではわからないのだから。

それにまだまだ両者共に戦闘力が未知数なため、1対1が見れるというのは俺にとっても皆にとってもいい影響となるだろう。


「リグリットさん、よろしくお願いします」


「あぁ」


両者共に武器を構える。

ハピアは双剣、リグリットは短剣に暗器数種と思い切り戦士対暗殺者だ。


「ではやるぞ、試合開始!」


審判(アリア)の掛け声と共にまず飛び出したのはリグリットだった。

と言ってもそれはハピアへ、というわけではなくリグリットから見て左斜め奥に生えている木へと走った。

ちなみに対戦フィールドは俺が感知結界で囲った縦横100mの正四角形のフィールドだ。

フィールド内には木も入れてあるため、リグリットはその木を利用するのだろう。

自分に有利な地形へと持っていく、戦闘の基本だが、ハピアも一応経験者なためそんなに甘くなかった。


「させません!」


「.....ふっ!」


ハピアが獣人種特有の運動能力でリグリットの前に立ちふさがり、すぐにリグリットに対して攻勢に転じた。

ハピアの双剣とリグリットの短剣がぶつかり合う。

膂力や武器の相性的にリグリットは圧倒的に不利だが、リグリットは切り替えが早かった。


「なっ!?...ぐっ!」


リグリットは短剣を放棄、装備した小手で双剣をいなしながら体術の得意な間合いへと戦闘を持ち込んで行く。

暗殺者としての経験から編み出した完全我流の体術なのだろう。ハピアの双剣を上手くいなしつつ絶妙なタイミングで攻めにも転じている。

それと先程からリグリットは殆ど声を出していない。

これもおそらく暗殺者としての経験からくるもので半分ほど無意識にやっているだろうが、こういった戦闘でも暗殺同様にかなり有用だ。

相手に攻撃のタイミングを悟らせる機会を減らす、という点で声や息遣いを消音化するのは上手い。

現にハピアは攻めあぐねている。


だけど、野生動物とは違いハピアは頭脳ある人間だ。

そうやすやすと負けるようなことはなかった。


「はぁ!」


「!?、ちっ.....」


リグリットが短剣を拾いつつ飛び退く。


(ほぉ....魔力操作か)


ハピアの持つ双剣を視ると薄く魔力が張られており、その魔力はチェーンソーの如く行き来していた。

チェーンソーはこの世界にないはずだし俺も教えていないのだが、どうやら自力で思いついたらしい。

魔力自体は高速循環または高速回転していないため劣化チェーンソーといった具合だが、今の戦いの中で編み出せるのは賞賛に値する発想力だ。


そして、これで一気に戦況が変わった。


「行きます!」


「つっ!?....くそ!」


ハピアの双剣にまともに触れれば切断まではいかないものの切り傷を負うことは目に見えているし、鍔迫り合いに持っていっても武器自体が断ち切られる恐れがある。

だが一方のハピアも長くは持たないだろう。

比較的魔力との親和性が低く、魔法などを苦手としている獣人種であり翼人種であることを考慮すると持って1、2分、長くても3分も持たないだろう。

故に今ハピアに出来ることは勝負を決めに行くことのみであり、この攻勢で決められなければハピアは負ける。


「はぁ!」


「くっ!....」


ハピアの双剣がリグリットの右腕を捉えた。

この試合での初めての負傷にして、痛すぎる負傷だ。

リグリットは当てられた衝撃により短剣を落としており、今度はリグリットが防戦一方となっていた。


「降参、してください!」


「......嫌だね、はっ!」


正面から両者がぶつかる。

リグリットは隠し持っていた暗器で応戦しハピアは魔力を纏った双剣でそれに応じる。

激しい剣戟、と言うわけではないが一瞬たりとも気をぬくことのできない戦闘。

先にハピアの魔力を魔力が尽きるか、リグリットの戦闘続行が不可となるか、面白い展開になってきたものだ。

方や奴隷で方や捕まった暗殺者、果ては同じ運命を辿っていたであろう両者の戦闘、これで面白くないわけがない。


そして。


「くっ...」


先に膝をついたのはハピアだった。


「そこまでだ、2人ともお疲れ様」


アリアの合図ですぐに2人に対して回復魔法をかける。

勝ち負けをつけるつもりはないが、強いてつけるならこの勝負はおそらく引き分けだろう。

証拠にハピアが膝をついてすぐにリグリットも疲労の色濃く膝をついており、殺し合いなら相打ちだ。


「さすが経験者だな。じゃあ...まずはハピア。ハピアは発想力とそれをやってのける才能は非凡なものだ、双剣の扱いも上達したらフィアとも互角以上の戦いができる。が、魔力の効率的操作がまだなってないから今後の課題だな」


一般的に獣人種は魔力の扱いを苦手としている。

それはさっき言ったように親和性が低いから、というのもあるが獣人種はその高い身体能力が十分に武器になることから魔力を重視していなかった結果だろう。

その点ハピアはその考えを今の戦いで軽く断ち切れるほど非凡な柔軟性を持っていることがわかる。

そこを磨きもっと鍛錬すればたぶん十二将に並ぶ戦闘力を持つことができるようになるだろう。

簡潔に言えば逸材だ。


対するリグリットは


「リグリット、お前はすげえな素直にそう思うぞ」


おそらく天性の才能と暗殺者としての経験から独自の戦闘方法を編み出している。


「臨機応変さに相手をよく見て手を変えたりなるべく同じ手は繰り返さないようにしているあたりはたぶん極めればその道のトップクラスにはなる。だが、お前魔力操作めっちゃ苦手だろ」


「うっ!....な、なぜわかった?」


「当たり前だ。さっきの模擬戦で魔力に頼ったのは一回限り、しかも腕への斬撃のダメージを軽減させようとしてミスり、余計な魔力を放出するなんてお粗末にも程があるぞ。ということでお前も今後はハピアと同じ魔力操作だな」


魔力とはその者の内なる力と言っても差し支えない戦闘では重要なものだ。

暗殺者として魔力は感知されやすいため使ってこなかったのだろうが、それだと強敵に当たった場合逃げることすらできない可能性が出てくる。

それに俺がリグリットにさせようとしている薬作りには魔力を使うものもある、故に魔力操作は重要だ。


これでまあ、2人の課題はわかった。


「よし、第2回戦だ。アリア、クラーリ」


「うむ、準備はできとる」


「大丈夫です!」


今回の対戦は正直言ってハピア対リグリット以上に未知数だ。

いや、いくら制限はかけたとはいえさすがにアリアは負けないだろうが、それでもクラーリというカードは未だ実力が読みあぐねているというのが現状だ。

前にアリアが視た時にはハピアのように戦闘狂の一面は見られなかったが、迷宮での戦闘を見る限り素質はあるし子供にもかかわらず思い切りの良さもある。


まあ、戦闘を見ればわかるだろう。


「では、試合開始!」


「土よ、集いて、駆けよ。『ストーンバレット』」


試合開始直後、アリアは素早く魔法を完成させる。

魔法師は一般的にいかに早く相手へと強力な魔法をぶつけるかで勝負が決まる。

特にクラーリに限らず接近戦を間合いとする者に対してはより早く、それでいて近づけさせないようにするのが定石だ。

今回アリアには力をセーブするのと同時になるべく王道に則った戦い方をしてくれ、と頼んだため、十八番の大破壊火魔法ではなく、こういった戦い方をしてくれた。


それでもアリアの魔法センスは凄まじいが....


「ほれほれ、はよ近づいてこんかクラーリ」


「む、無理です!」


「ふはははは、弱音を吐く余裕はあるんだな!土よ、集いて、駆けよ。『ストーンバレット』!」


なんというかアリアが何かに目覚めたようだった。

さっきから変な高笑いをあげて『ストーンバレット』の弾幕をクラーリに向けて張っている。

何気にさっきから避けてるクラーリもすごいといえばすごいのだが....完全に攻めあぐねる以前の問題だ。

開始位置からアリアが一歩も動いていないのに対しクラーリは一歩も前進していない。

アリアという人選ミスったかな....とか思っていたら案の定アリアがふざけ出した。


「ふふふふ.....土よ火よ、集いて、駆けよ!『ストーンバレット』『ファイアバレット』!」


俗に二重詠唱と呼ばれるこの世界特有の技術。

俺にもちょっと真似できない発声方法で同時に詠唱するとかいう超高等技術なのだが、何故あのアリアアホは今、この模擬戦でそんなことをやったのだろう。いや、ちょっと気分が乗って切ったとかいう理由だろうが、クラーリ避けれんぞアレ。


「うわ!」


「....え?」


「わっ、とっとと...」


「は?」


思わずアホっぽい声を出してしまったが、今目の前でクラーリが降りしきる火の弾丸と土の弾丸を全て、紙一重で掠らせもせずに避けているのだから仕方がない。

ただ危なげなく、という点は愛嬌といった感じだがその実ちゃんと全部避けているのだから凄いを通り越して凄まじいレベルだ。

野生の勘、それとも才能なのかはわからないが、どうやら俺は相当運が良かったらしい。


「ほぉ....凄いが、避けてるばかりでは勝てんぞクラーリ!」


「わ、わかってます......いきます!」


どうやって?と思った瞬間クラーリがまたも驚くべき行動に出た。


「つっ!?.....マジかおい!」


クラーリが行ったのは源義経も驚く八艘飛びならぬ八石飛び、飛んでくる石の弾丸を足場にして駆け上がりアリアに接近しようとしていた。

小柄な体躯、圧倒的なセンス、怖気付かない精神、類稀な瞬発力その全てが上手く合わさらないとできないであろう芸術とでもいうべき技術だ。

なんというかここまでくると実はクラーリは伝説の獣人かなにかだと思えてくる。


「....驚きだが....風よ、集い束ねて、槌を成せ『ウインドブロウ』」


「きゃ!?」


だがまあ流石にこれ以上アリアがクラーリにやらせるはずもなく、風魔法で吹き飛ばした。

それによりクラーリは場外へ、模擬戦は終了した。


「そこまで、2人共お疲れ」


「あぁ、にしても驚きだった......なぁユート、何故お前はそんなに素質ある女性を見出すのが上手いんだ?スキルか?」


「失礼な、素質ある女性じゃなくて素質ある人物と言ってほしい.....が、あいにくとその手のスキルは持っていない。全部が全部偶然だよ」


いやまあ確かに十二将はその全てが否応なく強い。

そしてその半数以上がなんらかの問題を抱え、迫害や差別されていた者たちだ。

今待っているティファも文官を育てる目的で買った元奴隷だしフィアもある問題で仲間から見捨てられていた。

そして今回のハピアもクラーリもリグリットも奴隷と暗殺者と問題を抱えている者たちだ。

十二将程、とまでは言わないが一般と比べて素質あり、伸び代は相当あるだろう。

そういうのを思うと、なんだか物語の中の主人公か異世界人補正のようにすら思えてくる。

ちなみにアリアは自分で魔王辞めてるので問題は抱えていない。


「まあ...でも、っとクラーリ!」


「は、はい!」


「よしよし。クラーリはそうだな....もっと実戦を経験して、2人と同じ魔力操作を特訓すれば強くなれる。やれるか?」


「はい!」


「ん、よろしい」


なんというかクラーリは無邪気でかわいい。

十二将にも同じような奴が2人いるが、どうも俺はこの手の子供に甘いらしい。


まあでも、これで今後の訓練予定などを立てることができた。

3人共訓練すれば確実に一級の戦士になることができる。

それこそこれまで弱者として守られる者だったが、これからは守る者となることも可能だろう。

一度救った世でこう言った具体的な目標ができると生きがい、というものが出てくるものだ。子育てかな。

何はともあれ、あとはこの調子でティファを待つだけだ。

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