卒業
今から卒業式が始まる。服装を整え、体育館前に並ばされた。
私は上を見上げた。綺麗な青空と、今にも咲きそうな桜の蕾が見える。ふと吹いたあたたかい風が、忘れかけた春を教えてくれる。
「卒業生、入場…」
穏やかな気持ちの中、その言葉が聞こえた。次々と生徒が進む。私も続いて足を進めた。
最初に出迎える保護者たち。私のお母さんはきっと来ていないだろう。あんなにお母さんを傷つけた娘を、自分の子供だなんて思えるはずがいない。
それは仕方がないことで…受け入れなくてはならないこと…
でも…
もし許してくれるなら…また「お母さん」って呼びたいな。
そんなことを思いながら歩いていると、ある女の人と目が合った。その人はとても綺麗で、一際目立っている。
あれは…
「お母さん…!!」
驚いた。お母さんが来ている。保護者席に座っている。お母さんは驚く私を見て、優しく微笑んだ。
「……っ」
それだけで泣きそうになる。
卒業式で、それも最初から泣くなんて…全然自分らしくない。必死に涙をこらえる。でも無理のようだ。
私は顔を伏せ、スタスタとその場を去った。ずっと噛み続けていた唇は、赤く熱をおびていた。
卒業式が終わり、教室に戻った。教室の中がやけに騒がしい。
「校門のところ見た!?」
「うん!カッコいい人いたね!」
どうやら卒業式で盛り上がっているのではないらしい。席に座ると、愛美が話し掛けてきた。すごく興奮している。
「チカ!チカ!」
「何?愛美まで」
「来てるの!」
「誰が?」
「結平さん!」
思わぬその名前に驚き、席を立った。急いで教室を出る。これで私も騒ぐクラスメートの一員だ。
「はぁ…はぁ…」
外に出て辺りを見回す。たくさんいる保護者の中には、お母さんの姿は見当たらなかった。もう帰ってしまったのだろうか。
「ちーちゃん…!」
校門の近くに立っている誰かが、そう呼んだ。
私をこう呼ぶのは、一人しかいない。
それは私の好きな人で…初めて愛した人…
「結平…!!」
力一杯走る。そして力一杯、結平に抱き付いた。
「…迎えに来たよ」
結平が優しく言う。私は結平の顔をジッと見た。結平が目の前にいることが、まだ信じられない。そんな姿を見て、結平がクスッと笑った。そしてそっとキスをした。
久しぶりに感じるぬくもり…
深い…甘いキス…
確かにここに結平がいる。そう思うと涙が止まらなくなった。
「信じた?」
何でも分かる結平に涙をぬぐってうなずく。そんな私の頭をなでながら、結平はこう言った。
「卒業…おめでとう」
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