出会い

あれから私は数日学校を休んだ。もちろんそれは考えがあってのこと。

そして今日、久しぶりに教室のドアを開けた。

「黒沢さん!!」

多数のクラスメイトが駆け寄ってくる。

「大丈夫?黒沢さん」

「もう学校に来て平気なの?」

みんなが同情してくれる。これが狙いだ。

「みんなダマされちゃだめよ!」

誰かが叫んだ。

「黒沢は先生をハメたんだよ!」

「そうだよ!私の彼氏もそうやって…!」

「黒沢は汚い奴なんだよ!人の彼氏を奪うドロボウネコなんだよ!!」

辺りが静まり返る。叫んだ数人の女子は私が昔付き合った男の彼女かなんかだろう。覚えていないけど。でもこの人たち、本当にバカだよね。結果は見えてるのに…

「…何言ってんの?」

「黒沢さんがそんなことするわけないだろ!」

「彼氏と別れたからって黒沢さんのせいにしないでよね!」

ほらね。

「みんな止めて!そんなに言ったらかわいそうだよ。私なら構わないから…」

そう言って、私は手を目に近付けた。これで泣いているように見えるのだから楽だ。

「黒沢さん…!分かった、席に行こ…」

「みんな…!」

席に向かうみんなを慌てて呼び止める。

「これからは黒沢さんに近付かないでよね!またこんなこと言ったら私たちが許さないんだから!」

最後に強く言われ、その子たちは言葉を詰まらせた。

「なんで信じてくれないの…?なんで…」

それでも弱く言い返したのは誰にも聞こえてなかっただろう。

成績優秀な私とバカなあんたたち…

清潔感溢れる私と汚い派手なあんたたち…

どっちを信じるか目に見えてる。

それから少しして、先生が辞めさせられたと噂で聞いた。


「はぁ…」

財布の中を覗きながらため息をつく。休んだ一週間でお金を使いはたし、財布の中は空っぽ。男に貢がせようと思ったのだが、あの事件以来寄ってくる男はおらず…

「どうしよう…」

昼ご飯すら買えない状況までに達し、さすがに考え始めた。すると下校中、トボトボ歩いているとある文字が目に入ってきた。

「アルバイト募集中…」


「採用!」

店に入って店長と少し話しただけで採用された。

「いやぁ、バイトの子が急に辞めちゃって困ってたんだよー。こんなかわいい子が入ってくれるんなら本当に助かるな」

どうやら店長はいい人そう。

だったら…

「かわいいなんて、私の方こそ助かります。でも本当にバイト未経験でも大丈夫なんですか?」

「いいよいいよ!これから覚えていってくれたらいいし!」

「そうですか、じゃぁよろしくお願いします」

…楽勝。

「じゃぁ明日から来てもらっていいかな?」

「はい、分かりました」

こうして働くことになった帰り道にあるコンビニ。一週間で辞めるつもりだけどそれは言っていない。

ピロピロピロ…

席を立ったとき、店長の携帯が鳴った。

「え!?そんな困るよ!」

いきなり大きな声を出し、私をチラリと見る。そして電話を切ると、申し訳なさそうにこう言ってきた。

「申し訳ないけど今からバイトお願いできるかな?今日のバイトの子が風邪ひいちゃったみたいで…」

こうして今日からバイトをすることになり、いきなりレジに立たされた。

「分からないことがあったら聞いてね」

軽くやり方を教えてもらったが、すぐ覚えられるはずはない。

「あー店長じゃん!」

そのとき、目の前に現われた男。

背が高くて、年上で、明るくて…

そして…

「あぁ丁度よかった。今日からバイトの子がいるんだけどフォロー頼んでいいかな?」

チラリとその男が私を見て、笑ってこう言った。

「女の子なら大歓迎☆」

最悪だ。アルバイトの先輩『櫻井 結平』。一番嫌いなタイプと出会ってしまった。

「ちーちゃん、ちーちゃん」

商品を整理していると話しかけてきた。

「ねぇ、お話ししよ?」

女に慣れてる男は嫌い。相手をする価値もない。男は私の下にいなきゃいけない。

「ちーちゃん、おーい聞こえてる?」

「……」

「ちーちゃん、ちーちゃん!」

……

「ちー…」

「うるさい!」

女に慣れてる男は嫌い…自分のペースが乱されるから…

「なんだ、聞こえてるじゃん!」

にっこりと笑う顔を見て、大きくため息をついた。

「それ、止めてください」

「それ?」

「…ちーちゃんって呼ぶのです」

「なんで?チカだからちーちゃん!かわいいじゃん」

なんだこの男は…全然会話が成立たない。

「だからちーちゃんも俺のこと『結平』って呼んでいいよ」

だからって…どうやったらそうなるわけ?

少し話しただけで動揺する。

やっぱりこの男…嫌いだ。

「ちーちゃん、俺のこと呼んでみて!」

「……」

「ちーちゃんってば!」

私のアルバイトの先輩は…

ムダにかっこよくて、意味不明なバカで、ルックス的には私の相手としてピッタリなのに、女に慣れてる嫌いなタイプ…

つまり…

「お客さんですよ、櫻井さん」

私はこの男は相手にしない。

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