引きこもりVSクラス委員 後編
さて、柚葉さんは一体何をなさっているのだろうか?
左手にはスタンガン。
右手にはスコップ。
問題です。
彼女は一体何をしようとしているのだろうか?
「柚葉?何してるんだ?」
「いえ、なぜだか今日はあの女が来る気がしたので装備を整えていました」
「あの女?」
「はい、あの自己中娘です」
納得。
多分奏杖さんのことを言っているのだろう。
だが、残念ながら今日は彼女から連絡をもらっていない。
つまるところ、柚葉の心配は無駄な________。
『奏杖京:来ちゃいました 』
いや待ちたまえ。
なぜ既にこっちに来ることが確定している?
そこは『行ってもいいですか?』だろ?
確かに一言連絡しろとは言ったけど、なんでそんな事後報告?
それはそれとして、何なんだ柚葉のこの察知能力!?
こいつ超能力者かなにかなのか?
しかも、よく良く考えたらどこからスタンガン持ってきたんだ!?
あと、スタンガンで気絶させた後そのスコップで何するの!?
ヤバイヤバイヤバイ!
このまま奏杖さんが入ってきたら絶対ヤバイ!
下手したら殺人沙汰になる。
『ダメだ!今日は日が悪い!来ちゃダメだ!』
ピンポーン。
来たぁぁ!!!
「おや、誰か来たみたいですね?」
「スタンガン持ったまま出迎えようとするなよバカ!」
「おっと、そうでした。隠しておかないと抵抗されるかも知れません。ありがとうございます先輩」
「ちげぇよ!スタンガンを置いていけ!」
「しょうがないですね。では代わりにスコップを___________」
「置いていけ!」
「では塩酸を」
「やめろ!」
結局、俺が出たほうが安全だと判断した。
つまり、この寒い中、俺が出ざるを得なかった。
「何かあったんですか?」
「いや、気にしなくていい。それとできれば事後報告はやめてくれ」
死ぬぞ?キミ。
「はぁ、了解しました」
納得いかないという顔をしているけれど、一応従ってくれるらしい。
毎回毎回こうではないと信じたいけれど、もし俺がいない時に今回のような事があれば間違いなく奏杖さんは死んでるだろう。
「それで…………柚葉さんはどうしたんですか?」
「あぁ、あの布団に簀巻き状になってるバカか?あいつはああ見えてバカだから仕方ない」
「そうなんですか?相模柚葉といえば天才だと聞いてるんですが」
「それは間違いで、あれはだたのバカだ」
バンバンバン。
何が気に食わないのか足をバタバタさせている。
下の階の人に迷惑だからやめなさい。
「じゃあ俺はコンビに行って来るから、あとは若い二人でどうぞ」
「うぅぅぅぅ!!!!!」
ダダダダダダ!
俺が立ち上がろうとすると、布団が謎の叫びを上げながら走ってきた。
普通に怖かった。
「うぅぅうむむぅむ!」
要約:私を見捨てる気ですか!
「仕方ないだろ?もうすぐ夜なんだし早く行かないと弁当が売り切れる」
「むっむぅむむぅむ、むむうううぅぅむ」
要約:確かにそうですがこんなのと二人きりなんて嫌です!即刻ご帰宅願いたいです!
「いや、せっかく来てくれたんだし友達にでもなればいいだろ?」
「むむぅむむ!むむむぅうううぅ」
要約:誰がこんなのと!私には先輩さえいれば友達なんて要りません。
「お前なぁ、____________いい加減出てこい!」
「むまぁぁぁぁあああああ!」
身体に巻き付けていた布団を思いっきりひったくると、柚葉はくるくると回転しながら姿を表した。
「何をするんですか!せっかく程よく温かったのに!」
「そこかよ!じゃなくて、一回奏杖さんと話してみろ。そんで友達作れ!」
「こんないかにもリア充してますって人とは嫌です!大体先輩だって友達いない癖に!先に先輩が友達作って見本見せてください!」
「うっ……いや、俺はいいんだよ。そのうち出来るからいいんだよ」
「なら私もそのうち出来るのでいいのです」
「外に出ることすらできないのにどうやって作るんだよ?」
「ネットゲームです」
「ネッ友よりもリア友作れよ!」
「先輩、ネッ友をバカにしてはいけませんよ?欲しい素材がどうしても手に入らない時に恵んでくれますし、裏切られてもショックは軽いですし。それに、ネットゲームも結局はリアルの人間が動かしているわけですから、たとえ顔が見えなくてもちゃんとしたリア友です。それとも何ですか?先輩は顔や体型で友達を選ぶのですか?」
うっわぁ、これまた納得のいく屁理屈。
これだから柚葉との口論は嫌なんだよ。
あながち否定出来ないから。
だが、お前は一つだけ大きなミスをした。
それは、この俺に友達の何たるかを語ったことだ!
「残念だったな柚葉。俺は生まれてこの方友達というものを持ったことがない。だから俺は友達を選ぶなんて贅沢なことをしたことがないんだよ!」
「しまった!そうでした!」
おいこら、そこですんなり認めるなよ!
死にたくなるだろ!
「それに、お前の理屈で行くのなら、こんないかにもリア充してますって人とも友達になれるだろ?それともなんだ?あんな綺麗事を並べたくせに自分は見た目で友達を選ぶのか?」
「ただしリア充に限ります!」
いや、リア充してますって見た目してても本当にリア充しているかどうかは分からないだろ。
「大体、裏切られる前提で友達を作ろうとしていることが一番間違ってるだろ?」
「それについては先輩が一番よくわかっていると思いますが、人間いつ裏切るかは分かりません。奴らは平気な顔をして人を裏切るんです。なら裏切られてもダメージが少ないほうがいいじゃないですか。他人なんて信用に値しないんですよ」
驚いた。
柚葉の意見は前までの俺と同じだった。
他人は信用に値しない。
だから深くは関わらない。
だから自分の殻に引きこもる。
だって、それが一番傷つかないのだから。
でも、それじゃダメだった。
他人が自分を救ってくれることもある。
俺はそれを、当時赤の他人だった柚葉から教えられた。
少しは人を信じてみようかと思えた。
俺は柚葉にそれを感じて欲しい。
そう思えるようになって欲しい。
「他人が信用に値しないというのは分かるけれど、その他人をいきなり家に引きずり込んだのはどこのどいつだ?」
「それを言われると何も言い返せません!」
ふっ、初めて勝った。
「あの~、もしかしなくても私の存在を忘れてませんか?」
「「あっ」」
途中から完全に忘れてた。
しかもかなり込み入った話を思いっきり聞かれた。
ここは逃げの一択だ。
「じゃあ弁当買ってくる」
「えっ!?先輩!?」
俺は柚葉の悲痛な叫びを背に受けて、脱兎のごとく逃げ出した。
先輩に見捨てられた?
なんで私がこんな自己中女と二人っきりでいないといけないのでしょうか?
はぁ、さっさと帰ってくれないでしょうかね?
「二人とも仲がいいんだね?軽く嫉妬しちゃった」
「当たり前です!私と先輩はお互いに思い合っているんですから!」
「……やっぱり、お兄さんと柚葉さんは兄妹でも何でもないんですね?」
兄妹?この女は一体何を言っているのでしょうか?
凡人の考えることは全く不可思議です。
「当たり前じゃないですか。誰がそんなバカげたことを言ったのですか?」
「た、確かにあの人も柚葉さんもそんなこと一言も言っていなかったような……」
言ってないです。
というか、あの時私達は一言も話してませんし。
「私、この間あの人から言われたんだ。『キミが何を企んでいて、どんな思惑があるのかは知らないけど、どうか柚葉の友達になりたいという言葉だけは本当であってくれないかな?いや、友達じゃなくてもいい。とにかく柚葉と関わることをやめないで欲しい』って。あれって多分あの人の本音だと思うんだよ。だからてっきり本当のお兄さんだと思ってた。それに……ちょっと憧れちゃったな」
「なっ!」
「なんだか柚葉さんが羨ましいかな。あんな風に想われてて」
「ふふふ、そうでしょう。羨ましいでしょう?」
何でしょうか?この優越感。
これがリア充の気分なのでしょうか?
「ねぇ、柚葉さん。聞いてもいいかな?」
「なんですか?今の私は気分がいいですからね。ちょっとくらい訊かさせてあげます」
「私も先輩?を好きになってもいいかな?」
「はっ!?」
何を言っているのでしょうか!?何を言っているのでしょうか!?何を言っているのでしょうか!?
この女はバカなんじゃないでしょうか!?
既に私と先輩は相思相愛、誰も私たちの間には入れない。
そんなこともわからないのでしょうか?
「ダメに決まってるじゃないですか!私と先輩は最近ようやく落ち着いてきたばかりなんです!今更波風を立てないでください!」
「うん、ごめんね……無理」
「いい笑顔!?」
この女、危険です。
先輩が私のことを本当は愛しているのは知っていますが、この見てくれだけは美少女のクソビッチに迫られたら、意外と浮気性の先輩もどうなるか……。
「分かりました。つまりあなたは私の敵という認識でいいですか?」
「別にいいよ。先輩さんは友達じゃなくてもいいって言ってましたしね」
やはりこの女、当初の予定通り気絶させて山に埋めてきた方が良かったのでは?
「それじゃあ私はそろそろ帰るね」
「さっさと出ていってください!」
「うん、また明日来るね」
「来なくていいです!」
「来るよ。だって先輩さんに会いたいもん」
「会わなくていいです!っていうか先輩を先輩と言ってもいいのは世界でこの私だけです!」
これだけは譲れません。
言わば私のアイ・デン・ティティー!
「了解、じゃあえっと〜。雪麗さん?」
「なんでお前が先輩の名前を知ってます!?」
「Netと電話番号交換したから?」
なんですかそれは!
初耳です!
この女、私が知らない間に既に先輩とのコネクトができている?
これはあれですね。
早急に手を打たなければ。
「それじゃあ今度こそバイバイ!雪麗さんによろしくね!」
そう言って手を振りながら出ていく自己中クソビッチ…………いえ、奏杖叶に私は一言ぶつけておいた。
「もう二度と来るなです!」
そして、帰ってきたら取り敢えず拷問しようと、必要な器具を揃えて先輩の帰りを待ちました。
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