所詮飼い犬の如く

もう一度言うが、今は十二月。

外はものすごく寒い。

唯一の救いと言えば今が昼過ぎで、朝や夜に比べるとだいぶ暖かいところだ。

そうでもなければこんな真冬に外に出ようとは思わない。

小学生の頃は冬でも外で遊んでいたものだけれど、この年になると精神的に難しくなる。

「ホントに俺冬は嫌いなんだよ」

「そうなんですか?」

コンビニの店員(アルバイト)の女の子(杉村ちゃんと呼んでいる)はいつものように俺の愚痴に付き合ってくれていた。

俺は別に杉村ちゃんのシフトを把握しているわけではないのだけれど、俺がコンビニに来ると大抵いるため、最早運命のようなものを感じざるを得ない。

「杉村ちゃんって彼氏とかいるの?」

「彼氏ですか?……お客さんはどう思います?」

「え?そりゃ杉村ちゃん可愛いし優しいからいても不思議じゃないと思うけど」

「か、可愛い……ですか?」

「うん、結構」

メガネっ娘は趣味ではない俺が、杉村ちゃんに至っては許せてしまうくらいだしな。

しかも心遣いはできるし、聞き上手だし、オタクの俺を差別しないし、それこそ都市伝説のような女の子だ。

「ありがとうございます………」

「ん?何か言った?」

「いえっ!なにも!ただどうしてそんなこと聞くのかなって思っただけで」

「そんなこと?……あぁ、彼氏がいるかどうかね」

「はい、それです!」

なんでか…………なんでだろう?

「まぁ、なんとなく……かな?」

「なんとなくなんですか?」

「うん、なんとなく」

なんとなく気になったから、なんとなく聞いただけ。

でももしかしたら、俺は杉村ちゃんを少なからず女として見ているのかもしれない。

少なくとも、うちの雇い主よりはいいお嫁さんになると思う。

だってあいつ柚葉引きこもりだし、働かないし、おれをパシリ扱いするし、どう考えてもお嫁さんにもらうのなら杉村ちゃんのほうがいい。

「そうですね~、彼氏はいませんよ。だから今年もクリボッチ確定です」

マジか!?こんないい娘がフリーだと!?

引きこもり柚葉の世話さえなければ絶対誘うな。

ああ、他人の好きとか恋とか愛なんて信用に値しない。

でも自分の気持ちくらいは信用してもいいだろう。

だって自分が自分に嘘が吐けるはずがないんだから。

「はぁ、誰かいい人いないですかねぇ?高校生の時に一人でこっちに引っ越してからというもの、クリスマスは毎年独りぼっちなんですよね……」

「そうなんだ。俺はそんな経験ないけど」

「そうなんですか?」

「ああ」

毎年毎年、その年の嫁とクリスマスパーティー開いてたからな。

キャラクターの写真を対面に置いて、テーブルの真ん中にクリスマスケーキを囲った。

だから俺はクリボッチなんて味わったことがない。

「そうですか。やっぱりお客さんはモテるんですね」

「いや、全然。これっぽっちもモテませんけど?なにかの嫌味ですか?」

「えぇ!?でもお客さんさっきそんな経験はないって……」

「ないぞ?だって俺には二次元の嫁がいてくれるからな!」

「そ、そうですか。____________よかったぁ、彼女さんがいるわけじゃないんだぁ」

「?」

杉村ちゃんはしばしば小声でなにかを言う。

でも結局なにを言っているのかは聞き取れないままなんだけど。

「ち、ちなみにお客さんはクリスマスなにか予定はありますか?」

「う~ん、今年はたぶん雇い主がうるさいと思うから一日中仕事だと思う」

「そうなんですかぁ_______うぅ、せっかく今年はシフト外しておいたのに……」

「そう言う杉村ちゃんはどうなの?」

「私ですか?私は今年もバイトです。大学生ですから」

大学生だったらむしろ外しておくものじゃないか?その方が友達と遊んだりできるだろうに。

まさか杉村ちゃん友達いないのか?その場合理由はバイトのやりすぎで付き合いが悪いからなんだろうけど、でも一人暮らしじゃあバイトしないと生活できないし、仕方がないのかもしれない。

「うん、頑張ってね」

「………はい、頑張ります。_______あとで店長にシフト変えてもらお」

「じゃあ、これ以上長居しても迷惑だろうし帰るわ。バイト頑張ってね」

「はい、またお越しください」

ぺこりと丁寧にお辞儀する杉村ちゃんに背を向けて、俺はコンビニを出た。

しかし、いくら客が一人もいないからと言ってもコーラ一本買うために長々とレジ前で話すのは流石に不味かったかな?

杉村ちゃん怒られてなければいいけど………。

普通に心配しながら、俺は雇い主の元に飼い犬のように戻っていくのだった。

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