第3話 急襲

 パーティ会場である大広間にはすでに多くの人がいた。思い思いの服に身を包み、ある者は好きな料理を食べながら、ある者はワイングラスを片手に談笑をしながらこの集まりを楽しんでいた。

「先日はうさぎ狩りに付き合っていただきありがとうございますわ。」

「いえいえ、主人の為でしたらどこにでもついて行きますわよ!オホホホホ!」

「この間買った絵画なんだが…、素晴らしいじゃないか!うちの妻も気に入ってくれたよ、いい買い物が出来た、ありがとう!」

「いやそんな…、気に入ってくださって光栄ですよバーバラ様。」

 さすがにお金持ちの会話であろうか、一般人では聞くことのない会話が飛び交っている。その金持ちの中には、フィルロッドがいた。

「セヴィアルの奴、クロイスの為に今日うちに来て女の子を貰っていったんだよ。なのに今日になって唐突にこんなパーティなんて…。クロイスが相当ベタ惚れしたんだろうな。」

 ファーラとクロイスは大広間の入口で待っていた。

「すごいですね…。」

 ファーラはこんな経験をした事がないためただただ目を見張るだけであった。

「皆様クロイス様に婚約者が現れたと聞いて駆けつけたのですよ。」

 遅れてやってきたアズロンはさっきまで手にしていなかった杖を持っている。

「なんで杖なんて持っているんだアズロン?」

 するとアズロンは腰に手を当てて腰を痛めてしまったという身振りをして見せた。

「ったく…、気をつけてくれよアズロン。」

 そして大広間に入ると、クロイス達は熱烈な歓迎を受けた。

「ファーラ、これが君がこの家にやってきたと聞いて集まってくれた人たちだよ。皆さん、お待たせいたしました!私の息子クロイスが、婚姻を前提にお付き合いしております、麗しき美女ファーラであります!」

 クロイスの父であるセヴィアルが挨拶をすると、全員がクロイスたちの方を向き、一斉に大きく拍手をした。待機していた演奏隊もお祝いの演奏を始めた。ファーラは少しうつむきながらもにこやかに微笑みながら

「ありがとう…ございます。」

 とつぶやいた。


「ファーラ、疲れただろう?これでもお飲み。」

 クロイスは二人きりになったテラスで飲み物を差し出した。

「ありがとうクロイス…。」

 ファーラは受け取った飲み物を一気に飲んでしまった。そしてグラスを置いてこう話を切り出した。

「…私なんかでいいの?」

 ファーラのその声は、明らかに明るい口調ではなく、少し自信なさげに聞こえた。しかしクロイスはすぐにこう返した。

「いいんだよ、だから最初の挨拶であんな事言ったんだ。本当に好きだから、婚姻してずっと一緒にいたいから、俺はそう言ったんだよ。」

 クロイスの顔はファーラを守る決心と自信に溢れていた。

「…恥ずかしいな。あのね私、クロイスのことが…」

 ファーラがそのセリフを言い終わる前に、大広間で悲鳴が上がった。

「ご、ご主人様!?ご無事でありますか!?」

「そんな…、こんな事あっていいのかよ…。」

 そこで倒れたのは、この大広間の持ち主であるセヴィアルであった。そしてその悲鳴は次の瞬間、自分自身の血を見る悲鳴に変わった。

「うわぁー!」

「だ、誰かお医者様を!」

「クロイス、お前も身を守れ!この中に命を狙う奴がいるぞ!」

 しかしそんな忠告は、時すでに遅かった。クロイスの腹には、まるで杖のような長い剣が刺さっていた。

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