第2話 画策

 競売は終わり、その"人"に付いてた首輪、目隠し、手錠は取れ、クロイス達に引き取られた。

「クロイス、初めて"買い物"をした気分はどうだ?」

 クロイスは少しうつむきながらもこう答えた。

「不思議な気分だよ、父さん。」


「いやぁセヴィアルだったのか!懐かしいなおい、で今日は何用だ?」

「フィルロッド!懐かしいな、同窓会以来じゃないか!まあ今日はこいつが買い物しに来たもんでな、金出してやるんだ。」

「お前もこんな女の子を買うだなんて、まだまだ元気な野郎だな…。」

 司会だった男はセヴィアルの知り合いであるフィルロッドだった。大学を卒業してからこのサーカス団に入り、身体能力の高さと陽気さで一躍スターにのし上がった。

「いえいえ私なんてもうじき引退するただの老人だ。それよりもこいつの方を気にしてやってくださらんかね。」

 さっきまで壇上にいたフィルロッドはクロイスを見つめてこう言い放った。

「こいつか?…、なんと言うか、壇上から見てたんだが、どうもパッとしない男なんだよなぁ…。特徴がどうも薄いと言うか…。あっ…。」

 フィルロッドは何かを察するように口を抑えた。しかし時すでに遅しであった。次の瞬間クロイスは表情を思いっきり変えた。

「特徴が薄いか…、今この場で一生忘れられねえような"大きな円"、作ってやってもいいんだぜ?」

 クロイスは思いっきり威嚇するように"オーラ"を身にまとった。

「セ…セヴィアル、アルバート家はまだまだ安泰だな!頑張ってくれよ、クロイス君!期待しているよ!」

「調子のいいおっさんだな…。ったく…。」

 どうやらフィルロッドは本気で言ってたわけでは無かったので、クロイスは"オーラ"を消した。


 セヴィアル達は車に乗り込んで走り去っていった。その車が出るのを見送って、フィルロッドは物悲しげにこう言った。

「セヴィアル…。あんたと俺達の秘密、クロイスとあの子になら、教えてやってもいいんじゃないか?」

 すごい高級そうな車に乗せられ、"人"は車の中では一切口を開かずすごく静かで大人しかった。

 しばらくすると大きな屋敷に着いてセヴィアルとクロイスに連れられ"人"も屋敷へ入っていった。

 屋敷はとても広く迷子になりそうで、豪華なシャンデリアや装飾がすごかった。

「さて、私は仕事に戻らねば。クロイス、あとはこの子を頼んだよ。」

 そしてセヴィアルは"人"に対してこう言った。

「クロイスと共にいれる事を、いつか誇りに思う日が来る、その時まで、辛抱強くそばにいてやってくれ。それが私からの願いだ。」

 "人"は小さくだがうなづいて、セヴィアルは微笑んだ。"人"はクロイスに連れられ、2人でクロイスの自室に居た。

 2人とも無言で話そうとせずただ時間だけが過ぎた。

 最初に重い口を開いたのはクロイスだった。

「私はクロイス。お前の名前は?」

 "人"は顔を背け目線は合わせようとしない。だが微かに口を開き小さく答える

「ファーラ…。」

 ファーラが答えると再び沈黙が始まり、クロイスは今後が楽しみという風に凄く小さく笑みを浮かべていた。

 その後クロイスはファーラを部屋に迎えてしばらく話し込んだ。もともとどこに住んでいたのか、何をしていたのか、して欲しいこととしてあげられることは何かを話し続けた。そしてクロイスは、自分の宝箱から何かを取り出した。

「ファーラ、これをあげるよ。」

 クロイスはファーラの手に、ネックレスの箱を渡した。

「これを付けておくといい、万が一の時には天使のご加護があるはずだ。」

 ファーラにニッコリしながら受け取って眺めていた。すると、部屋のドアをノックして、お手伝いのアズロンが現れた。アズロンはクロイスに耳打ちをした。

「…、うん。…、うん。わかった、そこにファーラは連れて良いのか?…、うん。わかった、支度させてやってくれ。」

「どうしましたクロイス様?」

「…、ファーラはこの男と一緒に着替えてきてくれ。」

「アズロンと申します。早速ですがファーラ様、これからあなた様を歓迎するパーティがあります故、お召し物を変えていただきます。」

 言われるがままに、ファーラはアズロンと共に着替えに行った。

「きっと、美しい姿になることであろうな…。」


 屋敷の廊下を少し歩いた先で、2人はヒソヒソと話し出した。

「ファーラ様…、あなたはどのようにしてここに現れたのです?空でもお飛びになったか。」

「それではバレてしまうではないか、アルバート家のお坊ちゃんの懐に入るくらい造作もないわ!…まあ少し惨めな思いをしたがな。」

「まさかあなたがこの家に現れるとは…。"魔界最強のランサー"ファーラ様…。」

「あなたこそ溶け込んでるわよ?"闇夜の支配者"アズロン…いや、フィゴット?」

 その頃セヴィアルは妙な胸騒ぎがした。

 …この家に、「曲者」が忍び寄ってるような感覚がした。

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