グレーワールド(次期更新未定)

クロイス

第1話 出会い

 この物語は天使と悪魔の思惑が交差する「エンビル大陸」で起こった出来事である…。


 エンビル大陸の中でも名門の富豪とされる天使アルバート家。その名はこの大陸中に知れ渡っていた。そんなアルバート家は先々代の曽祖父カーバンが当時未開の地であったエンビル大陸での石油発掘とその利用の先駆けとして、その石油事業で儲けた資金で先代の祖父ラブルスはビルや工場などの巨大不動産投資を行い、さらにその利益で今の代である父セヴィアルは巨大な銀行を運営していた。そのおかげで資金は底なしとすら言われた。

 そんなアルバート家に生まれた御曹司、クロイス。母のカバレッタが武術など達人だったこともあってか、空手などの戦闘能力に優れていた。その為石油・不動産・銀行の次は持ち前の武術を生かして軍隊を牛耳るのではとすら言われた。表では多くの学友を束ねるリーダー的な存在で有名だったが、家での性格は表向きとは似ても似つかなかった。ひ弱で自己表現が下手な青年、どこにでも居るような人物に育った。

 ある休日の昼下がり、クロイスは父であるセヴィアルに連れられて、街のハズレにある見世物小屋に連れられる。サーカスや曲芸、マジックなどを鑑賞した。

「いいかクロイス、世の中は我々だけで回っているのではない。こういう風に貧しくても一生懸命になって芸を磨いて生きている人間もいるんだ。決して馬鹿になんてしちゃいかんよ、わかったね?」

 セヴィアルはクロイスにそう語りかけた。しかしクロイスはそんな言葉よりも、目の前で繰り広げられている空中ブランコを見るのに夢中だった。その後空中ブランコは無事に成功した。ピエロのジャグリングや先住民のような格好をした曲芸師による火を吹くパフォーマンス、そして最後の大技であるトランポリンでの大バク転が決まったところで、ショーはあっという間に終わってしまった。セヴィアルと出かけるのが久々だったクロイスにとっては、とても楽しい1日だと思っていた。しかし、セヴィアルの顔はそれとは対照的に険しい顔そのものであった。

「お、お父様…?」

「クロイス、お前に"特別な"買い物をさせてやろう。誰にも言うでないぞ…。」

 そうやって車に乗り込んでしばらく走ると、先程までショーのしていた見世物小屋になぜか戻ってきた。そこでは、信じられないような光景が待っていた。


 セヴィアルとクロイスの2人が入った見世物小屋は、さっきとは全く空気が違っていた。照明は暗い、ほとんど何も見えない空間で、珍しい動物達が売りに出されていった。数十分経って、司会が大きな箱のようなものを持ってきた。

「さぁさぁ、今日のラストは珍しい物が手に入ったよっ!早速見てもらおうか、ラストはこいつだ!」

 そう言われると司会者はその"珍しい物"をステージに出す。

 その"珍しい物"は檻に入れられ首輪、目隠し、手錠を付けさせられている"人"だった。

 会場は「おぉぉ!」と声を上げ司会者の声で競売がスタートする。

「100万!」

「500万!」

「1千万!」

 どんどん値が上がっていく…。

 クロイスは隣で眺めるセヴィアルに問いかけた。

「こんなことしちゃいけないはずなのに…、父さんはちゃんと法を守れって言ってたじゃないか…、何でなの父さん…。」

 しかしセヴィアルはこんなことを口にした。

「クロイス、確かに悪いことに見えるかもしれん。しかし彼女はそれを望んであそこにいる。見た目こそ確かに奴隷みたいで、いい扱いに見えんかもしれないが、ああ見えても家政婦やメイドみたいな扱いなのだよ。あれは単なる演出なのだ。彼女も望んでいる。クロイスがそろそろ寂しくなる年頃だと思って、話し相手としてあの子を買う、雇おうと思う。あの子の能力は未知数だ。どれくらいの評価をあの女にお前ならする?それを壇上の男に言ってみろ。」

 1億に到達すると次にある1人が放った金額でこの競売は終わりを告げた。

「5億」

 その途端に会場全体は騒然とした。

「あの坊主、正気か!?」

「あんな奴に、ご、5億だと!?」

 司会者もこれには戸惑いがあるらしかった。

「ほ、他にいないのか!?あの坊主より上の値段付ける勇敢なるやつはいないか!?」

 会場全体の注目が一点に集中する。あの額を出したのは他でもない、クロイスだった。彼は自分の意思で、自分の物差しで壇上の少女に5億という評価をつけたのである。

「…。他にいないようだな、このお嬢さんはあそこの坊主の"物"だ!大切にしてやれよ!」

 これには異論がないらしく、会場からは大きな拍手が送られた。


 だか一方で、檻の中に入っている少女はこの状況に絶望しながら、こう呟いた。

「あぁ…私は人形として生きるのか…。」

 この少女は外の様子が全くわからない。自分自身に5億という評価をつけたのがどんな奴なのかは、残念ながら今は見ることが出来なかった。

「きっとすごく怖い人が私を買いに来たんだろうな…、前みたくならないといいな…。怖いよ…。」

 しかし、ここまで落胆している少女だがこの先この出会いによって彼女にとってそれはそれは輝かしい栄光の人生の幕開けであった。それはこの会場の誰も知らない、その輝く未来を知るのは神…、いや悪魔の王のみぞ知るのである…。

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