第7話 真の悪魔

 彼らの目の前で起こった出来事を語る前に、今までをまとめていこう。

 長く続く大富豪の家系である、クロイスとその父のセヴィアルは、サーカス団で人身仲介をするフィルロッドのもとへと向かい、新たに専属召使として超高額でファーラを雇った。なぜか5億というかなり高い価値を付けたクロイスに、会場は騒然とした。自宅に戻ったクロイスは、ファーラに歓迎の意で謎のネックレスを渡す。

 その後セヴィアル主催で、ファーラを歓迎するパーティを盛大に執り行った。しかしその中で、セヴィアルの召使だったはずのアズロンが、セヴィアルとクロイスを急襲。アズロンはフィゴットと名を変え、クロイスを追い詰める。絶体絶命の窮地に立たされたクロイスたちを間一髪で救ったのは、自らを闇の商人と名乗りだした、フィルロッドだった。その後フィルロッドは得意の身体能力を生かして、フィゴットを追い詰めるも、追い詰められたフィゴットは、捨て身の覚悟でクロイスたちに特攻をかける。すると、ファーラの胸のネックレスが光り出した。あのネックレスは、別な種族との間に子を授かった妾の存在ともいえる裏の家系が、歴史の中での功績を記録されない代わりに受けとった、悪魔を滅する力を持つ強力な兵器であった。これで安堵した一同だが、ファーラは悪魔だったのである。その事実を誰一人として知らない中、その光の真下にいたファーラは力尽き、フィゴットは息絶えた。自らの過ちに気が付いたクロイスが、涙をこぼしその涙がファーラに触れた途端、ファーラが突如起き上がった。しかしそのファーラは、明らかに異形の姿となっていた。

 混迷していたであろう物語をまとめるとこのようになる。それでは、ファーラが異形の姿となった後の物語を見ていこう。


 クロイスは混乱していた。

 自らが手渡した身を守るネックレスが、フィゴットを倒した。しかしファーラも息絶えてしまった。なのにそこに立っている。見たこともない姿で。そして自分に対してこう問いかけてきた。

「ありがとうクロイス様、私を"真の悪魔"にしてくれて...。」

 これはどういうことだ?"真の悪魔"?そんなのは聞いたことがない。自分は嵌められた?あの悪魔に対抗するネックレスは偽物?悪魔の力を引き出すものだった?クロイスの頭は、今にもパンクしそうであった。それはどうやら、フィルロッドも同じようであった。

 "真の悪魔"?なんだそれは。俺が引き受けた時には、天使と人間の混血と聞いていた。悪魔の血なんて引いてないはず。しかも引き渡してきたのはお得意様のバーニュさんからだ。あの人が嘘を言うとは思えない。なのにあいつは自らを"真の悪魔"と名乗っている。話が違うではないか。どうなっている。考えろ俺、おかしいぞ。どこで食い違った。

 しかしそんなのを気にするそぶりもなく、ファーラは嘲るような笑いを浮かべながら自らのことを語り始めた。その語り方は、二人の考えていることをすべて見透かしたように。

「私は天使と人間の混血ではない。完全に天使でもない、悪魔でもない、かといって人間でもどちらでもないの。だが私は悪魔よ。そして天使の血を継いでいる。これがどういう意味かは、二人とも頭がいいのだから分かるわよね?私は悪魔であり、天使から見捨てられた堕天使。好戦的な悪魔の血と、地に堕ちた頭脳明晰な天使の血をもってるの。だから私は生まれ育った家を追われ、いろいろな地へ連れていかれた。そして私の正体がわかるたびに、捨てられた。そしてある時に、とても優秀らしい教授の家に行った。そこで私のことをちゃんと知った。私はどうやら100%悪魔の血を受けた者より戦闘技術が上な、"真の悪魔"だって。」

 しかし、話を聞いているクロイスとフィルロッドの二人の脳内では矛盾が起こっていた。彼女は”悪魔を滅する”光を浴びたはず。そして彼女は堕天使と悪魔の血を引いていると言っていた、少しではあるが彼女も悪魔の血を持っている。ならばあの光を受け、あの場で力尽きてしまうまでは飲み込んだ。だがなぜ、彼女は光を浴びたら豹変したのだ?ファーラは話を続ける。

「あなたの家にあるそのペンダントは、確かに悪魔を滅するもの。でもさっき言ったでしょ?完全に悪魔でも天使でもないって。だから体の中の悪魔は死にかけのところを何とか生き延びた。そして追い詰められた時に放つ、悪魔ならではの抵抗力、強大なる力を手に入れられたの。好戦的な血を持つ悪魔が、最っ高に頭がよかったら?」

 ファーラはそういうと軽い身のこなしで、呆然と話を聞くクロイスの背後に立った。

「こんなこともできるのよ、お坊ちゃん。」

 ファーラは手に召還した長槍で、クロイスの体を貫いた。クロイスは不意を突かれ動揺したのか、感じたことのない痛みか、体が全く動かない。

「私は未来が見えるの。その未来、知りたい?」

「てめえ!クロイスになんでそんなことができるんだよ!」

 思わずフィルロッドは声を上げる。

「しゃべりかけるな。」

 この瞬間、フィルロッドの体は宙に浮かんで弾き飛ばされ、近くの木にぶつかった。フィルロッドはこんなに力があることが衝撃だった。

「なぜだ!?この俺が、こんな簡単に...。」

「クロイス、教えてあげようか?あなたの未来...。」

 その途端、クロイスが肘でファーラの腹を突く。まだ動ける余力のある顔だった。

「未来なんざ聞きたくねぇ、生きるのがつまらなくなるだけだ。」

 ファーラは急所を突かれた怒りと、自分を邪険に扱ったショックで、体が震えていた。

「そう、でも教えてあげないと。あなたは死ぬ、私に殺されてね。」

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