第6話 召使いと目覚めた悪魔

クロイスは絶望した、自らのしてしまった行為に。ファーラは激しい光に襲われ、見るも無残な姿で目の前に横たわっている。

「なんで…、どうして…?」

クロイスの目からは涙が止まらなかった。まるで止むことのない雨のように、激しく、そして悲しく涙を流し続けた。

「これは…、どういうことだ?俺は確かに、悪魔ではないものを扱っていたはずだ!なのに…、なのになぜ!?」

フィルロッドは自らのしたことが理解出来ない、とでも言いたげな顔でファーラを見つめた。

「私は…、私はなんてものを持っていたんだ…?こんな力があるなんて…!」

セヴィアルは、自分の息子に何気なく渡したネックレスが、こんな強大な力を持っているとは思ってもいなかった。そしてその悲しみの中で、一人の男が何かを呟き始めた。

「…。…ラを、返せよ。俺らのファーラを返せ!!」

「!?」

声を上げたのは、同じ悪魔であるフィゴットであった。すっかりファーラが倒れたことに気を取られていたのか、フィゴットがまだ倒れていないことには見向きもしなかった。

「ファーラは、俺ら悪魔達の立派なリーダーだったんだ、こんな形で仲間になった俺を一番心配してくれた、そしてお前達と対等に戦えるほどまで強くしてくれた。命の恩人だ。一生涯かけて俺はこいつを守ろうと決意した、それを生きがいとして今日まで生き続けたんだ。…なのに…こんな形で…、こんな形でファーラと離れないといけないなんて!こんなの認めん!認めんぞ!」

フィゴットは大きな声で、泣き叫びながらファーラへの想いを伝えた。

「そうだ…、殺したのはあいつらだ、あいつだ、そうだ…。セヴィアル、そしてその横のガキ!貴様らがファーラを亡きものにしたんだ!」

彼の怒りの矛先は、セヴィアルとその息子であるクロイスに向いた。

「フィルロッドなんて後でどうにでも片付けられる、だがここで貴様ら二人を生かしておけば、今後俺らの同胞たちがどうなるか分かったもんじゃないからな…。今ここで!今度こそ死んでもらうぞ、セヴィアル、クロイス!」

フィゴットは全速力を超えて、セヴィアルとクロイスに突撃した。しかし、あの光をもろに受けていたフィゴットに、攻撃する余力はなかった。

「ウグッ…グボッ……、セヴィアル…グアァ………、クロイス……………、必ず貴様らに………天の裁きが…………下る……………――――――。」

フィゴットはそう言い残すと、ファーラの隣の岩に激突した。まるで、忠義を誓った主を必死に守り抜こうとする、"召使い"であるかのように。

「くそ…、くそ…。俺はその先どうしたらいいんだ…。」

クロイスは一目惚れした女と、今まで献身的に使えてくれた召使いを目の前にして、絶望で泣いていた。涙は頬をつたい、そして女の亡骸の頬に触れた。そんな時だった。女の亡骸が、一瞬だが微かに動いたように見えた。それを見た三人は、視点を一斉をファーラに向けた。

「ん!?ファーラ!!生きてるのか!?」

「今、微かに動かなかったかね?」

「おいおい…、どういうことだこりゃ?」

そして、ゆっくりとではあるが、ファーラは再び動き始めた。しかし、今まで話してきたファーラとは、明らかに異なっていた。あの優しいファーラの形相は、もはや見る影もなく、鬼のような目をクロイスに向けている。

「ありがとうクロイス様、私を"真の悪魔"にしてくれて…♡」


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