第5話 闇の売人と裏の家系

「ここから逃がしてやる、こいつの相手は俺がするさ。」

クロイス達は、どこの誰かもよく分かってない人に命を助けられた。彼はとても長い腕で彼らを守るベールを生み出し、鬼の様な形相で、フィゴットのことを睨みつけた。しかし、クロイス達はこの人がどんな意志で守りに来たのか、そもそもこいつは誰であるのかがさっぱり分かっていない。しかし、クロイスはそんな事もお構い無しに口ごたえした。

「だけど俺がこいつを…」

「下がっていろ、お前にはまだ早い。」

クロイスがムッとした顔を見せ、何かを言おうとした瞬間であった、クロイス達は突然、宙に浮きながら屋敷の近くの岩陰に飛ばされた。

「!?」

クロイス達が驚いている間に、フィゴットは謎の男に話しかけた。

「ん…?見かけない顔だな、お前は何者だ?」

「俺か?俺は…そうだな…闇の売人って所かな?」

フィゴットはその語句だけで、この人物が誰なのか理解した。こいつがどこの誰で、どんな人物であるか、そしてそれらを理解した瞬間、フィゴットの顔は大きく憎悪に歪んだ。

「そうか…闇の売人…。お前はこの屋敷に度々やってきた…フィルロッドだな?」

そう、彼はフィルロッドだった。いつもの仏頂面をして、明らかに似合ってないTシャツを好んで着ているような姿とはかけ離れていた。

「フィルロッド…お前は俺がこの家に向かう援助をしたな、その節はある意味感謝しているよ…。俺がこうやってこの家を没落させる事が出来るんだから…。」

フィゴットは不敵に笑った。悪しき事ばかり考えて生きてきた人のような、気色の悪い笑みであった。

「俺がこの家にやってきたのは、お前が仲介をしてくれたからだフィルロッド。それが何を意味するか分かるか?お前は犯罪者を家に呼び込んだって言う、アルバート家にとって、とても不名誉な汚点を作った戦犯となるのだよ。」

フィゴットは嘲笑った。その顔は、他人を巻き添えに出来たという満足感、そして罪人となるのが自らだけではないという安心感が生んだ、とても汚らわしい笑いであった。しかしフィルロッドは、その汚らわしい笑いを見て、呆れ果てたと言わんばかりのため息をついた。

「フィゴット…、お前は何も理解していない、大甘な野郎だな。何が間抜け共だ、間抜けはてめぇじゃねえかよ。」

「フィルロッド…何が言いたい?」

フィルロッドは続けた。

「フィゴット、確かに俺はその様に記録されるようなことをしたかもしれん。俺は顔写真付きで、これから生まれてくるかわいい坊主共に、こいつはアルバート家を潰した世紀の大犯罪者フィゴットとグルだった売人って教えられるかもしれない。でもフィゴット、その潰した家が"表の家系"ならな。」

フィルロッドはニヤリと笑った。その笑いは確かにフィゴットの嘲笑うのに似ていたかもしれない。だがその笑いは、フィゴットの笑いではない。自分は救われている、自分は何も悪くないという自信に満ちた笑いであった。人間や類人種は、相手の表情を見ただけで、その者がどのように思っているのかが、大体通じると言われている。どうやらそれは今回も例外ではなかったらしく、フィゴットはギリギリと歯ぎしりをした。しかし、フィルロッドは冷静であった。故にフィゴットにこう返した。

「フィゴット。計算が得意だとしても、うちのクロイスなんかにゃ叶わねぇよ。…永遠にな。」

フィゴットは怒りに狂った。自分の目の前の人間を生かしておけば、必ず自らが滅ぶ。先手を打とう、それしかない。フィゴットは腕を振り回してフィルロッドを殴りかかった。しかし、フィルロッドは見切っていた。全て計算の範囲内であった。フィルロッドは腰に付けていた、リボルバー式拳銃を取り出して、腕の関節を打ち抜いた。

「なぜだぁ!?」

フィゴットは蹴りを入れようとした。しかしそれを見透かしていたフィルロッドは、太ももの真ん中を正確に打ち抜いた。

「舐めるなフィゴット、俺には勝てんよ。」

フィルロッドは不敵に笑った。しかしフィルロッドにとって、想定外の事が起こった。奴はフィルロッドに蹴りを入れようとしたのでは無かった。そのままフィゴットは、クロイス達のいる岩陰に突っ込んだ。

「甘いなフィルロッド、お前の考えは外れた!」

「しまった…!」


一方クロイス達は、フィルロッドによって逃がされた事により、完全に安心しきっていた。

「クロイス、大丈夫?」

「クロイス…、私のせいでこんなことになってしまって、本当に申し訳ない。グハッ…」

セヴィアルは咳き込んだ、そして口から血を吐き出した。

「セヴィアルさん…。さっきのアズロンさんの話は本当なの?」

ファーラは涙目になりながらセヴィアルに訪ねた。セヴィアルはその質問に対して、重々しく口を開いた。

「いや…、多分あいつの思い込みか、誰かが罠にかけようとしていたんだろう。私はあいつを信頼していた。クロイスに対してアズロンは、身の回りから勉強まですべてを献身的に支えていた。それなのに…なぜ悪魔なぞに身を売ったんだ!クソ!」

セヴィアルは地面を強く殴りつけた、そして再び血を吐き出した。

「父さん落ち着いて、本当に死んじゃうよ。」

クロイスは背中を叩こうと後ろに回った。しかしその瞬間、フィゴットが恨みに満ちた顔で突っ込んできた。

「死にぞこないのセヴィアル、今度こそ貴様に地獄への片道切符をやろう!」

フィゴットは杖の形をした剣を持って突っ込んできた。

「セヴィアル、クロイス!」

ファーラは叫んだ。その瞬間、ファーラの胸元のネックレスが光を放った。

「!?」

ファーラとフィゴットはその場に崩れた。そしてフィゴットは、さっきフィルロッドが言っていたことを思い出した。


「その潰した家が、"表の家系"ならな。」

そう、クロイスがいるアルバート家は、この世界の史実に名を残す、古来から伝統的に生き続けた家門ではない。実は元々、人間として生を受け、その後何らかの要因で天使との間に子を授かった、"裏の家系"と言われているのだ。その為、確かにアルバート家は今までに数多くの事業を手がけ、偉大なる成功、様々な悪魔や魔物との戦い、そして勝利、それにより勝ち得た、いくら使ってもキリのない巨万の富を勝ち得た。しかしそれらは、この世界の謎の掟として、「時代の流れの中で名前を残すことの出来ない」虚しい勝利の歴史でもあるのだ。

しかし彼らには、そしてその代償として、彼らには悪魔と戦う為の「魔法の道具」がさずけられた。それこそが"デッドペンダント"、クロイスがあの部屋でファーラに与えた代物である。セヴィアルやフィルロッドは今までその話をクロイスにして来なかった。しかし、何故かクロイスは知っていた、自分が裏の家系に生まれた者であることを、そしてそのペンダントが、悪魔を滅ぼすとんでもない力を持つ代物であることも。だがクロイスは唯一失策を犯した。その失策は、あまりにも大きいものだった。

「...!?」

光が薄らいだ途端、クロイスの目に映った光景は、悪魔ではないはずのファーラが、見るも無残な姿で倒れている光景だった。

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